あの花その後
実家に連絡を取ると待っていたのはゆきあつとつるこの結婚の報せだった。
めんまに手紙を出すようになったあの夏の夜、つるこは抜け駆けをするかもと言っていたけど…
まさか…本当に…でもあそこにいけば変わらない場所が…
みんなをつなぎとめてくれた場所が…
夕方から降り出した雨が熱くなった体のあなるを包む。
パンプスを手にかけ、泥だらけの足で山道を登っていく。
昔は平気だった外灯のない闇がここまで怖いとは思わなかった。
もう少し、この坂を登れば…
ったく、どこいったんだ? あなるは…
ゆきあつに急かされてあなるを探し出したはいいもののじんたんには探す当てはなかった。
あなるの実家を訪ねてみたが、今日は帰ってきていないとのことでそそくさと後にする。
その時初めてあなるが高校卒業後、都会へでて一度も戻っていないことを知った。
小さいころに大切な夏を過ごした秘密基地はすでになく、そのことを…
あなるは…
あいつは知らないんじゃないか!!
じんたんは自分のバカさ加減を笑うとあの場所へ走り出した。
何で…何で…秘密基地がなくなっているのよ!!
あなるの前には焼き落ちたかつての秘密基地の姿があった。
膝から崩れ落ち俯いたあなるの頬を涙と雨が混じって落ちていく。
「あなる…」
じんたんの呼ぶ声に顔を上げて振り返る。
どれだけそうしていたのだろうか。
すっかり辺りは暗闇に包まれ、いつしか雨も上がっていた。
「じんたん…」体は冷え切って震えが止まらない。この震えは雨に濡れたせいなのか。それとも…
この秘密基地を知ってしまったからなのか。
いや…その先は…
「今年の冬に失火でな…」
うそよ…
「誰もいなかったんだ…でも…たまたま置いていたビンで…」
だって…
「ぽっぽは泣いていた…自分のせいだって…」
もう…
「俺もゆきあつもつるこも…みんな責めなかった」
私の…
「だから…もう…みんなの帰ってくる場所はないんだ…」
居場所は…
どこにもないんだから!!
「じんたん…あのときの返事を聞かせてよ!」
この町を離れるときに一方的の送ったメール。
それはじんたんに引きとめてほしかった思い。
そのメールにじんたんは返信してくれなかった。
ずっとじんたんはめんまが好きでそんなじんたんを私は好きだった。
だからあのメールで区切りを付けようと思っていた。
「えっと…」その曖昧な態度はまだめんまを思っている証拠だ。
「俺は…」
俺は何で返事が出来ないんだ…
そうだ…俺はあの夏の日…めんまに好きだって言ったのに…
俺の好きは終わっていなかったんだ…
よみがえるあの夏の日…
「こんなブス、好きじゃない!」そういってあいつを見ると困ったような顔で苦笑いを浮かべてた。
そして秘密基地を飛び出して駆け出して行ってしまった。
花火を打ち上げた夏にはみんなには好きだったって打ち明けられたのに…
俺はめんまが好きだった思いを終わらせていない。
あいつは最期まで生まれ変わりを信じてる。
だから…あなるの…
思いには答えられない…
どこかでまた会えるって言っているから…
「ごめん…俺は…やっぱり…」
もう…私にはどこにも居場所がない!!
じんたんの返事を最後まで聞かず駆け出したあなるをじんたんは止める事は出来なかった。
答えを出したしまった以上、その権利は誰にもない。
立ち尽くすじんたんの頭上には満天の星空が広がっていた。
裸足で駆け出したあなるは暗闇の中、何度も山道に足を取られながら駆け下りていった。
どこにもない、自分の居場所。
自分をしらないどこかの場所。
ここになら自分の帰る場所があると信じていたのに!
「!!」足が滑って地面を転げ落ちる。誰にも届かない悲鳴をあなるは上げた。
走り去る背中をじんたんはあえて追いかけなかった。
俺が追いかけてどうなるっていうんだ…
答えをあなるに投げ返してしまった以上もう戻れない…
町へ帰ろうと踵を返すと道から離れたところに一輪の花が咲いていた。
その花はめんまが好きだった花でいつも日記に書いていたが結局は分らずじまいになり、
いつしかその花思い出すこともなくなってしまっていた。
その花が闇夜に浮かび上がるようにして咲いている。
ゆっくり近づくと少し下に隠れるようにしてもう一輪が。
さらにその向こうに一輪…
まるでじんたんを導くように…花の道が続いていた
気が付くと暗い闇の中、目の前にめんまがいた。
体が思うように動かない。声を出そうとしても口が動くだけでめんまには届いているとは思えなかった。
「大丈夫。じんたんがきっと助けてくれるよ」そういって笑うめんまはかくれんぼで見つけたままの姿から変わっていなかった。
「ずるいよ…めんま」吐き出せた声は呟くような小さい声。
積年の思いをやっとの思いで声にすることができた。あの日のままのめんまは大きくなっていないのはあなるには妬ましかった。
「…」困った顔しながら苦笑いを浮かべた表情はさよならをした日と同じなのがあなるの負の感情を大きくさせる。
「めんまがちゃんとじんたんに告白しないから…」
違う…めんまはちゃんとじんたんに伝えたんだ…
生まれ変わるって…
伝えていないのは私の気持ち…
「あなるはしっかり者だからちゃんと伝わるよ、その気持ち!」
拳を握り応援するめんまのまっすぐとした瞳があなるを見つめる。
「めんまはわかんないんだ! どれだけじんたんがめんまを思ってるのか!」
これ以上めんまを見ることはできない。
めんまのこの天真爛漫さがあなるには羨ましかった。
最初は誰にも相手されていなかったのに…
超平和バスターズに入るようになってじんたんにどれだけ大切にされてきたのか…
めんまにはわからないんだ…
「わかってるよ…」
あなるの頭を優しく撫でながらめんまが呟く…
「あなるの気持ちはきっと届くよ…」
「だからね今日はお別れに来たの…」
「じんたんはみんなのリーダーなんだよ! だから大丈夫…今だって…」
「ほら…」
じんたんが歩みを進めるといつの間にか花はなくなっていた。
もう少し歩みを進めると川沿いにでる。
ふと気づいて顔を見上げると「ここは…」
超平和バスターズにとって苦い思い出。
めんまが溺れた川岸だった。
花を手向けに何度か来たものの最近は足を向けていない。
目の前を花びらが落ちて行った。ゆっくりと目を落す。
その向こうには…
「あなる!!」
水に濡れたあなるの河原から持ち上げるのがやっとで河原に引き上げるのが精一杯で、汗が顔を滴る。
長い間水に浸かっていたらしくその肌は冷たく足は血だらけ、顔も切り傷でいっぱいだった。
山道で泥に足をとられ、雨で増水した川に落ちたらしかった。
「なんだって…こんな…」
抱きかかえると胸が上下していない…
息をしてない!!
鼻に手をやり呼吸を確認すると息を感じれなかった。手の脈をとってみるとやはり脈はない。
こんな…
こんなことってあってたまるか!!