あの花その後
超平和バスターズ
ゆきあつとつるこが結婚した。
秩父神社で挙式した後、2次会を市内のなじみの居酒屋に場所を移した。
晩夏の町はいい天気だったもののやがて雲が多くなり、2次会に移るころはすっかりあたりは、雨に包まれている。
俺はみんなに祝福されているゆきあつを見ながら、遠巻きにそれを見ていた。
そんな中、連絡が取れなくなったあなるが立ち尽くしているのを見つけた。
俺たちは…いや…俺は高校を卒業した後も夏は秘密基地に集まり、めんまを偲んで花火をしたり
かくれんぼしたり、いつまでもガキのように過ごせると思っていた。
それでもいつか進路を選択しなくちゃならないし、俺には将来の人生の目標ってやつがなかった。
ゆきあつは高校卒業後、東京の大学に進学し、つるこも同じ大学を受験し合格した。
つるこは勉強が大変だって言っていたけど、あいつの目的は進学じゃなくて
ゆきあつに変な虫がつかないようにだろうってあなるから聞いてた。
ぽっぽはずっと新聞配達をしながら金をためて、金がたまると外国にいっての生活を繰り返していた。
人懐っこい性格が功を奏したのかいまでは暇な時間は市役所の観光課で通訳をしているらしい。
ぽっぽ以外に英語やフランス語、スペイン語を話せるやつがいないらしく市役所では重宝されている。
収入がある程度安定したのか、超平和バスターズの秘密基地に住まなくなり、
市内にアパートを借りてそこで生活をしていた。
そして俺は…
居酒屋の前で佇んでいるあなるを見つけた。
「よう、久しぶりじゃねえか、成人式にも顔を出さなかったろ」
「そだね…あれから7年か…」あなるが唇を噛んだ「つるこ綺麗だよね」
「だよなー、昔と変り過ぎてわかなかったろ」
あなるは何も答えなかった。
俺は重い雰囲気を変えるように「あなる今までどこに行ってたんだよ」
「…東京でOLしてた」
「まじでか!? いやー去年の夏も集まったんだけどお前だけこなかったから心配してたんだぜ」
あなるの体が小さく震えてた。
「うそ!! あの日追いかけてくれなかったくせに!!」
「お…おい!」周囲を憚る様に目を配るとそっとあなるを別の路地に連れ込んだ。
「今日だってつるこから聞いたんだからね!!」
「あの時は…悪かったって思ってるよ…」
じんたんの礼服のポケットが震えた。あなるに目配せすると「もしもし?」携帯に答える。
「もしもしじゃないわよ! 今どこにいるの!」
「2次会の代表スピーチ。じんたんがやるんでしょ」
電話口の向こうからつるこの怒った声が聞こえた。
「おいリーダー、早く来いよ」つるこから声がゆきあつに変わって催促してくる。
「ちょっと待ってくれ。いまあなるが来てんだ」
「まじかよ、どこにいるんだ?」
「じんたん、あなるに代わってくれる?」少しだけトーンを落としたつるこ。
「え?…おう。あなる。つるこからだ」
「つるこ?…何よ…?」
つることあなるが何事が話し合ってるのを俺はそばで聞きながら、
今年の手紙の内容を思い出していた。
めんまと二度目のさよならをしてから、俺たちは夏だけは必ずあの秘密基地に
めんまに手紙を送り続けてるよな。
めんまのおかげで幸いにも高校は単位不足での留年は免れた。
高校を卒業した後、特にやることのなかった俺は地元でそのままアルバイトを続けている。
おやじに頼まれて、近くの遺跡の発掘や保全の手伝いをして家計の足しにしていたが、
実家を出るという選択はしなかった。
なんだろうな、俺の中に何かがくすぶっているものは。
ゆきあつは俺が行きたかった高校で学年1位を取ったらしい。
らしいってのはゆきあつは話してくれなかった。けど、つるこが教えてくれた。
ゆきあつはつるこの気持ちに気づいてないらしいが、俺もぽっぽもつるこの気持ちは知っていた。
高校のときはバレンタインチョコを後輩から預かったふりをして渡していた。
そんなところもつるこらしい。
ゆきあつは東京の大学で行政学を学び地元で市会議員を目指すと話してくれた。
この夏晴れて、地元の市議会選挙の立候補するらしく同棲生活もままならないと話してくれた。
つるこもゆきあつに引っ張られて東京の大学いったが、勉強よりもゆきあつの監視が大変だって
笑っていた。
文学部に入ったものの、ゆきあつの面倒と周りについていくだけで必至って…何をしているんだか。
大学卒業式にゆきあつはその場でつるこにプロポーズをした。
つるこもその場でOKした。泣いていたな。
ぽっぽは市役所の観光課と新聞配達で生計を立てながら、次の旅行先を決めかねている。
というのもぽっぽ以外に碌に英語を話せる職員がいないので悉く長期休暇が断られてしまい
最近なんか泣く泣く台湾の三泊四日の旅行が精いっぱいだと愚痴ってた。
久しぶりだなこんなに長く手紙が書けたのは。
いつも短くてそっけない文しか書けなくて、すまないと思ってる。
いつもだったら元気か?とか書けるんだよ…
でも、あそこがなくなってもう書けなくなって…俺…
めんまは手紙を渡す日は満天の星空をお礼にくれてたな。
みんな前を向いて進んでいるんだ。
なのに…なのに俺だけ…
「…た…ん! じんたん!」
「ん? 何?」きょとんとした顔であなるを見つめる。
「つるこから!」突きつけるようにして手渡された電話を見つめる。
あなるは携帯を手渡すと駅前の方に歩いていってしまった。
その姿を目で見ながら「つるこ? かわったけど?」
「じんたん? 今日はいいわもう」
「なんだよそれ!」
「スピーチは中学の…そう…あいつに代わってもらったから」
「リーダー、あなるは近くにいる?」唐突にゆきあつにかわりじんたんは電話を落としそうになる。
「あいつなら怒ってどっかいった」不機嫌おうにつぶやく。
「追いかけなきゃダメだろ! おまえ気付いてたんだろ! あなるの気持ち」
「なんでそんなことゆきあつに怒られなきゃないんだよ」
「いいから追っかけろ!」
「だからなんで!?」
「そんなの俺の口から言わせたいのか?」雰囲気の変わったゆきあつにじんたんが息をのむ。
「…」
「じんたん…ぽっぽじゃねーけどお前はすげーんだよ。それは俺たち超平和バスターズが知ってる」
ゆきあつの後ろから賑やかな雰囲気が伝わってくる。
「だから…リーダー…かっけーってところを見せてくれ…」
時刻はもうすぐ夕刻となろうとしている。空は今にも泣きだしそうだった。
じんたんのばかぁ…
私の気持ちなんてとっくに気づいていてもらえているもんだと思ったのに…
夏とはいえ山の中では陽は木々に遮られ昏くなる。
駅から記憶だけを頼りに歩いてみても、あの橋は遠かった。
子供のころはこんなに遠くまで来ていたんだ。
小さい子供の足で野山を駆け巡り、山の中に小屋を見つけたとときは最高の気分だった。
目にするすべてのものが新しく輝きに満ちていた。
大きくなって大人になり、めんまとのことがひと段落して都会へ出ていったときはじめての経験は挫折だった。
小さい会社でOLをしたものの、おりからの不景気で会社は倒産。
色々な会社を渡り歩き、やっとここまで生きてきたというふうで、大見得を切って出た
ゆきあつとつるこが結婚した。
秩父神社で挙式した後、2次会を市内のなじみの居酒屋に場所を移した。
晩夏の町はいい天気だったもののやがて雲が多くなり、2次会に移るころはすっかりあたりは、雨に包まれている。
俺はみんなに祝福されているゆきあつを見ながら、遠巻きにそれを見ていた。
そんな中、連絡が取れなくなったあなるが立ち尽くしているのを見つけた。
俺たちは…いや…俺は高校を卒業した後も夏は秘密基地に集まり、めんまを偲んで花火をしたり
かくれんぼしたり、いつまでもガキのように過ごせると思っていた。
それでもいつか進路を選択しなくちゃならないし、俺には将来の人生の目標ってやつがなかった。
ゆきあつは高校卒業後、東京の大学に進学し、つるこも同じ大学を受験し合格した。
つるこは勉強が大変だって言っていたけど、あいつの目的は進学じゃなくて
ゆきあつに変な虫がつかないようにだろうってあなるから聞いてた。
ぽっぽはずっと新聞配達をしながら金をためて、金がたまると外国にいっての生活を繰り返していた。
人懐っこい性格が功を奏したのかいまでは暇な時間は市役所の観光課で通訳をしているらしい。
ぽっぽ以外に英語やフランス語、スペイン語を話せるやつがいないらしく市役所では重宝されている。
収入がある程度安定したのか、超平和バスターズの秘密基地に住まなくなり、
市内にアパートを借りてそこで生活をしていた。
そして俺は…
居酒屋の前で佇んでいるあなるを見つけた。
「よう、久しぶりじゃねえか、成人式にも顔を出さなかったろ」
「そだね…あれから7年か…」あなるが唇を噛んだ「つるこ綺麗だよね」
「だよなー、昔と変り過ぎてわかなかったろ」
あなるは何も答えなかった。
俺は重い雰囲気を変えるように「あなる今までどこに行ってたんだよ」
「…東京でOLしてた」
「まじでか!? いやー去年の夏も集まったんだけどお前だけこなかったから心配してたんだぜ」
あなるの体が小さく震えてた。
「うそ!! あの日追いかけてくれなかったくせに!!」
「お…おい!」周囲を憚る様に目を配るとそっとあなるを別の路地に連れ込んだ。
「今日だってつるこから聞いたんだからね!!」
「あの時は…悪かったって思ってるよ…」
じんたんの礼服のポケットが震えた。あなるに目配せすると「もしもし?」携帯に答える。
「もしもしじゃないわよ! 今どこにいるの!」
「2次会の代表スピーチ。じんたんがやるんでしょ」
電話口の向こうからつるこの怒った声が聞こえた。
「おいリーダー、早く来いよ」つるこから声がゆきあつに変わって催促してくる。
「ちょっと待ってくれ。いまあなるが来てんだ」
「まじかよ、どこにいるんだ?」
「じんたん、あなるに代わってくれる?」少しだけトーンを落としたつるこ。
「え?…おう。あなる。つるこからだ」
「つるこ?…何よ…?」
つることあなるが何事が話し合ってるのを俺はそばで聞きながら、
今年の手紙の内容を思い出していた。
めんまと二度目のさよならをしてから、俺たちは夏だけは必ずあの秘密基地に
めんまに手紙を送り続けてるよな。
めんまのおかげで幸いにも高校は単位不足での留年は免れた。
高校を卒業した後、特にやることのなかった俺は地元でそのままアルバイトを続けている。
おやじに頼まれて、近くの遺跡の発掘や保全の手伝いをして家計の足しにしていたが、
実家を出るという選択はしなかった。
なんだろうな、俺の中に何かがくすぶっているものは。
ゆきあつは俺が行きたかった高校で学年1位を取ったらしい。
らしいってのはゆきあつは話してくれなかった。けど、つるこが教えてくれた。
ゆきあつはつるこの気持ちに気づいてないらしいが、俺もぽっぽもつるこの気持ちは知っていた。
高校のときはバレンタインチョコを後輩から預かったふりをして渡していた。
そんなところもつるこらしい。
ゆきあつは東京の大学で行政学を学び地元で市会議員を目指すと話してくれた。
この夏晴れて、地元の市議会選挙の立候補するらしく同棲生活もままならないと話してくれた。
つるこもゆきあつに引っ張られて東京の大学いったが、勉強よりもゆきあつの監視が大変だって
笑っていた。
文学部に入ったものの、ゆきあつの面倒と周りについていくだけで必至って…何をしているんだか。
大学卒業式にゆきあつはその場でつるこにプロポーズをした。
つるこもその場でOKした。泣いていたな。
ぽっぽは市役所の観光課と新聞配達で生計を立てながら、次の旅行先を決めかねている。
というのもぽっぽ以外に碌に英語を話せる職員がいないので悉く長期休暇が断られてしまい
最近なんか泣く泣く台湾の三泊四日の旅行が精いっぱいだと愚痴ってた。
久しぶりだなこんなに長く手紙が書けたのは。
いつも短くてそっけない文しか書けなくて、すまないと思ってる。
いつもだったら元気か?とか書けるんだよ…
でも、あそこがなくなってもう書けなくなって…俺…
めんまは手紙を渡す日は満天の星空をお礼にくれてたな。
みんな前を向いて進んでいるんだ。
なのに…なのに俺だけ…
「…た…ん! じんたん!」
「ん? 何?」きょとんとした顔であなるを見つめる。
「つるこから!」突きつけるようにして手渡された電話を見つめる。
あなるは携帯を手渡すと駅前の方に歩いていってしまった。
その姿を目で見ながら「つるこ? かわったけど?」
「じんたん? 今日はいいわもう」
「なんだよそれ!」
「スピーチは中学の…そう…あいつに代わってもらったから」
「リーダー、あなるは近くにいる?」唐突にゆきあつにかわりじんたんは電話を落としそうになる。
「あいつなら怒ってどっかいった」不機嫌おうにつぶやく。
「追いかけなきゃダメだろ! おまえ気付いてたんだろ! あなるの気持ち」
「なんでそんなことゆきあつに怒られなきゃないんだよ」
「いいから追っかけろ!」
「だからなんで!?」
「そんなの俺の口から言わせたいのか?」雰囲気の変わったゆきあつにじんたんが息をのむ。
「…」
「じんたん…ぽっぽじゃねーけどお前はすげーんだよ。それは俺たち超平和バスターズが知ってる」
ゆきあつの後ろから賑やかな雰囲気が伝わってくる。
「だから…リーダー…かっけーってところを見せてくれ…」
時刻はもうすぐ夕刻となろうとしている。空は今にも泣きだしそうだった。
じんたんのばかぁ…
私の気持ちなんてとっくに気づいていてもらえているもんだと思ったのに…
夏とはいえ山の中では陽は木々に遮られ昏くなる。
駅から記憶だけを頼りに歩いてみても、あの橋は遠かった。
子供のころはこんなに遠くまで来ていたんだ。
小さい子供の足で野山を駆け巡り、山の中に小屋を見つけたとときは最高の気分だった。
目にするすべてのものが新しく輝きに満ちていた。
大きくなって大人になり、めんまとのことがひと段落して都会へ出ていったときはじめての経験は挫折だった。
小さい会社でOLをしたものの、おりからの不景気で会社は倒産。
色々な会社を渡り歩き、やっとここまで生きてきたというふうで、大見得を切って出た