Wizard//Magica Infinity −7−
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ここは病院。
女の子と男の人が廊下の椅子に座って一緒に飴を舐めていた。
窓から差し込む夕日が二人を照らす。
「ねぇほむらちゃん」
「なに?お兄ちゃん」
「俺さ、本当は弱いんだ」
「え?そんなことないよ!だってお兄ちゃんは私を笑顔にしてくれたもん!お兄ちゃんと一緒にいて楽しいよ!」
「それでも、俺は弱い…だってさ…おれ…もう…絶望…しちゃいそう…なん…」
男の人は急に胸を押さえ込み始めた。
何かに圧迫されていたのか、それとも持病か何かなのか。酷く辛そうな表情をしていた。
「お兄ちゃん…お兄ちゃん?どうしたの!?どこか痛いの!?」
「ごめんねっ…ほむらちゃん…俺もう限界みたい…辛いんだよ…皆が傍に居ないのが……わからないんだ…俺が生き残った理由が…う…」
「何!?お兄ちゃんの言っていること、わかんないよっ!!」
幼い頃の私は目の前にいた男の人が何故、辛そうに苦しみ始めたのが意味がわからなかった。だから、助けを呼ぼうにもどうしていいのかわからなかった。
その時、男の人の右手の中指に装着されていた赤い指輪に気がついた…ゆっくり、ゆっくりと綺麗な赤色からどす黒い黒に変わろうとしている…。
「駄目!お兄ちゃん駄目だよっ!」
「……もう……いいんだ……俺は…」
「お兄ちゃんっ!!」
なにが起きているかわからない。
だけど…何を思ったのか、何を考えたのかはわからないけど、
幼い頃の私は、
「……え?」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん」
優しく…包み込むように、
男の人の手を握ってあげた。
「ほむら…ちゃん?」
「お兄ちゃん、悲しい顔しないで。お兄ちゃんは ほむら を笑顔にしてくれたヒーローなんだよ?」
「ヒーロー…?」
「うん!ほむら だけのヒーロー!お兄ちゃんは本当はとってもとぉ~っても強い、ほむらだけのヒーローなんだよ!」
その時、男の左手の中指にある赤色の指輪に溜まっていた黒い何かが引き、元の美しい輝きを取り戻した。それと同時に男の人の顔が明るくなる。
「ありがとう…ほむらちゃん。元気出たよ」
「本当?」
「うん。本当…そうだね、ほむらちゃんの言う通りだ。俺は…ここで立ち止まってはいられない。俺は、皆のヒーローになるため、戦い続けなくちゃいけないんだ」
「えっ、お兄ちゃんどこいくの?」
男の人は立ち上がる。
「ごめんね。俺はもう、この病院を出て、また歩きはじめなくちゃいけないんだ」
男の人の後を追うように私は必死に走った。
「えっやだよ!お兄ちゃん行かないで!」
「大丈夫、ほむらちゃんはもう強い。これからも、きっとひとりでも大丈夫だよ」
「そんなぁ…これでお別れだなんて…嫌だよぉ…」
「大丈夫」
「また、会えるよ。きっと」
「ほんとう?」
「うん、大丈夫。だから、またね。ほむらちゃん」
「……ぐすっ…うん!」
そして、男の人は歩いていった。
幼い私を残して。
それ以来、男の人は私の下に帰っては来なかった。
−−−そうだ。
思い出した。
あの男の人…あの男の人は…。
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作品名:Wizard//Magica Infinity −7− 作家名:a-o-w