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ドキプリSS 「独りぼっちじゃない 真琴と猫の数日間」

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『ワン~ツ~スリ~フォ~フラ~イ♪』
 絢爛なスタジオ内に満ち溢れた、剣崎真琴の歌。日に日に上達する彼女の歌声に、スタジオ内の者たちはもちろん、ブラウン管の向こう側の視聴者たちも目を閉じてうっとりと聞き惚れていた。

 番組が終わり、真琴は汗を拭いながら楽屋へと向かっていく。途中ですれ違う人たちに、今日も彼女は「お疲れ様です」と屈託のない笑顔で挨拶を交わしていった。
 やがて楽屋に入ると、彼女はふっと息を吐き、顔をゆっくりと戻していった。
 そのまま肩の力を落として椅子に腰を下ろしていると、楽屋の扉がコンコンとノックされる。
「真琴、お疲れ様」
 楽屋に入ってきたのは真琴のマネージャー、DBだった。
「早速だけど次の仕事の話をしていいかしら?」
「どうぞ」
 歌い終えたばかりの彼女をもっと労う間もなく、DBは懐から手帳を取り出す。
「こないだの『スノー・ホワイト』だけどね、あれが大好評で続編の話が出ているみたい。おおとり環もその話に好意的で、是非また真琴と一緒に仕事をしたいって」
「本当!?」
 真琴の顔がぱっと明るくなる。
「その分だと真琴もノリノリみたいね。いいわ、OKの方向で話を進めてみる」
「頼んだわ」
「あとそれと……」DBは手帳のページを捲った。「これはちょっと無理、かもね」
「無理って?」
 真琴は首を傾げて尋ねた。
「『見せます! アイドルたちのかわいいペット』っていうバラエティ番組の企画なの。まぁ今人気のアイドルたちが飼っているペットを紹介するっていう番組なんだけどね……」
 その話を聞いて、真琴は「あぁ」と頷く。
「確かに、それは無理ね……」
 人間界にやってきてからどれくらい経っただろうか。王女様探しにプリキュア、そしてアイドルと忙しい日々を送ってきた彼女がペットなんか飼えるわけがない。もちろんDBもそのことは承知だ。
 眉を潜める真琴の姿を見て、DBはため息を吐いた。
「まぁこればっかりは仕方がない、か。残念だけどこの話は断っておくわね」
 手帳にそそくさと×印を書くDB。
 そんな彼女を余所に、真琴はしばらく物憂げな表情を浮かべていた。

 ――そういえば王女様も、可愛い動物が大好きだったっけ。


「へぇ、ペットねぇ」
 雨の中、マナと六花、真琴は傘を差しながら学校からの帰路を歩いていた。
「うん……」
「まぁしょうがないわよ。ペットがいないんじゃそんな番組出られないもの」
「いっそダビィが出ればいいシャル」
「ダビィはペットじゃないビィ!」
 明るい会話の中、真琴はずっと俯いたままだった。
「まこぴー?」
 マナがふと真琴の顔を覗き込むと、真琴ははっと我に返った。
「あっ……、ごめん」
「何か様子がおかしいよ? 大丈夫?」
「うん……」
 彼女の弱々しい返事は、雨音にかき消されていた。
 やや重苦しい空気のまま歩き続けた。雨が少しずつ強くなり、三人の傍らを流れる川が激しい音を立てていた。
「ねぇ、あれ……」
 六花が突然、川の下を見つめた。
 真琴たちはその視線の先へゆっくりと向かっていった。雨でぬかるんだ川辺を気をつけながら歩き、ちょうど橋の下に入ると静かに傘を閉じた。
 橋の下に、小さな箱があった。小さなダンボール箱は横雨で湿っており、その中で寒そうに蹲るそれを三人はずっと眺めていた。
「猫?」
 箱の中にいる三毛猫は弱く「ニャ~」と鳴いていた。
「捨て猫かな?」
「多分そうね。首輪が付いているし」
 真琴はふと、首輪につけられたタグを見た。
「『ANNE』……アン?」
 ――王女様と同じ名前だ。
「ねぇ、ちょっと!」マナが突然叫んだ。「この子怪我しているよ」
 そう言われてよく見ると、アンの右足が深く出血していた。
「え、ホントだ!」
「早くお医者さんに見せないと……」
「六花、何とかならないの?」
「そう言われても動物はちょっと……」
 三人が慌てふためいていると、橋の上に一台の車が停まった。
 よく見知ったその車から、これまたよく見知った人物が傘を差しながら降りてきた。
「あら、皆さん。ごきげんよう。こんなところで何をしていますの?」
「ありす!」
 降りてきたありすが三人の足元にいる猫を見て、こくり、と頷いた。
「なるほど、そういうことですのね」
「どうしよう、ありす~」
 しどろもどろになっているマナを見て、ありすの傍に立っているセバスチャンが深く頭を下げた。
「皆様、ここは私めにお任せを。急いで車へ」
 相変わらず頼もしい限りのセバスチャンに言われるがまま、四人はアンを車へ運んでいった。