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シェアルーム・シェアライフ

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 ノックの後、10秒待っても返事が来なかった為にそろりと扉を開け中を覗いてみたが、予想通りの光景が広がっていて音也は肩を落とす。カーテンの引かれた薄暗い室内、生活感があまり感じられない、殆ど私物の置かれていないベージックな色合いで纏められたシンプルな部屋の、壁際に存在する大きめに作られたベッドサイド、ルームランプの隣に置かれていた筈の目覚まし時計は、粉々に砕かれていた。砂月とて自力で起きようとしているのだろうが、無意識にしている行為であるが故、彼は勿論記憶していない。以前、目覚ましだけでは足りないと携帯アラームを仕掛け、それをも叩き壊した経緯があり、そこは学習したのか、携帯電話は砂月の手の届かない遥か遠くのテーブルの上で沈黙を保っている。普段の、どちらかと言えば見せることが多い険しい顔付きとは違い、穏やかな表情で幼子の如く安らかに眠る彼を起こすなど、毎度のこととは言え偲びない。しかしここは心を鬼にしなければ、料理の腕前が壊滅的な砂月はこのままだと朝食を食べあぐねてしまう。どころか、連帯責任として音也の朝食も下手を打てば確保出来なくなってしまう。厳しい業界を生き抜く為の知識や経験が格段に上である先輩2人は、特に時間を守ることを厳命していた。音也は過去の失敗からも身に染みていることなので、彼らのタイムスケジュールを崩すことだけは何とか阻止したかった。
「ねぇ、砂月、起きてよ、起きてってば!」
布団に包まった大きな肢体を揺さぶる。この程度で目を覚ましてくれるのならば易しいのだが、と音也が揺すり続けていると、うぅん、と唸り声を上げた、薄闇の中にあって尚も眩く輝く金糸が顔を出し、薄目を開けていた。その視線は真っ直ぐに音也に向けられている。
「あっ!起きた?良かったー、もう朝だよ砂月。朝御飯食べよう!」
これで1日の始まりのエネルギーを摂取出来ると、肩の力を抜いた音也は、気付かなかった。ゆらりと伸びた節張った掌が、音也の手首を掴む。
「へ?」
その感触に疑問を持った時には既に遅い。全く気構えていなかった音也の身体は、引かれる力に逆らえないまま傾いていく。行く先は、ベッド。顔面ダイブコース決定である。
「うわぁぁぁ!?」
踏ん張る為の両足すら宙に浮き、音也は悲鳴を上げながら砂月の上に倒れこんだ。突然の暴挙に茫然としている間に、勝手に体勢を変えられ、漸く音也の理解が現状に追い付いた頃、彼は砂月の腕の中に居る。見上げた相貌は、安らかに凪いでいた。つまり、寝惚けていた。
「馬鹿ぁ、砂月!起きろって!先輩に怒られるぅ!!」
どうにかもがいて抜け出そうとするが、那月と同様に怪力である砂月を前に、音也の抵抗など微々たるものでしかない。音也の悲鳴に気が付いた藍が彼らを引き離すまで、音也は無駄な体力を消耗することとなるのだった。

全員が着席し、本日朝食当番である蘭丸が全員の茶碗に白米を盛る。炊きたての米から漂う食欲を誘う香りは空腹感を思い出させる。朝からの騒動でぐったりと項垂れた音也にも、勿論効果があった。今だ寝惚け眼でぼんやりしている砂月も、緩慢な動きで箸を取った。
「ったく、余裕持って用意したっつーのに、結局いつもとあんまり変わらねぇじゃねぇか。」
「別に間に合うんだし、そんなに肩を落とさなくても良いんじゃない。」
「砂月ー、ソース取ってー。」
「…納豆は食わねぇっつっといただろ。」
「ガキじゃあるまいし好き嫌いすんな。」
こうして4人が集まれば、時に関わらず賑やかしくなる。爽やかな空気に溶け込む、楽しげな雰囲気が、食卓を明るくしていた。そうして年長たる蘭丸が音頭を取れば、彼らの1日は始まる。
「そんじゃ。いただきます。」
「「「いただきます。」」」