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宛名のない手紙

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「・・・・・は?」

間の抜けた声が出たことに驚き、リヴァイはすぐさま口を閉じる。無意識だったのだ。
が、それ以上の衝撃が、紙面にくっきりと著されていた。
そこに書かれている文字を、瞠目したり薄目にしたりを繰り返して読んでみるリヴァイ。そんなことをしても内容が変わることはないと判っていたが、やらずにはいられなかった。

―――愛してる。

濁りのない真白な紙には、万年筆の丁寧なインク文字が佇んでいた。愛してる、ただその一言のみが。

便箋を摘んでいる指が力みそうになる。紙が皺になりかけたのに気付き、咄嗟に指を離した。エルヴィンの想いがハラリと、腿の上に落ちる。

暫しそれを注視していたリヴァイは、ゆっくりと目を閉じ、そして便箋を掬い上げた。そのまま何も見ることをしないまま、紙の記憶を頼りに元のように折り畳む。
己の呼吸の音は聞こえたが、鼓動の音は耳に届かないと感じた。巨人と遭遇した時などは、鼓膜自体が心臓にでもなったかのように鳴動するというのに。
今は何も響かない。鼓動を止めたのではないかと錯覚するほどだった。

自分宛のものではないと、言葉を見た刹那にリヴァイは考えを改めた。恐らくハンジかペトラか、誰と特定することは難しいが、エルヴィンとそう歳の離れていない女性に贈ったと考えるのが妥当だ。
それにしても、手紙に愛してるの言葉だけというのは、なんとも熱烈ではないか。エルヴィンが、このように情熱的なことをする男だとは思わなかった。リヴァイとてエルヴィンの全てを知っているわけではないが、少なくとも自分に対するエルヴィンは時に冷酷にも思えるほど冷静なのだ。

窓から忍びこんだ風が、リヴァイの頬に触れ漂う。まるで慰めているようだと感じたのは、それを望んでいるからなのか。

「情けねぇ・・・」

溜息と共に零れる独白。風がすぐに消してしまえば良いのに、こんな時にばかり風は働かない。

自分宛ではないことを悲しむ自分に腹を立てる、そんな心持ち自体に腹を立てた。自分でも意味が判らないとさえ思うが、人類の希望としての自分、全ての部下達の生死、そういったこと以外で感情を乱されるのはエルヴィンに関することだけなのだ。

別に、ラブレターじゃなくていい。リヴァイは便箋を、ゆっくりと封筒に戻しながら思う。
この手紙の想いを当然のこととして受け取る相手のことは、素直に考えてしまえば羨ましい。そう考えてしまうのも如何かと思ったが、だが、何もこのような手紙でなくともエルヴィンの自筆の手紙が欲しかった。玲瓏でありながらも癖を感じるエルヴィンの字――、そんなまさに彼らしいと言える字で彼の考えを綴った手紙を。
だからこそ、自分のものではないこの手紙を、リヴァイは己より少し遠ざけたソファの上へ置いた。

この頃では、エルヴィンの全てを知りたいと思い耽ってしまうのだ。
彼が隣に居るとき、ふとリヴァイを見たとき、そんな些細な瞬間に、とりとめもなく想いを募らせる。
エルヴィンの尊厳や羞恥までも、支配したい――。

ひらりと緑風に靡いたカーテンが、あたかも嘲笑したように見えた。
それをちらりと見遣って、うるせぇと毒づく。
リヴァイも判っているのだ。こんな想いは狂乱じみている、と。わかってはいてもコントロールも効かず手に負えないのが、ことさら始末が悪い。

苛立つように前髪をくしゃりと掻きまぜる。
盛大なため息をきっかけに、ソファの背もたれに深く身をあずけた。
その時だった。

「リヴァイ!!」

バタン!
ドアを開けた強い轟きと共に、己の名を呼ぶ低く響く声。耳になじむその声は、無論エルヴィンのものだ。慌てて此処に来たらしく、ループタイの紐が肩のほうにまで飛んでいる。
少なからず動揺したリヴァイであったが、それを髪の先にも表さずに、ゆったりとエルヴィンに視線を向けた。

「ノックはどうした、エルヴィン」
「あ?あぁ、すまない・・」
「・・・調査兵団の団長ともあろう男が、そんなザマで一体何だ。何かあったのか」

トントンと、リヴァイは人差し指で自分の鎖骨あたりを指し示す。
それによって何らかを感知したらしいエルヴィンが、すばやい動作でループタイを直した。こういった、言わずとも通じる距離感がここち良い。

「いや・・・、そういう訳では、ないんだが」

普段の整然とした物言いとは程遠く、妙に言葉を濁すエルヴィンの姿。早くしろ、と視線で催促をするリヴァイはそれを態度にものせ、腕を組んだ。

「・・・お前のところに、手紙が届いていなかったか?」

片眉がピクと動いたのは、流石にリヴァイであっても制御できなかった。
しかし至って冷静を振る舞い、さきほど置いた手紙を人差し指と中指とで挟みあげ、ぴらりとエルヴィンへ向ける。

「これのことか?」

エルヴィンの表情があからさまに強張るのが見て取れた。眉間の皺が濃くなっている。
何かを言おうとしたのか僅かに口を開き、しかし彼の低く甘い声音をすこしも零さず、唇をきゅっと横に引き結んだ。視線がいささか伏し目だ。
彼は何を思案しているのだろう?リヴァイの悪い癖がでる。中身を読んだかどうかが気がかりなのだろうか、これを取り返したいのだろうか、などとエルヴィンの面持ちから思いを凝らす。
しかし、エルヴィンが静かに息を吸った音が、リヴァイの思考を遮断した。

「中身は、」
「読んでねぇ」

即答をした。ついでに、嘘も吐いて。
すると途端にエルヴィンの表情が和らぎ、安堵のものであろう吐息をもらす。先刻とは一転だ。
冷静なエルヴィンを、こうも揺り動かせるというのは、至高のゲームのように愉しい。その直接的な原因が己であれば尚、享楽であったろうに。

「ところで・・宛名がないが、書き忘れか?お前らしくない」

手紙を手前のテーブルへ、表書きを上にして置きながら発したリヴァイの言葉。
その仕草の一連を目で追いかけ、最後に手紙に視線を留めたエルヴィンを、更にリヴァイが視界に収める。

「あぁ、それはハンジに・・・」

あぁやっぱりか。そんな文言が頭に浮かんだ。
期待はとうに潰えていたのだから、エルヴィン本人の口から聞こうとも、さほどの落胆はない。
そう思い至ったリヴァイを驚愕に至らしめる話を、エルヴィンが紡ぎはじめることとなる。

「内容を吟味してもらってから、書こうと思っていたんだよ。だからハンジに預けていたんだが、宛先を知っていた彼女が、内容の合格と同時に差出してしまったようでね」

リヴァイは一瞬の、否、暫しの沈黙を要してしまった。了知するには、予想を覆されたゆえの驚喜が邪魔をして、正常な判断への道が拓けなかったのだ。
咥内の唾を飲み込むことで、平常心を取り戻そうと努める。だが、唾を通した喉が、コクリと小さく嬉々を鳴らす。

「つまり・・・、」

前置きを述べるように一言を告げる。いまだ混乱気味の脳内を整理するためだったが、この僅少な時間が功を奏したらしい。だから、

「つまり、これは俺に宛てたってことか?」

再度おなじ言葉を発したときには常時のリヴァイであり、いかにも鷹揚な様で腕と足を組んでいた。

「そうだ。そうなんだが・・・やはり、渡すにはもう少し時間を置こうかとも、思ってるんだよ」
「・・・そうか、」
作品名:宛名のない手紙 作家名:エンジマ