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宛名のない手紙

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珍妙な手紙が届いていた。
否、厳密に言えば、"自分に届いていた"のかは怪しい。何故ならば、自室のドアに挟まれていた手紙の、その封書の表に文字は見当たらなかったのだ。


【宛名のない手紙】


自分宛なのかどうか曖昧な手紙を、しかしリヴァイはその手に収め自室へ入った。流れる風がむわりと迎え入れる。リヴァイは風が吹いたほうへ一瞥をくれた。窓が開け放たれたままだ。どうやら閉め忘れていたらしい。
しかしそれを無視して、目的の場所へと歩を進める。
部屋の、ちょうど真ん中あたりに置かれているテーブルセット。そのソファへドサリと腰を下ろす。そして改めて、手中にある手紙をまじまじと眺めた。

長方形の白い封筒。やはり、封書に表書きは、ない。じっくりと見てはみたが、例えばすぐさま目には留まらないような小さな文字、そんなものも書かれていない。
だが差出人名は、記されていた。封書の裏面。右下に綴られているその名は、リヴァイもよく知る人物の名前、エルヴィン・スミスであった。

最初は悪戯なのかとも考えた。しかし熟慮までにも至らず、その考えは微塵となる。今までこのような悪戯をされたことはないし、リヴァイという人物を知ってか、そんな大それた余興をしようなどという輩はハンジぐらいのものだった。けれど今、そのハンジは、それこそ珍妙な育毛促進剤とやらの研究にかかりきりなのだ。
何より。差出人名の斜め少し上。何より悪戯ではないことを証明するものが、そこにあった。

エルヴィンの瞳と同じ、透き通るようでもあり底の知れない深淵のようでもある、身震いするような青色の封蝋。その色は、リヴァイ自身がエルヴィンへと選んだループタイの色とも同じであり、エルヴィンの象徴とも言えた。
白い封筒に映える青が、エルヴィンの白いシャツに揺れるループタイと似通っても見える。
そしてその封蝋には、エルヴィンが普段使用している印璽が捺されている。これら全てが、この手紙が悪戯ではないことを物語っていた。ここまで手の込んだ罠を仕掛ける暇は、エルヴィンにはない。

そうなると、思うことは唯ひとつ。

「・・何を書いたんだ」

呟きと共に身じろぎをすれば、その衣擦れすら好奇を奏でたように聞こえる。

あのエルヴィンが、封蝋までして自分へと宛てた手紙――、いや自分だという確証はないが、態々部屋のドアに挟んであったのだ、リヴァイ宛と考えるほうが道理は合っている。
それの中身を読んでみたいと願うのは、当然のことと思えた。

「すまんな、エルヴィン」

一応の断りを。
一言述べてから少し前傾に上半身を倒し、封に指をかける。カサリと乾いた音が、まるで早く開けろと言っているようだ。
その好奇心に負け早急に封を切ってしまうには惜しいような、精密な封蝋。エルヴィンが使用している印璽は家系の紋章ではなく、兵団の紋章をもじったものだ。刻印が複雑になるほど型崩れのない綺麗な押印は難しいとされる封蝋で、少しの欠けもなく捺されているところを見ると、仕事でもプライベードでも幾度となく封蝋を使用しているのだろうと想像できた。恐れ入る。

蝋を剥がす前に一度。
するり、と。その封蝋を指の腹で撫でた。
つるりとした表面に少し冷たい温度。
エルヴィンの瞳と同じ色のそれは、瞳と同様の触感なのだろうか。
思いを馳せるも、馬鹿な考えだと一笑して、リヴァイは封を開けた。


重厚な封蝋からの予想に反して、蝋は意外にもあっさりと剥がれた。リヴァイが予想に比例した力を込めて剥がしたため、封はぺらりと滑稽な音でもたてるように弧を描く。
これほど軽く貼られていたということは、読み手がすぐに中身を確認するだろうと慮ってのことなのだろう。実にエルヴィンらしいと、リヴァイはほくそ笑んだ。

そつのない彼のことだ。きっと、さらりとした手触りの文章をしたためているに違いない。
リヴァイは綺麗に畳まれている便箋を、封筒の中からするりと抜き出した。上質な紙だからなのか、あまり音はたたない。封筒に合わせられた、突き抜けるように真っ白な便箋。
膝の上に乗せ、ドアに挟まれ付いてしまった皺を、掌底でくいっと滑らせるように伸ばしてから、折り畳まれた便箋を広げた。ついに、その秘密を解き放つ。
ぱらりと鳴った紙の音は、己の期待の音にも聞こえた。

作品名:宛名のない手紙 作家名:エンジマ