Wizard//Magica Infinity −7−
ワルプルギスの夜との対決が迫っていた数日前、私は弾薬調達の為に見滝ヶ原の夜の街を駆け巡っていた。
この見滝ヶ原市は、一見平和そうな街に見えるが、実はそうではない。普通に生活する一般人には知らない…裏の顔も持っている。
その開発都市であるがために一般企業の競争は他の都市に比べて盛んである。そのため裏で色々な取引をしたりすることもぼちぼち…いや、頻繁にあるのだ。
そのため、中には穏便では済まない取引、交渉があるがゆえとある事務所に普通に拳銃等の重火器の類が保管されていたりする。
私は時間停止能力を上手く使いその事務所の金庫から弾丸やワルプルギスの夜に対抗するための爆弾等の類を拝借、いえ、頂戴させてもらうのだ。
「…セムテックスにC4…一体どんな取引をするつもりだったのかしら…とりあえず頂いていくわ」
私は別にミリタリーマニアではないので、その日手に入れた銃火器を持ち帰ってネットなんかで使い方や名称をよく調べる。お陰でこの類の知識は一般人、ましてや同い年の男女以上に豊富で私は魔法少女…というより…魔砲…いや、この話は良いか…。
「AKにM4…これはPMG1…それにOperatorのサプレッサー付き、いや、サプレッサーは無くても良いか…あとは…FIM−92!?…対ワルプルギスに使えるわね…」
「いやいや、いくらなんでも詳しすぎじゃない?」
「っ!!?そ…操真ハルトっ…いつからそこに…」
「しっ…声がでかいよ」
振り向くとそこには操真ハルトが至近距離で私の傍にいた。
突然のことで少々気を取り乱してしまったが、私は手を緩めることなく次々と銃火器を左腕の盾型砂時計にしまっていく。
「さて、私はさっさとここを退散するけど、あなた一体どうやってここまで入ってきたの?警備はそれなりに厳重だった筈よ」
「何って、普通に眠らせてきたけど」
「えっ…」
武器保管庫のドアをちょっとだけ開け事務所内を見渡すと皆、いびきをかきながら地面に突っ伏していた…どうやら脱出するときは歩いてでも大丈夫そうだ…。
・・・
「で、今日の用件は何?また私のソウルジェムが狙い?」
「まぁ…ね、そんなところでもあるんだけど」
夜の見滝ヶ原の公園、初めて操真ハルトと出会った場所だ。
まぁ、彼が現れた時点で私のソウルジェム目的なのは確実なわけで、私は最初から魔法少女の姿に変身していた。
「『ドライバーオン』プリーズ!」
「もしかしたら…なんだけどさ。ほむらちゃんってもしかして時間停止以外に魔法らしい魔法使えないんじゃない?だからあんなに大量の実弾兵器を調達してたんじゃないかなって思うんだけど」
「だったら…何?」
「いや、なんでもないよ。さて…そろそろ ほむらちゃんのソウルジェム、俺に頂戴」
「『フレイム』プリーズ!『ヒーヒー!ヒーヒーヒー!!』」
操真ハルトは魔法使いの姿へと変身し、右手に銀色の剣を私に差し出した。
それと同時に私は先程調達したアサルトライフルを取り出し、彼に向ける。
「さぁ…ショータイムだ」
操真ハルトの言葉と同時に私に向かって彼は走ってくる。私はすぐさまトリガーを弾き彼へと放った。しかし銃弾は全て彼の華麗な剣さばきによって撃ち落とされる。
「近距離戦は馴れてないんじゃない?」
「…っ…」
何度か彼の剣が私の身体を切り刻みそうになったが時間停止を駆使して全てを回避する。だけど今の斬撃…全て致命部分を避けていた。
「どういうこと?本当にあなた、戦う気があるの?」
「言ったでしょ、俺は…くっ…」
「…?」
「あ、…くそ…こんな時に……」
その瞬間、戦闘中だというのに操真ハルトは右手の剣を落とし、両手で頭を抱え地に伏せてしまった。どうしたというのだろうか…酷くうなされているように見える。先程までの威勢が嘘のようだ。
「…まだ…駄目だ……」
「…操真ハルト?」
「……はぁ…はぁ……ダメ…今日もやっぱり無し」
操真ハルトは何かをこらえながら無理矢理立ち、変身を解いた。
酷く汗をかいている…。
私は彼に致命的な攻撃を与えたつもりはない。
だとしたら…彼自身に何かがおきている?
「あなた、一体どうしたの?」
「あっく……やばい…あいつが…あいつが…あぁぁ!!」
その瞬間、彼の腰に巻かれていたベルトが起動した。
「っ!!ほむらちゃんっ…今すぐここから離れてっ!!」
「えっ?」
「奴は手加減しない!!その前に早く逃げるんだ!!」
「何を言っているの?あなたの言っていることがわからないわ!」
「早くっ!!…う、うあぁァァァァァァァ!!」
「っ!凄い…魔力が…」
何が起こったのか。
状況が理解できない。
私は一瞬目を閉じてしまった。
「『フレイム』ドラゴン!!『ボォーボォー!ボォーボォーボォー!!』」
再び目を開けると…そこには−−−。
「っ…え……」
「…ふぅ~…ようやく俺を解放…いや、正確には俺を抑えきれなかったらしいな。操真ハルト」
再び変身した、彼の姿がある。
だけど…先程とは何かが違う。
先程までは感じ取れなかった…邪悪な魔力が。
「本来ならあの『女』を倒した時に解放されていたはずなんだがなぁ…何を堪えていたのだか」
「『コネクト』プリーズ!」
「さて、どうせこのあと、俺の身体から『あいつ』が生まれるんだ。だったらよぉ…女」
「『ドラゴタイム』セットアップ!スタート!!」
「いまのうちに、絶望しといたほうが良いんじゃねぇか!?なぁそうだろ!!?」
「ッッッ!!!?」
ものすごい衝撃が私の身体を襲う。
あと少し遅かったら、私の身体はバラバラになっていただろう。
なんとか左腕の盾で彼のキックを防いだ…だがその力は先程とは桁違いだ。力の差が違いすぎる。
「お前の魔法はただの時間操作だろ!?ははッ!!いつまで持つかなァ!?」
「『ウォータードラゴン!!』」
「2対1は流石にキツいかぁ!?」
その瞬間、私が対峙していた逆方向から殺気を感じ取り、時間を停止させ空中へと対比する…私が見たのは、分身したもう一人の操真ハルトの姿だった。最初に現れたのが赤色の彼に対し、分身して現れたのは青色の彼。
心拍数が上がる。
息が荒くなる。
私は今、本当の恐怖を感じている。
この状況は最悪だ。
力の差がありすぎる。
「ここに居ては駄目っ…逃げないと」
「『ハリケーンドラゴン!!』」
「どこに?」
「っ!!きゃぁぁっ!!」
後頭部に強烈な痛みが走る。
何かに蹴られたようだ。
私は無残に地面に落ちる。
目を凝らすと、空中には風を纏わせて浮遊している緑色の彼。
まだ分身が出せたのか…。
「ぐぅっ…くぅぅ……」
「驚いた…流石は魔法少女だ。普通の人間とは身体の出来が違う。それなら…」
「『ランドドラゴン!!』」
「押しつぶされてしまいなぁぁっ!!」
うつろ状態だが身体の防衛本能が働いたのか空中から私目掛けて落ちてきた黄色の操真ハルトをなんとか回避する。彼が落ちたあとには大きなクレーターが出来上がった。
流石にあれをまともに受けていたら今頃どうなっていただろうか…。
作品名:Wizard//Magica Infinity −7− 作家名:a-o-w