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僕は摂氏36度で君に溶ける

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エルヴィンはリヴァイから学んだことがある。

復讐心だけで巨人と戦ってはいけない、ということだ。リヴァイのように、生きている人間――つまりエルヴィンだが――のために戦うことが真の強さに繋がる。今回エルヴィンがリヴァイを無事救出できたのも、リヴァイを愛しく想う気持ちがエルヴィンに力を与えたからだ。それを気づかせてくれたリヴァイに、エルヴィンは感謝していた。

もちろん妻子のことは生涯忘れない。しかし彼女たちだってエルヴィンがいつまでも立ち止まっていることをよしとはしないだろう。

エルヴィンは、ゆっくりと、ここから歩き出すのだ。



「あんた、仕事は」
事後を思わせる掠れた声でリヴァイは問う。

「今日休むために昨日頑張ったんだ。君の看病をしようと思っていた」

「そうか」

「休んでよかったよ。まさか、君の方から直接的に誘われるとは思っていなかった」

先程までの行為を揶揄するエルヴィンに、リヴァイは照れたように怒る。
「うるせえ、このえろじじい!てめえしつこいんだよ」

「じじいって酷いな。それに君だってよがっていたじゃないか」

「そういうとこがえろじじいなんだよ!」

「まあ君と比べれば私は年をとっているかもしれないが」

「あ」
エルヴィンのその言葉に、リヴァイは急に声を上げる。そういえばこいつは自分の年を勘違いしていた。

「なんだ?」

「てめえ、俺のこと子供扱いしやがって!俺はもう18だ!」

「は!?」
エルヴィンは驚愕して目を見開く。

「……何歳だと思ってたんだよ」

「てっきり14くらいだと」

「14のガキに手出したのかよ」
リヴァイは少し顔を引きつらせた。

「いや、君は結局18だったわけだし。ああ、戸籍の登録をし直さなくては」
エルヴィンはわざとらしく大きな声を出して話題を変える。

「登録?そんなことしてたのか?」

「君にもきちんとした生活を送ってほしくてね。戸籍をとるのは大変だったが生年月日の変更は、まあ、それに比べれば容易だ」

「がっぴ?いつにしたんだよ」
適当に決めたのだろうか。

「聞き忘れていたから、12月25日にしているが」

リヴァイはぶっちゃけた話、自分の生まれた正確な日付は分からない。しかし、エルヴィンの判断は正しいだろう。自分はあの日、エルヴィンと出逢って生まれ変わったのだから。

「日付は、そのままでいい」

「そうかい、わかったよ。怪我の方はもう治っているんだな?明日から一緒に出られそうか?」

「ああ」
腰と尻が痛かったが、そこは根性で耐えよう。リヴァイも久しぶりに外に出たくてたまらなかった。

「あと、これを」
エルヴィンは寝室のサイドボードから一枚の純白の布を持ってきた。

「君の童顔を隠す手助けをしてくれるだろう」

こうやって、使うんだ。その布をリヴァイの首元に巻くエルヴィン。

「その首の痕を隠す役割も果たす」
エルヴィン自身がつけた愛の跡を見て、少し意地悪に彼は笑った。

巻かれた純白の布は、まるでエルヴィンに与えられた首輪のようだ。首元に感じる少しの息苦しさも、今のリヴァイには幸福に感じられる。



凍るように冷たい冬も終わり、ようやくあたたかな春の息が感じられる頃だ。

リヴァイは揺るぎない存在意義を手に入れた。

エルヴィンを愛する、そしてエルヴィンに愛される、という甘美な存在意義。

首のスカーフに埋れた顎をあげ、リヴァイはエルヴィンにキスを贈る。途端に引き寄せられた温かな腕の中で、リヴァイは幸せそうに笑った。

La fin.
作品名:僕は摂氏36度で君に溶ける 作家名:かん