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断崖の幸福

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■第八話■



「おまえら、何かあっただろ」
 聞かれるだろうとは思っていたが、午前授業の休憩時間に尋ねられ、スコールは少々面食らった。
「察しが早いな」
「人間観察が趣味なもんで。演技にいかせるからな。おまえらの場合分かり易すぎだけど」
 ジタンはスコールの正面に仁王立ちした。教室の席で読書に耽っていたスコールの両頬を、むにーっと抓る。
「いつになく感情の籠もってない顔してるし。バッツはバッツで、今までの構い倒しっぷりが嘘みたいにスコールを避けてる。どうしたんだって聞いてもはぐらかされる。喧嘩にしちゃ、様子が変だ」
「……バッツが昨日どこで寝泊まりしたか、聞いてるか?」
 ジタンの両手首を掴んで抓るのを止めさせながら、スコールは尋ねた。
 質問に質問で返され、ジタンは口を閉ざす。諦めたように嘆息して、首を振った。
「本人に聞いてみろよ。現代人に一番欠けてる能力は、他人とのコミュニケーション力だぞ。言葉を話せない赤ん坊じゃあるまいし」
「……まあな」
「本人に聞くのは嫌だ! とか駄々捏ねたら、今日からスコールのあだ名、ポンデな」
 どこに隠し持っていたのか、ジタンはスコールの机の上にポンデライオンのぬいぐるみを置いた。外見は可愛くデフォルメされたライオンだが、たてがみがドーナッツ状になっている。某有名ドーナッツチェーン店のシンボルキャラクターだ。生まれたばかりの赤ちゃん猫サイズのぬいぐるみが、つぶらな瞳でスコールを見上げる。
「……ぽんで……」
 真っ黒い二つの点から、スコールは目が離せなくなる。子猫サイズのそれをそっと持ち上げた。胴体を持った手から伝わるもふもふとした綿の感触が、癒しの効果を倍増させている。
「朝学校来たらスコールの机の上に、ポンデのぬいぐるみ置いとくからな。おまえのそのライオンの意匠が入ったネックレス、ライオンの部分をポンデに変えとくから。そんでもって、毎日嫌がらせに目の前でポンデリング食ってやる。そのうちあだ名が浸透して、ようポンデ! って呼ばれるようになって、ポンデリング食ってたら共食いじゃーん! ってからかわれる羽目になるんだ」
「………………」
「スコール? 聞いて……ねぇなコレ。スコールっ、スコ。スッコスコ。……このっ、すっことどっこいッ!」
 ポンデライオンのつぶらな瞳に囚われたスコールの額へと、ジタンのウルトラチョップが炸裂する。力一杯、片手で手刀が振り下ろされた。
 容赦のないツッコミが痛い。
「気に入ったならそう言えよ。おれん家に腐るほどあるから、何個かやるぜ?」
「……べ、つに……。気に入ったとは、言ってない」
 ジタンはひくひくと口を引き攣らせた。
「ぬいぐるみから手ぇ離してから言えこのツンデレさんがぁぁー!」
 頬を赤らめて目を逸らすスコールの額を、激しいモンゴリアンチョップが襲う。両手を同時に振りかぶって叩きつけられ、さっきよりも更に二倍増の痛みだ。スコールは額を抑えて呻いた。
「……もうおまえ今日からスコール・デ・ポンデ・オ・ライオンな」
 溜息交じりにジタンが呟く。スコールは不満げに眉を顰めた。
「それは、嬉しくない」
「嬉しがらせたくてやってんじゃねーよっ!!」
 これでは話が先に進まないと、ジタンはスコールの手からポンデライオンを奪取する。名残惜しげに自分の両手を見つめるスコールの額に、今度はチョップではなくデコピンが放たれた。
「いてっ」
「人の話はちゃんと聞けよ。まあ、本題は喧嘩の話じゃないんだけど。……バッツが、演出の話を断ってきたんだ」
 それはスコールも予想していた。断った理由をバッツが話すとは到底思えない。気になって当然だろう。ジタンには、理由を聞く権利もある。本人が言わないのならとスコールに尋ねるのは、自然の流れだった。
「……すまない」
「スコールに謝られてもな」
 呟くように謝罪したスコールに、ジタンは間髪入れず淡々と返した。呆れ返った様子で、項垂れる顔を睨む。
「おれが聞きたいのは謝罪じゃなくて、なんで辞める気になったのか、理由を知りたいんだよ。でも、二人とも言いたくないんだろ。だったら無理に聞きだそうなんて、野暮な真似はしない。で、スコールは演出の件、続けるのか?」
「無論だ」
「ああ、うんやっぱ辞め……え、マジ? だって、昨日倒れただろ。頼んどいてなんだけど、大丈夫かよ」
 驚いた様子のジタンに、スコールはハッキリとした声で告げた。自然と低めの声になる。
「一度引き受けた仕事だ。最後まで続ける。……それに」
「それに?」
 ジタンの問いかけには応えず、スコールは席を立った。
 休憩時間が終わりに近付いている。授業開始の鐘が鳴る前に、教室の中心でクラスメイトと賑やかに会話する男を捕まえなければならなかった。
「バッツ、ちょっといいか」
 クラスメイトが好奇の視線を向けるなか、バッツは感情の籠もっていない瞳で見返した。
 ……やめてくれ。俺みたいな顔をするのは。
 その瞳を見据えながら、言葉にすることのなかった決意の続きを、胸中で呟く。
 いい加減、前に進まないといけないだろ。俺も、俺を変えたおまえも。


 思い起こせば、ここ最近はめまぐるしい日が続いていた。
 興味も関心もなかった部活見学に連れ回され、サボってばかりだった体育の時間に本気でバスケットボールの試合をして。理解不能な難癖をつけられ不良と戦闘をしたり、他人と口論を繰り広げた末に演劇部で演出を手伝うようになったり。
「珍しいじゃんか。スコールが体育以外の授業をサボるの」
 たんにサボりたかっただけかもしれないが、バッツはスコールの呼び出しに大人しく応じた。
「休憩時間のあいだは周りの目が気になって話しにくいだろう。俺も、おまえも」
 屋上についたスコールは、バッツに先に入るよう促し、自身は扉を背後にして立つ。
 日差しの強さに、スコールは目を細めた。バッツの頭上には快晴の空が広がり、燦々と陽光が降り注ぐ。
 まだ四月の半ばだというのに、時折夏のような暑さが訪れる。今日もそんな日だった。
「どういうつもりなんだ、まったく。金も持たずに家を出て」
「いや……開口一番聞きたいのって、そっち?」
 おまえはオレの母親かと言わんばかりに、バッツが呆れ返る。
「金がないのに、どこに寝泊まりするつもりだ。ホテルもカラオケもネットカフェも無理だろう。食事はどうするんだ。風呂は? 服の洗濯は?」
「適当になんとかするって。これでも二年間生き延びてきてんだ。……ああでも、さすがに中卒じゃ飛び込みでバイトしようとしてもなかなか雇ってもらえなかったから、高校だけは卒業しとくんだったって、結構後悔したんだぜ」
「それで、学費は続けて払ってもらうために、通帳を置いていったのか」
「もともとスコールの親父さんには返済つもりだったからな。渡すのが早まっただけ。学歴高卒ならヤバイ仕事に手を出さなくても、どっかで金稼げると思うんだよな」
「……ヤバイ仕事?」
 不穏な響きを反芻するスコールに、バッツは口角を上げ、挑戦的に目を細めた。
 相反する目映い日差しが、バッツの鋭く射抜くような表情に潜む暗い影を、より一層際だたせていく。