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ふくすけーる
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novelistID. 48904
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あの花その後

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地元のAED設置の際に聞きかじった人工呼吸で一回ゆっくり息を吹き込む。

胸はゆっくり膨らむが反応がない。

さらに胸に呼吸を2回吹き込む。

それでも反応はない。


「えっと…胸の真ん中だよな…」
今更ながらきちんと人工呼吸の方法を学んでおけばよかったと後悔するが遅い。

濡れた服を脱がし、頭の後ろに敷く。
ブラウスが透けて見えるがそんなことは頭になかった。

「心臓マッサージは確か…30回…」手順を思い出しながら自分に言い聞かすようにして
胸骨の上に両手を重ねる。
「心臓マッサージで骨を折らないように…それでも強く圧迫」
慎重に手を押しこむ。
「1分間100回!!」
戻ってきてくれと強く願いながら…



もうどのくらいたったのか…
自分でもわからない。
ただ、今はただ!
あなるがここに戻ってきてくれることを祈るだけ!

「じんたん…頑張って…」
「あなるはあとちょっとで戻って来れるよ…」
この姿でいられるのはもう少しだけ…めんまの姿もじんたんには見えないのをわかっていた
「だから! じんたんがんばれ!」

「な…何で…」
もう…やっぱりダメだったんだ…
でも…もしかしたら…次で…

人口呼吸で息を吐き切り、心臓マッサージを繰り返す。
胸に手を置いてもう一度…
「花?…どこから?」
ここまで導いてくれた花があなるの胸の上に…

心臓の、鼓動の動く音がじんたんには感じられた。今は感じれる確かに生きる音を
あなるは口から少し水を吐き出すし、咳込むように息を始めた。
「良かった…ほんとに…良かった…」
あなるの右手がじんたんの顔にかかる。
「?…」
無意識のうちにそうしたのかじんたんにはわからない。
「よかっ…ほん…とに…よかった…」
涙でくちゃくちゃにしながらもあなるを胸に抱きかかえた。



「そ…そうだ携帯で…」
救急に連絡し、居場所を告げる。こんなことに頭が回らない自分を叱咤する。
他のところで事故があり、救急者は出払っているのですぐには向かえないとの答えに
ここまでの道の途中に病院の看板が出ていたことを思い出す。
「橋の向こうに病院がありましたよね!」
坂道の途中にある病院にすぐ向かうことを救急から連絡してもらう。

「そうだ、あの時もめんまを背負ってこの橋を!!」

自分のジャケットをあなるに着せ、あの時と同じように走り出す。
違うのは、秘密基地へ向かうのではなく、市内にある病院に向かって。背中に息づく鼓動を感じて。



「ご家族の方ですか?」
病院に着くとすでに看護婦が受け入れの準備を整えていてくれていた。
「いえ…近所のものです…」
「話は伺っています…彼女をこちらに」
脇には当番の医師らしき白衣を着た人物が待機しており病院に収容されると、振り返って尋ねる。
「ご家族に連絡をお願いできますか」
「あの…家族じゃないとダメなんですか?」
「ご説明は家族が基本となっておりますので…」
「そうですか…」


昏い待合室でじっと黙って下を見る。
あなるの母親には先ほど電話した。
携帯の電池がわずかだったため、かなり話を端折って説明したが納得はしてもらえたようだ。

今は、ただアナルが回復するのを待って…

処置室から看護師と医師が出てきてくる。医師はじんたんを一瞥すると
「ご家族の方は?」
「あ…いえ…まだ」
ちょうど外から、車のブレーキ音が聞こえて来た。

「ごめんなさい!」
駆け込んで入ってくる女性の姿を見て、じんたんは息をのんだ。
自宅で顔を合わせていたときは、こんなにもあなるの母親が老けていたことに今更ながらに驚く。

「安城…鳴子の母親です」それを聞いた医師は二人を診察室へ案内した。

医師の説明によれば、若干の衰弱が認められるものの、命には別条はないとの事を聞き二人とも
大きな安堵の溜息を吐いた。
今日はこのまま入院し、明日以降改めて精密検査をする必要があることだった。

「じんたん、今日はありがとう」
別れ際にあなるの母親からそう言われると、じんたんは
「こちらこそすいません! 俺のせいでこんな事になって!」と深く頭を下げた。
「いいのよ、あの子の顔を久々に見れたのだから…」
え、という顔して母親の顔を見つめる。
この町を出て行って以降、帰ってくるのは正月だけでそれ以降はまったく手紙も電話をくれなかった。
それが今日、ふらっと家に帰ってきたという。
とりあえず、今日、ゆきあつとつるこの結婚式があることを告げるとそのまま、出て行ってしまったので
心配はしていたのだが。
「私には何も言わないくせに、じんたんには色々話してるみたいじゃない。それでいいのかなって
思っていたんだけれどね…」
「とりあえず…無事で…よかっ…」最後のほうは声にならなかったが、震え方が心配ぶりを物語っていた。

「ごめんね、じんたん。今日はもう帰る? 私は着替えだけ取りに戻らなきゃいけないけど…」
「明るくなったら歩いて帰ります。それまでは…」
「そばにいてくれる? そうしてくれると助かるのだけれど」母親なりの気遣いなのだろう。
病院を出ていく母親にじんたんはもういちど頭を下げた。



明け方になり、廊下を蛍光灯とは違う明るさが包んでいく。
待合室に長い影が差し、バイクが離れる音がした。
そろそろ帰っても問題ないだろうと思い立ち上がる。
雨でぬれた体はそのままで多少のダルさは残るものの、家まで帰る分に問題なさそうだ。
ただ、熱い風呂にゆっくり入りたかった。

「じんたん…」
「!!… あなる…」
あなるは少し微笑んで
「あなるっていうな…」小さい声で答えた。




作品名:あの花その後 作家名:ふくすけーる