君と過ごす何気ない日常
薬缶とポット
ポットを洗浄している時は薬缶を使う。
だからつまりは滅多に使わないわけだけど、使う時が無いわけでもないからちゃんとマメに洗って保管している。
その日、やはりポットを洗浄している間お茶が飲みたくなった僕は薬缶を取り出し水を張り、コンロに置くと火にかけた。その間に茶葉を用意し湯呑と急須を出しておく。
茶菓子にはまだ残っているサツマイモを。より長く保存するために蒸かし、冷凍してあるのだがこれを解凍し、フライパンで煎るようにして熱を通す。焦げ目を付けカリカリにして、その上にはちみつを。
出来上がったら皿に盛りテーブルへと運んだ。
そのころには匂いを嗅ぎつけたらしい彼が以前同様テーブル前に腰を据えていて思わず笑ってしまう。
本当に、こういう時だけは素早い奴だ。
彼の前に皿を置き、瞳煌めかせる彼に一度おあずけを食らわせると湯のみをトン、と置いた。急須の中に茶葉を入れ準備を整えるとそこで、甲高い悲鳴が家中に響き渡る。これに、彼が口を開きこう言った。
「あ、薬缶が泣いたよ」
うん、泣いてないけどね。
彼の言葉に背を押されるようにして立ち上がり台所へ入ると火を止め薬缶を持ち上げる。鍋敷きと共に戻り、急須へとお湯を注ぐとくるくるくる、湯を回す。
「今日もいい泣きっぷりだったね」
彼の、独特な言い回し。
訂正してもいいけれど、これはこれで楽しいからまぁ、いいか。
そう思った僕は、ニコリと笑って「そうだね」と言った。
2013/10
作品名:君と過ごす何気ない日常 作家名:とまる