宛名のない手紙
何をまどろっこしいことを。というのが、リヴァイの正直な感想であった。
だから、リヴァイがこの瞬間に即決した行動というのは、何もおかしなことではないはずだ。
「だったら、これはエルヴィンが持ち帰れ。つぎ渡そうって思ったときに、また持ってくりゃいい」
「・・・そうだな、そうさせてもらおう」
返答したエルヴィンに首肯しつつ、リヴァイは企んでいる。伸ばした腕を鷲掴んでやろうと。
エルヴィンが手紙を取ろうとリヴァイに近付き、そしてその腕をテーブルへと伸ばした刹那を見計らい、逞しく太い彼の腕に触れる。そのままそれを握りこみ強く引き寄せれば、不意を突かれたエルヴィンはリヴァイの傍へ倒れこむことだろう。そしてエルヴィンが状況判断を遂げる前に、彼の唇を奪ってしまえばいい。
果たしてエルヴィンは気付くのだろうか。何なら、見ていないと言った手紙の内容の真似をして、この場で手紙を書いてもやろう。愛してると、たった一言だけ書いた紙を彼の眼前に突き出せば、恐らくエルヴィンの羞恥を支配できる。こんなに早くねがいが叶うとは。
一歩を踏み出したエルヴィンに、リヴァイは目を眇めた。視界の端でカーテンが、一際強く舞い込んだ風に乗る。はためきはまるで、兵団旗のように。