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お悩み解決戦線

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■第三話■



 桜並木の街路樹通りでは、綺麗な白い花弁が、ひらひらと舞い降っている。
 揃いも揃って女性にモテる人間ばかりが集まった作戦参謀3人は、あれやこれやと議論を交わしながら、この時期に最適なデートコースを抜け目なく計画していた。
 事前に指定されたコースを歩きながら、フリオニールは隣を悠然と歩くクラウドに、ぎこちなく笑いかける。
「本当に悪いな。こんなことに巻き込んでしまって」
「……フリオニールが悪いわけではないだろ。多分」
 多分、と付け足された言葉にフリオニールは苦笑した。
 クラウドを巻き込んだのはバッツとジタンだし、ストーカー被害は完全に不可抗力だ。フリオニールに全て原因があるとは言い難いが、剣道部の助っ人から始まり、マネージャーの女の子を振った。現状を作ったのは、紛れもなく自分なのだ。
「悪いと思うなら、女装デートなんて今日限りで終わりにしてくれ。嫉妬させて狂い殺せ。全力で罠にはめろ」
「クラウド、女装するとなんでそんな冷徹なんだ……」
「さあ? 肝が据わるからかもしれないな。開き直った、とでも言おうか。あとは、子どもの頃から周りの女性が強い人ばかりだったから、演技するときにどうしても精神的に強い女性を演じてしまうんだ」
 常日頃からこの肝っ玉があれば、根暗男だの鬱人間だの言われずに済むだろうに。
 フリオニールはそう思いつつも言葉には出さないでおいた。ティーダなら明け透けなく口にしているだろうが、彼の凄さはそれでも人に憎まれないところだ。
 周囲をあっけらかんとさせる、裏表のなさ。
 ためらいなくワガママを言い、ガキ呼ばわりされるのを嫌うくせ、泣きたいときには人前だろうと自然と涙する。
 その純然たる素直さを、羨ましく思う者は多い。
 フリオニールもその一人だった。
「俺は、ティーダもアンタを羨ましがっているように思えるけどな」
「オレを?」
「いや、羨望とは少し違うか。憧憬……憧れ、かな。強さと優しさと、両方兼ね備えているアンタを。物語のヒーローみたいだ、と言っていた」
 ――おれさ、ヒーローになるのが夢なんだ。
 少し恥ずかしげに、けれど子どもみたいにそう言って笑う姿を、フリオニールは知っていた。
 お互いの夢を語ったのはいつだったろう。出会って間もない頃だったか。
 確かその時だ。
 あまりにもティーダが素直に語るものだから、思わず「世界を野薔薇でいっぱいにしたい」と、隠し通してきた夢を語ってしまい、あだ名が“のばら”に決定したのは。
「……不憫な……」
「その悪気のなさが、アイツの良いところなんだ。厄介なことに」
「この際いい機会だから、アンタがティーダのことをどれくらい好きか、気付かせてやるといい。そこのビルの路地裏に隠れてるだろうから」
「!? よく分かるな」
 不審な行動は取れないので、ジロジロと見るわけにはいかないが。
 ちら、と横目で垣間見ても、フリオニールには分からなかった。尾行されていることすら不思議に思うほどだ。
「ところでクラウド。俺、いつティーダをそういう意味で好きだと、おまえに言ったっけ」
「いや……。見てれば気付くだろ? 普通」
「……気付かれたことがないから言ってるんだが……」
 何者なんだ、おまえ。
 思わず心中呟いた頃まさに、背後で尾行する作戦参謀組も揃って同じ気持ちだったことを、フリオニールは知る由もなかった。


「うわーお、さすがクラリスちゃん。完全に隠れ場所ばれてら」
「なあなあ、クラウドって何者?」
 完璧に女性に変身できるぐらい演技が上手かったり、先刻みたいに尾行ルートを瞬時に見破ったり。
 さらには文武両道、眉目秀麗。
 クラスは違うが互いに学内で目立つ存在だったので、ティーダとクラウドが知り合うまでそう長い時間はかからなかった。だが、よく自分のことを話すティーダとは違い、クラウドはどんなに親しくなってもあまり自分のことを話したがらない。
 それ故、謎の多い人物としても有名だった。 
「それね、ティーダくんが隠してた“女の子たち”も知りたがってたぜ〜」
「な、ななななんのことっすか」
 ティーダはぎくりと、あからさまに肩を揺らした。
 バッツがニヤニヤ笑いながら、その肩に腕を回す。
「あの後さあ、ティーダくんがいかにも『何か隠してます』って感じでスゲー気になっちゃってさあ。まあ、オレらにかかれば簡単に調べはついたけど。なあ、ジタン?」
「ああ。でもまさか、レディたちが作った“超極秘★校内ファンクラブ”のことだったなんて驚きだぜ。そんでもって、そのファンクラブに結構凄腕の諜報担当なんてのが居て、校内イケメンの個人情報、かなり詳細に調べ上げてるなんて」
「だから口止めされてたんだってば……」
 ティーダが彼女たちの存在を知ったのは、偶然以外の何物でもなかった。
 移動教室の場所が分からなくて彷徨っていたとき、彼女らファンクラブが会議に利用していた空き教室の扉を偶然にも開けてしまったのだ。
 活動内容は完全に個人情報保護法違反。
 そのくせ、わりと危機管理が薄いというか、うっかりしているのが考えものだった。そんなに秘密にしておきたいなら、なぜ教室に鍵をかけておかなかったんだ。
「まあ、その話はまた今度な。今は問題のおもしろファンクラブよりも、こっちの作戦に集中!」
 モデルみたいな二人組のカップルが並木通りを抜けて、この辺りで一番大きなショッピングモールに入っていく。
 その後を黒髪の少女が追って続いていくのを確認して、作戦参謀組は神妙な顔で目配せをした。


 一同は事前の作戦通り、レディスファッションやメンズファッションのショップが立ち並ぶ階をエスカレーターで通り過ぎた。
 目的は、上階にある映画館。
 そこそこ知名度はあるが、残り数日で上映が終わるため空席がありそうな恋愛映画。昼過ぎの上映開始時刻といい、空席具合といい、今回の作戦にぴったりの映画があったのは幸運だった。
「男三人でラブロマンス映画って、スゲーむなしいよな」
 言ってるわりには楽しそうに、バッツは肩を揺らして笑った。
「オレも出来ることなら、レディと一緒に観たかったぜ。変に隠れなくていいぶん、監視が楽で助かるけどな」
「ストーカーって、体力も気力も使うから疲労が半端ねえっすね」
「執念だよなあ」
 上映前の明るいスクリーンホール最後列は、坂の上から下界を見下ろすように視界が広い。カップル二人とストーカーを監視しながら、バッツもジタンものんきにポップコーンやソフトクリームを頬張った。
 ティーダも座席で寛ぐ体勢になる。Mサイズのジンジャーエールを飲みながら、ホットドッグを口に運んだ。
「端から見れば、お似合いのカップルだよな」
 ホールの中央に並んで座る、フリオニールとクラウドの後ろ姿を改めて眺めながら、ジタンが感嘆の声を漏らした。
 本人たちの意向はともかく、長身でバランスよく肉付きのいいモデル体型のフリオニールと、男性の骨格を衣装で完全に隠している中世的な顔立ちのクラウドの二人は、まとっている空気からして周りのカップルを逸脱していた。
 ここにくる間、何人もの通行人が擦れ違いざまに振り返っていたほどだ。