『唯人』
怒りの失せた信長の顔。
死に直面し自らが還り付く場所に戻れたのだろうか。
覇王でも悪鬼でもなく破壊の権化でもなく、
ましてや己の一族の天魔などではなく、唯人として生を終える道を選んだのだろうか。
その生涯で求め続けていた力と秤にかけ、尚それが重く代えられぬ安らぎであった者を浮かべ。朽ち果てる夢に光を
蘭丸
そう呼び、人として信長は死んでいった。
人として。
そう思えた瞬間、今の今まで激情の虜となっていたサスケの心に柔らかなともしびが浮かび上ったような気がした。
抜け忍でも凄腕の忍びでもなく、
ましてや彼一人生かす事の出来なかった天聖、己の一族の直系などでもなく。
(俺も……俺はただ。)
人として。
半ば閉じていた瞼
かわいた風が吹く天舞の里
サスケを確認し頭を下げる者、気付かず話に興じる者、
二名の影、恐らく不知火様……不知火とサガ様だろう。
その手前からひょいと姿を現すザジ。手を振り、変わらず愉快そうであったからサスケも手を挙げそれに応じる。
「カムイ」
やっと見付けた。
映らぬ眼でようやく、彼を見付けその名を呼ぶ。
「カムイ、カムイ」
出会った時と変わらぬ。不器用で融通の利かぬ様に見える程生真面目な表情と、そのままの無二の存在を彼は瞳に焼き付ける。
サスケはゆっくりゆっくり笑い
そしてそのまま呼吸を止める。