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シノ@ようやく新入社員
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お悩み解決戦線

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■第一話■



 春だ。
 春といえば、お花見、卒業、入学式。雛祭り、鯉のぼり、チューリップ。
 駅構内の百貨店は装いを新たにし、ファミレスのメニューでは菜の花やタケノコの料理が踊り、恋愛したり青春したりのキラキラした青臭いドラマが並ぶ。知らずワクワクしてくる、そんな季節。
「はぁぁぁぁぁ……」
 だというのに、普段はしっかり者の園芸部員が、辛気くさい顔で机に突っ伏している。
 ティーダが自分の机についたときには既に、フリオニールはこんな調子だった。もうすぐこの世の終わりがくるぐらいの勢いで吐かれた溜息には、思わず眉間に皺を寄せて後ろを振り返りたくもなる。
「のばらー。人の背中見ながら溜息つくのやめろよな」
「それは仕方ないだろ。ティーダは俺の前の席なんだから」
 新学期早々、クジ引きで決まった席順。
 偶然、席が前後していたのがきっかけで仲良くなったフリオニールは、面倒見がよくて勉強ができて、何か分からないところがあれば親切に分かりやすく教えてくれる。打ち解けるのに、何日もかからなかった。
 気のいい兄貴と手のかかる弟みたいだと、2人を称したのは付き合いの長いクラスメイトだったか。
 お互い気の置けない存在同士だが、フリオニールはたまに、壮絶なまでに気落ちする。それこそ、人生の終焉だといわんばかりに。そいつが少々厄介だった。
 理由を聞いてなぐさめようにも、「なんでそんなことで?」と思うようなことばかりで、ティーダには理解できない。更に困ったことに、基本的に楽観的なティーダとは違い、フリオニールは一度落ちるとなかなか浮上してこないのだ。
「で、今回は何に悩んでんの」
「ああ、うーん、その……。本当、大したことではないんだ」
 歯切れの悪い返答と苦笑。今度は、ティーダの方が溜息を吐きたくなる。ビシッ、とフリオニールの鼻先に人差し指を突き出してやると、苦笑した顔が驚きに変わった。
「ウソだね。それ、おれを心配させまいと言ってるっしょ。自他ともに認める空気読めないおれですら、ビンビン伝わってくる負のオーラ! 尋常じゃねーくらい放ってるくせに」
「いや、負のオーラって……」
「なぁなぁ。おれには相談できない? そりゃ、フリオより頭ワリーし、あんまり良い考え浮かぶ自信ないけど」
 ティーダが“のばら”ではなく本名で呼ぶときは、精一杯真面目に話をしているときだ。それが分かっているから、フリオニールはしゅんとなって上目遣いで話すゴールデンレトリーバーみたいな色の髪を、わざと乱暴に撫でた。
「うわ、なにするっすか!」
「俺は兄貴想いのいい弟を持ったなと思ってさ」
「真面目に話してるときにそのネタはいいって! 同い年っすよ!」
「実を言うと、悩んでいるにはいるんだが。所構わず公言できる話でもないんだ」
「――ちなみにオレらは知ってるけどね」
 背後から突然肩に腕を回されて、ティーダとフリオニールは目を見開いた。二種類の腕の主が2人の驚いた顔を見て、してやったりと笑い合っている。
「バッツ、ジタン!」
「なんでお前たちが知ってるんだ……」
 クラス一、否――学校一のトラブルメーカーともいうべき2人組に知られていたなんて。
 フリオニールは頭を抱えた。嫌な予感が頭を過ぎる。
「のばらの悩みの種がさ。なんとオレらの友だちと関係してるんだなあ」
 ここじゃあなんだからさ。
 教室の天井を指さしたバッツに、皆は揃って顔を見合わせた。


 フリオニールは、普通の人間からしてみればちょっと嫌味なくらいスポーツ万能だ。
 長身と身体のバネを生かしたバスケットボールやバレーボール。野球では持ち前の動体視力で爽快にボールをかっ飛ばし、サッカーでは監督顔負けの状況判断力を発揮し、テニスでは急遽組んだダブルスでもパートナーの実力を補い引き出すようなプレースタイルをしてみせる。
 そんな彼が、まさか学校でただ一人の園芸部員だなんて、誰が信じるだろう。
 一時期は、事実をデマだと信じてやまない様々な運動部から何度もしつこく勧誘があって、逃げ回っていたほどだ。
 現在は、『フリオニールはみんなの助っ人』という『暗黙の掟』が、いつのまにか出来上がっているらしい。
「大変だよな、のばらも。学校のみんなが勝手に作った暗黙の掟を、運動部のやつらの間で喧嘩起こさせないために、色んなとこ助っ人して」
「いや、大変だと思ったことはないさ。俺もみんなみたいに、何か一つに打ち込めたらいいんだけどな……。ことスポーツに関しては具体的なビジョンがないんだ。どの種目も好きだし、面白いとも思う。やる気もある。でも、どれか一つには絞れないんだよ」
 場所は変わって、社会科研究室。
 勝手知ったるなんとやら。ローテーブルを挟んで向き合っている黒塗りのソファに腰掛けた4人は、他の生徒に聞かれる危険が皆無のこの場所で、本題に入った。
「事の発端は、のばらが剣道部の団体試合に助っ人として出場したことから始まるんだ」
 剣道部は春の大会前に、他校との対外試合がある。たかが練習試合と言ってはいられない。上級生の面目を保つため、今年入ったばかりの新入部員に実力を見せつける絶好の機会だ。
 更に、大会では団体戦もあるので、対外試合での団体戦勝利はチームの士気向上にも繋がる。
 それは相手の学校も同じで、つまりどうしても負けられない試合だったのだ。
 そんななか、剣道部の主将が練習中に怪我を負ってしまった。
 全治二週間の軽い捻挫だから、春大会には間に合う。だが、対外試合には間に合わない。
 元々、一年は参加できない対外試合。二年と三年だけのチームは、主将を入れて5人のみ。5人で五試合行う団体戦で、メンバーが1人不足していた。
「そこで、のばらに助っ人依頼がきたってわけっすね」
「ああ。今年の一年は、挨拶の仕方すら知らない初心者しか、入部しなかったらしいんだ。そんな奴らに、いきなり試合に出ろってのは酷だろう? 勝敗は気にしないから、出るだけ出てくれと言われて」
「……そんでもって、この男は試合で大活躍! 見事、剣道部の一年マネージャーを恋に堕としちゃったんだなあ」
 うわお。
「うっはー! のばらに春到来っすね!」
「喜ぶのはまだ早いよ、ティーダくん」
 我が事のようにバンザイで叫ぶティーダに、バッツがちっちっちっと指を振り、ジタンが肩を竦めた。
「マネージャーは試合後にフリオを呼び出して、告白したんだけど」
「このモッタイナイ野郎は、あろうことか可愛いレディを泣かせやがったんだ」
「小柄なのにナイスバディ。清楚な黒髪で色白でお肌すべすべ可憐な、剣道部のアイドルを…!」
 なんですと!?
「のばら、恋人欲しいっつってたじゃん。ストライクど真ん中の子をなんで断るんだよ」
「……それは去年までの話で、最近はそこまで彼女が欲しいとは思わな――というか」
 フリオニールはふと疑問に思う。
「ティーダに女性の好みを話したこと、あったか?」
「ぎくっ。そ、そそそそれは企業秘密っつーか」
 決して目を合わそうとしない、明らかに不審な反応に、フリオニールは眉を寄せた。
「おまえ、なにか隠してるだろ」
「こ、こればっかりは、女の子の秘密だから言えない」
「…………」
「…………」