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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 12

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第44章 ギアナと女勇者


 その昔、シャーマン族とギアナ族との間の争いが終息した時、ナバホ、イエグロスはそれぞれ友好の証として村の宝を交換した。
 その時更に、ある約束が交わされていた。
 将来、ギアナ族の者がシャーマンの杖を持ってくる事があったのなら、その時は再びグラビティの翡翠をギアナ族へ渡すといった約束が交わされていたのである。
 いつまでも友好を保っていく事を目的として交わされた約束であった。
 しかし、シャーマンの杖はすぐに近隣のアネモス族へと渡り、杖は巡り巡ってとうとう今までシャーマン族へ渡ることはなかった。
 それがついに現実のものになった。かなり昔の約束が今まさに果たされようとしていた。
「どうしたの?そんなに黙りこくって」
 目を見開き、頬に汗を流しながら、まるで何かに怯えているのかと思われるほどの形相を、モアパはしていた。
 訊ねたシバを含め、ガルシア達はモアパの様子からただならぬ事情があるのは自明であった。
「どうやら、ご存知のようだな」
 ガルシアは言った。
「ああ、もちろん知っている。それはかつてナバホとイエグロスが友好を誓ってナバホが交換した品、シャーマンの杖!」
 聞いたことも見たこともない者の名前を出され、ガルシア達は一瞬戸惑ったが、やはりサテュロスが言っていた通り杖はこのヘスペリアの地に関係の深いものだったらしい。
「その杖はギアナ族に渡ったもの。つまり、お前達はギアナ族の者だというのか?」
 モアパは訊ねた。
「先程から、ナバホだとか、ギアナだとか仰ってますけど何の事か全く分かりませんが」
 ピカードが言った。
 彼の発言により、更に事態がややこしくなった。正確には、モアパのみが今のこの事態を不測のものに感じていたのであるが。
 一人悶々としているモアパを、ピカードは怪訝そうに見るしかなかった。
――ギアナ族…?――
 全員が訝しんでいる中で一人、モアパの言葉の中で記憶に確かな者がいた。
 なぜそれが記憶にあるのか分からない。しかし、彼女には確かに覚えがあった。
「待って、ギアナの勇者は私よ!」
 シバは言い放った。
 皆は驚き、視線はシバへと集まった。
「シバ、何を言ってるんだ!?」
「落ちついて、ガルシア。ここは私に任せておいて」
 シバはガルシアに耳打ちした。
「君が勇者、だと?」
 モアパは顔をしかめた。
「ええ、そうよ。私こそがギアナの勇者、何か文句でもあるかしら?」
 文句も何もあったものではない、モアパは思っていた。
 年端の行かない女子供が勇者などと言い出したのである。これは疑わざるを得ない事実であった。
「にわかには信じがたい。そもそも女子供が勇者などとは…」
 ナバホもイエグロスも話に聞くところ実に屈強な男であったという。特にもナバホは彼の身の丈を優に越える獣を片手でねじ伏せてしまったという逸話がある。
 しかし、この少女は体が小さいのみならず、力など到底あるようには見えない。
「君が勇者とは全く信じられん。その他の者もギアナ族とは関係ないと見える。お引き取り願いたい」
 モアパは踵を返して家に戻ろうとする。
「ちょっと待ちなさいよ!私が勇者じゃいけないっていうの!?」
 シバは食い下がる。
「聞こえなかったかな?お引き取りいただきたい」
「いーや、あんたが認めるまで絶対帰らないわよ!」
「…もう一度だけ言う、帰るのだ」
「帰らない!」
 シバとモアパの言い争いは収まる気配がなかった。
「クッ…」
 このままでは埒があかないと判断したモアパは不意に指笛を吹いた。フュイ、という甲高い音が辺りに響いた。
 しばらくしてからモアパの元へ二人の男が駆け付けた。男達はガルシアの後方で立ち止まる。
 現れた男達はモアパに負けず劣らずの屈強な風貌をしており、彼ほどではないが、なかなか威圧的なフェイスペイントがしてある。
「来たか、ヴィン、ウィンド」
 モアパは二人の名を呼んだ。
「どうかしたのか、モアパ?」
「この者達は?」
 二人は同時に訊ねる。
「まずは紹介しよう。彼らは双子の兄弟、兄がヴィン、弟がウィンドだ。彼らは私と同じくらいの力を持つ村の戦士だ」
 モアパはガルシア達にこの場に駆け付けた男達を紹介した。
 確かにモアパの言うとおり彼らは双子らしい、とてもよく似ている。まだどこかあどけなさを残し、年はガルシアと同じぐらいに見える。しかし、それを払拭するように二人からは強者の風格が感じられた。
「待たせたな、ヴィン、ウィンド。この者達はよそ者だ、しかし、自らをギアナ族の者と言ってはばからないのだ。モアパにはギアナ族には見えん。そこで、私と同じくらい目の利くお前達を呼んだのだ」
 モアパは双子の戦士に説明した。するとすぐさま二人はガルシア達を見ていく。
「どうだ、ヴィン?」
「俺にもこの者達がギアナ族には見えん」
 二人の意見はモアパと同じであった。
「ちょっと、あなた達突然現れときながら、ただ見ただけで人を判断するなんておかしいじゃない!」
 シバはヴィン達にも食い下がった。
「この娘がギアナ族だと先ほどからうるさいのだ」
 モアパは言った。
 シバはヴィン達を睨む。しばしの間睨み合いが続くと、ウィンドがある提案をした。
「ヴィン、モアパ、私に考えがある。この者達にあれをやらせてみるのはいかがだろうか?」
 ウィンドのいう、あれ、ガルシア達には見当もつかなかったが、モアパ達は一瞬にして理解した。
「なるほど、かつてイエグロスがやってのけた砂を一瞬で消し去るあれか」
 モアパは言った。そしてシバへと向く。
「君達がギアナ族かどうか調べる方法がある。特にそこの金髪の少女、自らが絶対にギアナ族と言い張るのなら村の北にくるといい」
 モアパは言い残すと、さきほど言った場所で待つ、と三人でその場を後にした。
「シバ、どうしてあのような事を?」
 ガルシアが訊ねた。
「私にも分からないわ、だけど、ギアナ族という言葉、なぜか頭の中にあったのよ…」
 シバは答えた。
「さあ、いつまでも疑われたままじゃジュピター灯台には行けないわ。あいつの言うグラビティの翡翠っていうものこそ灯台の鍵よ!」
 言うとシバは行くわよ、とモアパ達に指定された村の北へと先陣を切って歩き出した。
「どうしますか、ガルシア?」
 ピカードが訊ねてきた。
「今のシバは止められそうにないぜ?」
 シンが言った。
「兄さん…」
 判断はガルシアに一任されたようであった。判断は任された上、シバは先に行ってしまった。最早すべき事は一つ。
「シバを追おう」
 ガルシア達も村の北へ向かうのだった。
     ※※※
 シャーマン村の北へと連れられたガルシア達、彼らの目の前にあったのはとてつもないものであった。
 彼らの目の前に広がるもの、それは高々と積み上がった砂の山であった。その高さはガルシア達の背丈などゆうに越え、天辺は見ることができない。
 彼らを驚かせたもの、それはこの砂山だけではなかった。
 その手前にある激しく渦巻く竜巻を模した形をした岩である。これは確か見覚えのあるもの、そう、エアーズロックにもあった、トルネードロックである。
「ここはその昔ナバホとイエグロスが戦ったトライアルロードへと続く道だ」