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シェアルーム・シェアライフ

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【始まりの朝】




「あーっ、蘭丸先輩!」
 鳥の泣く声が窓越しに聞こえる爽やかな朝は、微かな肌寒さでもって1日の始まりを人々に告げる。
緩やかに動き出す時間には、その日の活力となりうる朝食の芳しい香が漂っていた。
清々しさすら感じられる一時であったが、この日、とある部屋では、青年が上げた高めの大声で以て幕を開けた。
台所に立つ男の背がびくりと震える。
「・・・朝から煩ぇぞ、音也。一体なんだ。」
 眉間に皺を目一杯刻んで振り返る顔は、凡そ爽やかな朝には似つかわしいものであったが、呼び掛けられた青年、音也は全く気付かぬ様子で完成しつつある食卓を凝視していた。
「もーっ、蘭丸先輩、俺の目玉焼きはソースでお願いします、ってこの間も言ったじゃん!」
「知るかっ!朝の忙しい時にんなこといちいち気にしてられっか!塩胡椒しかかかってねぇんだから好きにソースでも何でもかけりゃ良いだろ。」
「微妙に味が変わっちゃうし、先輩の味付けだとちょっと辛いんだよー。」
「嫌なら喰うな!あーっ、それより藍と砂月はどうした。」
 疲れた様子で溜息を吐いた男、蘭丸は、チラリと音也の後方を見遣った。
しかし、彼の視界に入るのは変わり映えのしない景色しかなく、当然彼等以外の人の姿は見えない。
食べるけどぉ、とぼやきながら音也は両手を上げて2つの場所を指し示した。
その先には扉がある。
蘭丸は頭を掻き、壁掛けの時計に目を向けた。
まだ余裕があるとは言え、そろそろ起こして食べさせなければスロースターターの起動が間に合わなくなる。
「起こして来いよ。」
「砂月は良いけど、藍先輩は蘭丸先輩が行った方が良いと思うな。」
 宜しく!、と蘭丸の返事も待たず、音也は扉の1つへと踵を返した。またしても溜息を吐けば、幸せが逃げちゃうぞ?、と能天気な同僚の声が脳内に響き、余計に気分を降下させる。
丁度出来上がった味噌汁の鍋の火を止め、渋々残る扉へと足を向けた。

 ここはシャイニング事務所が所有する第2寮である。
第1寮と何が違うかと言えば、単純に広さが違う。
単身型の第1寮とは異なり、こちらは主に複数人が共に生活することを想定して設計されている為、部屋数も多い。
そこに、今をときめくシャイニング事務所一押しのアイドル12人は3つの組に分かれての共同生活を強いられていた。
この茶番劇の切欠など言うに及ばす、事務所最高権力者の思い付きであった。
本人は気紛れのつもりでも、社長の一言と言うだけで彼らには絶対的な効力を発揮する。
取締役の苦労が目に見えるようだと、誰かが言った。
曰く、『事務所所属のアイドル同士で結束を深め、近い所で相手から学び、切磋琢磨する機会を設ける』とのことである。
マスターコースでも同じようなことをしたというのに、一方的に搾取されるしかない様なお遊びを何故まだ続ける必要があるのかと、蘭丸を始めとする4人は思ったものだが、指導することで見えてくる自らの客観的な姿を省み、初心に帰る為だと更に先輩に当たる男の娘アイドル、月宮林檎に言われてしまえば反論することは難しい。
半ば納得いかないまでも、既に決定したことに反抗するだけ労力の無駄だと、勝手に決められていた部屋割に従い、奇妙な同居生活は始まったのだった。

「藍ーっ、入んぞー。」
 一応ノックをし、蘭丸は部屋に入る。寝ている為返事を待たなかったのではない、寧ろ蘭丸は確信があった為に敢えて一言置いて扉を開けた。この部屋の主、蘭丸の同期アイドル美風藍は、蘭丸よりも余程時間に正確で、己が設定した時刻を寸分の狂いも無く起き上がり、始動する。ただし、起床しているからといって藍が必要以上に早く共用リビングに姿を現すことは無い。藍の朝のスケジュールは、先ずパソコンを立ち上げ、インターネットに接続することから始まるのだ。
「おい藍・・・っ、藍、藍っ!」
 痺れを切らした蘭丸は、背中を見せる藍の肩を揺するという行為よりも前に、手っ取り早いとでも言わんばかりにヘッドホンを剥ぎ取った。高性能で高音質の音を響かせるそれからは、蘭丸達4人が歌う曲のアレンジが流れていた。
「あれ・・・蘭丸、ちょっと、勝手に人の部屋に無断で入って来ないで。」
「ノックしたっつーの。ヘッドホンしてて気付かなかったのはテメェだろ。」
 やれやれ、と言いたげに肩を竦めた藍は、それはどうも御免ね、と、億劫そうに立ち上がる。その言葉を言いたいのは蘭丸の方だったが、朝から余計な体力を使うのも惜しいと、溜息1つで諦める。彼はマスターコースを経て格段に忍耐力が向上していた。
「まぁ、良いや。粗方探り終わったし。朝食?」
「おう。今音也が砂月を起こしに行ってっから、全員集まったら飯な。」
「そっか、それは・・・難航するね・・・」
「まぁな・・・」
 一瞬、まだもう少し情報収集しようかと顔に過らせた藍を見咎めた蘭丸は、藍の手を掴んで引っ張る。朝一で藍がネットに潜るのはこの為だ。時事ニュースといった固いものから、エンタメといったものまで、得てくる最新のネタの範囲は幅広い。その知識の深さや情報の豊富さの恩恵を受けている蘭丸が藍の時間にとやかく口を挟むことは出来ないが、朝のスケジュールがズレこんで後々困るのはお互い様だ。あとはもう1つの部屋の住人が面倒を起こさなければ良いがと、藍の部屋を出た2人は揃って閉じられた扉を見た。

 一方こちらは、同窓の彼を起こしに行った音也である。この同居人は兎に角朝に弱い。これは音也の友人、四ノ宮那月にも言えることであり、流石双子だな、と妙な所で感心していたりするが、思い耽っている状況ではない。音也の場合、時間を気にするというよりも、先程から鳴り響いている彼自身の腹の音の方が大きな理由だった。彼は1日のエネルギーたりえる朝食という時間の重要性をきちんと理解しており、どれだけ忙しくて時間が無かろうと、朝食だけは欠かさなかった。これは習慣とも言える。よって、彼は自身に課せられた、四ノ宮砂月を起こして朝食の卓に引き摺り出すという重大なミッションをクリアしなければならない。『面倒臭ぇから朝食は全員で取る。あとは好きにしろ。』、そう言って、同居生活1日目に年長者である先輩が決めたのだ。ルールとは秩序を守る為に存在している。順守せねばならない。
「砂月ーっ、起きてるー?・・・無いよねー・・・」