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君と過ごす何気ない日常

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夏、終わり夕暮れ




 買い物袋が足を打つ音。
 今日も魚が安いと叫ぶ声。
 店の人との話に興じる主婦層の笑い声。
 どこかで起きた小さな諍い。
 自転車のベル。
 遠くで鳴る、車のクラクション。

 世界は、音に満ちている。

 

 右手の籠の中には、大根と枝豆。
 今夜のメニューは大根の煮物と茹でた枝豆。
 冷奴をつけてもいいかもしれない。ああ、ついでにビールが飲みたいなぁ。
 賑わう商店街を籠を揺らし歩く。
 途中差し掛かった本屋に気を取られ、ついつい足先が向いてしまうけどぐっと堪えて前へと進める。新刊のチェックは明日。明日にしよう。
 夕日が差す町並みを瞳を細め、眺める。
 絶えず届く色んな音が音楽みたいに耳を撫で行く。
 数歩も行かぬところで肉屋さんが揚げたてコロッケだと手招いた。心惹かれてしまうけど、コロッケはやはり自分で作ったのが一番好き。そう、言ってくれたから買うのは諦める。明日、ジャガイモを買おう。それでコロッケを作ってやるんだ。
 決めれば足取りは軽くなる。
 今日のメニューは大根の煮物と、茹でた枝豆。
 あとビールがあれば最高。
 冷えたグラスに冷えたビールを注ぐ。
 古めかしいちゃぶ台に乗せた小鉢たちと、二つのグラス。
 悪くない。

 商店街の終わりを示す門をくぐる時はスキップだった。


 築んん十んん年ものの平屋の戸を開け屋内に。
 「ただいま」と声をあげれば「おかえり」という声が木霊のように返り笑った。
 軋む廊下に諦めの溜息を洩らしながらも居間へと顔を覗かせると畳の上、ぐでんとだらしない恰好で座り込みテレビを見る背中が映った。どこのおっさんだと言わんばかりの酷い態度。横になって寝られてても困るけど、肩からタオル下げて後ろ手を付いた状態で胡坐をかいているというのは聊か若さが見えない。言っても若くは無いから良いのだろうけれど、納得いかないというのが本音で。
 まさか一時間ずっとその調子だったの?
 腰に手を当て唇を尖らせれば座っていたそのままに背を逸らし、頭を逆さにしてこちらを振り返るから一層、呆れてしまう。「まぁね」と答るふてぶてしさには拳骨を落としたくなった。
 熟年夫婦ってこんな感じなのだろうか。
 そんなことまで考えてしまう。
 でも、まぁ、いい。
 今日は気分が良いから。
 だから、溜息一つで許してやるのだ。
 そして、台所へ立つといそいそと夕飯の準備にかかる。
 大根に包丁を入れ、味が染みやすくすると雪平鍋の中でことこと煮込む。出汁を足して味を整えさらに煮込む間隣の鍋で湯を沸かし塩を入れ枝豆を落とす。台の上に並べた小鉢に豆腐を入れ、薬味を振りかけ盆の上に乗せて置く。隣には醤油と箸。
 枝豆をザルに取り塩をかけ少し冷ますその間に盆を居間へと運んだ。
 未だテレビに夢中になっている背中を蹴り上げ、テーブルを拭けと指示を出し、拭き終わった布巾とお盆を交換し流しに戻ると布巾を洗い、枝豆と一緒に持っていく。皿をテーブルに置くとすかさず手が伸びるのにまたも溜息を洩らし、今度は煮物を運ぶために盆を手に台所へと戻った。
 黒地のシンプルなお盆。結構お気に入りだったりする。それに煮物(時間が足りなかったから味は然程も滲みてないとは思うけれど、濃いめの出汁で煮たからある程度は大丈夫だと思う)を入れた器と漬物を乗せ、さらには冷やしておいたビール缶を二本、乗せる。
 こんな時ばかりは目ざとく見つけ反応するから本当、嫌になる。飛びつくようにビール缶に手を伸ばすのにペチンとその甲を叩き払えば異議ありと言うように唇を尖らせるからもう、耐えられなくて。思いきり吹き出すときょとんとした目を向けてくるからまた、腹がよじれた。
 本当に、飽きない。
 楽しい。
 今、とても楽しい。そう思う。

「さぁ、ご飯にしようか?」

 大根の煮物とビール缶をテーブルに置いて、始まりの掛け声。
 さ、手を合わせてご一緒に。


 頂きます。


2013/10

作品名:君と過ごす何気ない日常 作家名:とまる