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断崖の幸福

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■第五話■



「……スコール」
 翌朝。頬に触れる手と囁くように名を呼ぶ声で、スコールは目を覚ました。
 まだ頭はぼんやりとしている。瞼を何度も瞬かせながら開くと、焦点の定まらない視界の中心に、挑戦的に微笑するバッツがいた。
「バッ、ツ……!?」
 自分の置かれた現状を理解して、スコールは身構えた。やけにシーツが重い上に暑苦しいと思ったら、ベッドで仰向けに眠る身体の上に、バッツがのしかかっている。
 そういえば。昨日はあれからどんな顔をして会えばいいのかも分からず、結局一度も部屋を出ずに眠ってしまった。
 昨日のキスも含めて、一体どういうつもりかと。睨むスコールの頬に手を寄せて、獰猛な目をしたバッツの顔が迫る。鼻頭がくっつきそうなところまできて、その顔がニカッと満面の笑みに変わった。
「スコ、起きるの遅いじゃんか。ネクタイ結んでくれよ、ネクタイ」
「…………」
 ほい、と渡されたブレザーのネクタイを、拍子抜けしたスコールは唖然としながら見つめる。
 学校が始まって数日経つが、バッツは未だに制服のネクタイが結べないままだ。早く覚えろと急かすが一向に覚える素振りはみせず、毎朝バッツのネクタイを結ぶのがスコールの日課になりつつある。
「今からか?」
 普段は、一緒に家を出る直前に結んでいる。上にのしかかるバッツを改めて見ると、7時前にも関わらず制服に着替えていた。スコールは不審に思う。学校から程近いスコールの家は8時に家を出ても十分間に合うので、そう急ぐ必要はない。
「オレ今日は先行くから。スコールも後でちゃんと来いよ」
「あ、ああ……」
 押し倒されたような態勢のまま、間近に迫った首に些かぎこちなくネクタイを通す。バッツのネクタイを結びながら、スコールは上の空の返答をした。普段と何ら変わらない調子。昨日のあれは、バッツにとっては悪戯のようなもので、ただ、ふざけただけだったのだろうか。
 ネクタイを結び終えると、ようやくバッツが半身を起こした。自分の顎に手をかけて、モデルか俳優にでもなったみたいに格好付けながら、キランと目を輝かせる。
「おしっ、準備完了。今日も格好良いじゃん、オレ」
「……人の上で暴れるな。重い」
 スコールが苦情を出すと、バッツはベッドの上から勢いよく飛び降りた。
「オレ、今日は演劇部に行くつもりなんだ。スコールはどうする?」
「行かない」
「だよな〜。一応聞いてみただけ。じゃ、アデュー!」
 カタカナ発音のフランス語を発しながら、賑やかに部屋を去っていく。
 スコールは、あまりにもあっさりしたバッツの返答に違和感を覚えた。昨日は「行かない」と言ったとき、珍しく腹を立てたような雰囲気だったのに。
「諦めた、のか?」
 声に出してみても、疑問が解決することはなかった。


 朝は不自然に思ったバッツの様子は、時間が経つにつれてそう疑問に思うこともなくなった。
 一つ変わったことと言えば、部活見学にしつこく誘われなくなった。だがそれ以外は何も変わらず、休憩時間になれば相変わらず構ってくるし、昼になれば昼食に誘われる。
 晴れている日は決まって、引き摺られるように屋上に連れられて二人で昼食を食べるのだが、今日はジタンも一緒だった。
「うっわ、カップルばっかじゃん。よくこんな場所で、男二人で食ってたな」
 ジタンは開口一番に不満を漏らした。屋上には頻繁に出入りしていると言っていたが、昼食の時間に来たのは初めてだったようだ。
「まぁまぁ。周りを空気だと思えば絶景だろ。御天道様ちょー最高」
「バッツ、前に高いところ苦手って言ってなかったっけ?」
 不思議がるジタンに、バッツは不敵に笑ってみせた。
「問題は、地に足がついてるかどうかだからな! 建物の屋上ならわりと平気。落下系よりは大分マシだ。それに、空が近いと気分いいしな」
「それには激しく同意だけど。3人居てもむなしさが拭いきれねーよ。今度友だち連れてくる」
「お、いいね。そんじゃ、保険医のアルティミシア先生みてーな蠱惑系美女で」
「残念、男だ。芸能人顔負けの美形だけど」
「どんな顔?」
「舞台立ちする顔」
「出た、演劇オタク的感想! なあ、スコール。オレこいつにさ、『うちのクラスのスコちゃんどう思う?』って試しに聞いてみたんだよ。そしたらなんて言ったと思う?」
「……舞台立ちする顔」
 以前、ジタン本人の口から言われた評価を、スコールは些か投げやりに呟いた。
 あのバスケットボールの試合以来、ジタンもバッツと同様に、休憩時間に構ってくるようになった。何が面白いのか、スコールの机を使って二人でトランプをしたり、腕相撲をしたり。自分たちの机ですればいいものを、なぜわざわざ人の机を使って遊ぶのか。
「オレは感動したね。巷じゃスコールのことをヤクザだのホストだのウワサしてるってのに、感想が全部演劇関係で」
 笑顔を浮かべて目を輝かせるバッツに、ジタンは芝居がかった仕草でチッチッチッ、と指を振る。
「おれをそんじょそこらのヤツと一緒にしてもらっちゃ困る。人を見る目が違うんだよ。おまえも体操着に着替えるときに見ただろ、スコールのこの――上腕二頭筋を! 僧帽筋を! 大胸筋に腹直筋を! 制服の上からでも分かる引き締まった大腿四頭筋を! 徹底的に無駄を省いた筋肉には惚れ惚れするね。ふくらはぎの腓腹筋なんて最高だろ。男のおれから見てもすげえ色っぽくて嫉妬しちまうぜ…!!」
「ぶわっはははははっ!! ジタン、おまえ格好良いよ…! 最高だよ! おまえに惚れそうだよ!!」
 文字通り爆笑しながら、バッツは腹を抱えて屋上の床を転げ回ったり、肩を震わせながら何度もフェンスを叩いたりと忙しい。
 何事かとカップルたちの視線を集めてしまい、スコールは恥ずかしいことこの上極まりなかった。
 人を見る目は確かに違うが、視点がマニアックすぎてついていけない男・ジタンは、舞台慣れしているだけあって注目を集めるのには慣れているようだった。屋上の視線をさして気にもせず、弁当を広げて昼食を再開する。……大物だ。
「いいよな、その肉体。本気で演技学べばアクション・スターも夢じゃねえよな」
 結局そこなのか。
 思考の全てが演劇に行き着く男・ジタンは、スコールの上腕二頭筋を、形を確かめるように何度も掴む。
「運動部に入ってないのに、なんでそんな身体してんだ?」
「ガキの頃は剣道の道場に通ってたんだ。道場をやめた今でも、父親相手に何度か竹刀を振ってる」
「ついでに射撃も英才教育受けてんだぜ。体術もいくつか使えるし。こいつんちの親父は警察のお偉いさんで、スコールは桜の代紋を背負って立つ期待の星ってわけ」
「なぁる。性格的にもぴったりかもな。他人に興味アリマセンって顔してっけど、結構世話焼きだろ?」
 ジタンがニヤニヤ笑いながらスコールの肩に腕をまわして、ふにふにと頬をつつく。スコールが迷惑そうに眉を顰めても、お構いなしだ。バッツといいジタンといい、なぜ似たようなタイプばかり集まるのか。
「そんなスコールとバッツに、頼みがあるんだけど」
「たのみ?」
 バッツが口に含んだパンをもぐもぐさせながら、首を傾げた。
「そ、ちょっとした頼み。今日、体育館に来てくれよ。話はそれからだ」