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シノ@ようやく新入社員
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断崖の幸福

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■第二話■



 12月も二週目に入った頃。
 夕食にと頼んだケータリングのピザは、リビングのローテーブルの上ですっかり冷めきっていた。
 それを放置したまま片付けもせずに、スコールはテーブル前のソファに座って、文庫本のページを捲る。
 時が経つのを忘れて最後の活字を読み終えたときには、壁際の液晶テレビでそこそこに有名な俳優のドラマが始まっていた。読書の邪魔にならない程度に音量を下げて、BGM代わりにしていたテレビの電源を切る。
 普段、父親が帰宅する時間はとっくに過ぎていた。
 ただの残業か、張り込みか。
 帰宅できないなら連絡の一つくらい寄越すだろうと思って携帯を開くと、小一時間前に新着メールが入っていた。
『土産を持って帰るから、風呂沸かしとけ』
 命令口調。
 土産を買った代わりに風呂の用意をしろ、と。風呂なら毎晩スコールが沸かしているので命令されるまでもない。よほど、外が寒かったのだろうか。
 そういえば。今晩は初雪が降ると、今朝の天気予報で言っていた気がする。
 カーテンを開けて確認しようと窓に近付く前に、「ただいまー」という耳慣れた声と玄関の開く音がした。
「スコール、起きてるかー? 寝てたら起きろー。タオル持ってこーい」
 横暴な。
 夜中に大声で息子を呼びつける父親に、スコールは頭の痛い思いがした。近所迷惑だろ。
「アンタな……。玄関の目の前に洗面所があるだろ。自分で取りに……」
 渋々タオルを持って出向いたスコールは、それきり二の句を継ぐのを忘れてしまう。
 玄関に居たのは、父親だけではなかった。
 童顔の男が、スコールを興味深げに凝視している。背丈は同じくらい。年齢も同じくらいだろうか。少なくとも、同世代で間違いない。
 脱色しきった明るい茶髪と深奥の森を彷彿とさせるダークグリーンのコートは、室内の温度で解けた雪の雫を被っている。
 こんな時間に、誰だ?
「うわ、びっじーん。でも……」
 童顔の男が適当に靴を脱ぎ散らかして、スコールの前に何の躊躇いもなく正面から立ち、遠慮なしに顔を近づけてくる。
 訝しむスコールの眉間――額から鼻筋にかけて、指先がそっとなぞった。
「――!!」
「でっっっかい傷だなー」
「…………」
 ぱしり、と。スコールは乱暴にその手を払う。
 他人に傷を触られるのは不快だった。嫌悪感に吐き気がする。
 険悪な態度のスコールに反して、手を払われた方は大して嫌な顔をするでもなく、目をぱちくりと瞬かせた。
「へええ。息子さん、アンタに全然似てないのな」
「そうかあ。オレは似てると思ってるけどな。カリスマなとことかカリスマなとことか、あとカリスマなとこ」
 それは息子を紹介するというより、自分の自慢をしたいだけだろう。
 父親はタオルで濡れた髪やコートの雨雫を払った後、使用済みのタオルを息子に投げ渡した。自分で片付けないつもりか……。
 眉を顰めるスコールの顔を、同様にタオルで髪を拭きながら、男がまた興味深げに覗き込む。検分されるような視線に、スコールは更に口を引き結んだ。
 一体なんなんだ。
「やっぱ似てないって。息子の雰囲気のがアンタよりよっぽどカリスマっぽさ出てるけど」
「おまえね。これからお世話になる家主を少しは敬いなさい」
 世話になる?
「カリスマっつうより、アンタが馬鹿みたいにお人好しな人間だってのは分かったけどなー。無償無期限で成人前の男を引き取ろうなんて、普通なら誰も思わないっしょ」
「……おいちょっと待て。引き取る、だと?」
 寝耳に水の話に、スコールは父親を睨みつけた。
 この男は、たまに行動が突拍子もない。相手との間に壁を作らないことに関しては、極限を行く性分をしている。犯人の境遇に同情して加害者の家族と仲良くなったり、加害者・被害者の親類のプライバシーを侵害するような酷い報道をするマスコミに猛然と抗議したり。問題視する程ではないが、一介の警察官にあるまじき行為だと同僚や上司から言われているのを、子どもの頃から何度か耳にした。
 しかし、他人からすれば問題視する程ではなくとも、身内ならば話は別だ。
 今回は、その最たる例ではないか。
「そんな話、俺は一言も聞いていない」
「ついさっき決まったからなあ。息子よ、紹介が遅れた。これがお土産だ。すぐそこの河川敷で、ホームレスと鍋パーティしてたところを拾った」
 捨て猫を拾ってきました、と言わんばかりに。実にあっさりと父親はのたまった。お土産、と指し示された男が、ぶりっこポーズでウィンクする。
「バッツ・クラウザー19歳、職業・浮浪者でっす! 優しくしてねっ」
「………………」
 スコールは全力で、父親とバッツを家の外へと蹴り飛ばした。呆然とする二人を余所に無言で扉を閉め、鍵をかける。
「さ、寒っ! スコール、家に入れてくれ! 凍え死ぬ!」
 ドン、ドンと必死に扉を叩く常識外れの父親に、スコールは嘆息した。
 いっそ凍えて死んでしまえばいい。


 軽いノックの後、間髪入れずに自室の扉が開かれる。開いた扉から、バッツがひょこりと顔を覗かせた。
「スコール、勉強教えてくれよ」
「……勝手に入ってくるな」
 主の許可を得る前に扉を開けては、ノックをする意味がない。最も、部屋に入れるつもりは毛頭ないのだが。
 スコールの心情を知ってか知らずか。
 バッツは我が物顔で侵入し、部屋の中央に置いているローテーブルに参考書を広げ始める。
 窓際のオフィスデスクで高校の授業課題をしていたスコールは、引き出しから携帯式の音楽プレイヤーを取り出した。電源を入れて、両耳にイヤホンをはめる。
 こちらから構うことはない。相手をする気がないと分かれば、勝手に出て行くだろう。
 軽快なポップサウンドに、流暢な英語のアカペラが混じる。洋楽をBGM代わりに流し始めてすぐ、ふと背後が静かになった。首だけ回して振り向けば、バッツがテーブルに突っ伏している。
「…………」
「………………」
「…………ぐー……」
 寝るな。
「ぶほっ」  
 丸めた教科書で茶色い頭をバコッと叩き、人の部屋で居眠りを始めたバッツを叩き起こす。
「開始3秒で寝るやつがあるか……」
「ワリー。数字とアルファベットと読めない漢字見てっと、ついコックリきちゃって」
 参考書を見ながら、バッツが困ったように頭を掻く。
「本気で勉強する気はあるんだな」
「あるあるアリマス! 折角これから一緒に住むんだし、スコールと同じ学校行きてぇもん」
「…………」
 明らかに拒絶の態度を取られて、なぜそう思うのか。
 バッツが居候するようになって数日経つが、スコールには未だ彼のそういう部分が理解できない。
 あの夜。
 ホームレスと鍋パーティをしていたというのは、どうやら本当の事で。未成年ということもあって、たまたま通りかかったスコールの父が補導した。非常に似通った人柄の二人は妙に意気投合したところで、偶然にもバッツが、スコールの父と知己だったバッツの父の息子だと判明し、家に招くという結論に達したらしい。
 なぜ友人の息子だから、居候させるという結論になるのか。
 一足飛びの結論に、スコールは呆れて物も言えなかった。