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ラブ・ミー・テンダー 2

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『ラブ・ミー・テンダー』 第二話

   ◇ ロスト・メモリー ◇

「う〜ん…どうやら、上京してからの記憶が一年分、物の見事に欠落しちゃってるみたいだねぇ〜」
 幾つか帝人に問診した後、実にケロリとしたお気楽な口調で、そんな所見を新羅が述べた。
「起きたら、知らない場所で、知らない人達に囲まれてたから、びっくりしちゃいましたけど…そうですか。僕の方が、皆さんの事を忘れてしまってたんですか」

 覚えてなくて済みません…と、恐縮そうに顔を俯けた帝人は、現在《プチ記憶喪失》中だ。
(幸い15歳までの記憶は残ってるので、軽症と見なされ“プチ”が付いた。認識に一年のズレは生じているが、一応、自分が何処の誰かは、ちゃんと分かっているらしい。)

 取り敢えず、皆で「改めまして」と帝人に名乗り、これからどうするかについては、「食事でもしながら相談しようか」と、少し遅くなったが鍋パーティーをスタートさせた。

  * * *

 テーブルの一番端におずおずと着座した帝人の隣りには、ずっと付き添っていた静雄が並ぶ。

 子供の頃とだいぶ印象が変わっていたので、すぐには紀田と結び付かなかったが、先の自己紹介で、ようやく幼馴染みの存在に気付いた帝人は、見覚えのない顔触れの中に、一人だけでも知己が居てくれた事を、とても頼もしく感じている素振りを見せた。

(ほっとした顔で、「まーくん」と昔の愛称で紀田を呼んだ、帝人の嬉しげな声を聞いた時、少しだけ胸が痛かったのは内緒だ。)

 気心の知れた旧友が近くに居た方が、帝人も心細くないだろうと判断し、この場は紀田に譲ろうとしたのだが、他ならぬ帝人自身が「傍に居てほしい」と望んでくれたので、静雄が隣りに腰を下ろして、紀田は正面に落ち着いた。

 リビングに移動した時、口止めする間もなく、狩沢が『同棲中のみかプーの恋人』だと、二人の関係をバラしてしまった所為なのは分かっている。…たぶん帝人は、恋仲だった事を忘れてしまった罪悪感から、俺を立ててくれただけなのだろう。
 だから、帝人の言葉が本心だったと、自惚れるつもりは毛頭ない。
 それでも、「一年後の未来にタイムスリップしてしまった気分」だと、寄る辺のない不安を小さく漏らした帝人が、紀田ではなく俺を拠り所として選んでくれたのは、たとえ義理でも嬉しかった。

  * * *

 鍋をつつき始めた最初の内こそ、帝人は、個性派集団のアクの強さに戸惑っていた様子だったが、常と変わらぬ態度で気さくに接していた仲間達とは次第に打ち解け、硬かった表情も少しずつ和らいだものへと綻んでいった。

(…で、一通り全員と親睦を深め直したところで、やっぱ帝人を構いに来やがったか、臨也!)

 ペットボトルを片手に近付いてきた男は、胡散臭い笑顔を貼り付けて、図図しく帝人の傍らに腰を下ろした。

「やぁ、帝人君。今日は色々と大変だったねぇ。…って言っても、プチ神隠しに遭って、数時間、謎の失踪をしていた事も、その後ずっと眠り続けていた事も、全く覚えて無いんだっけ」

 帝人のグラスに緑茶を注ぎ、「人間観察の一環として、今のアムネジア状態の君に、是非とも質問させて欲しいんだけど」と、詰め寄ってきた不躾な男に、そこはかとなく呆れを含んだ苦笑を小さく零して、「良いですよ」と帝人は頷き、注ぎ足された緑茶を一口飲んだ。

「…本題に入る前に、一つ確認。なんで俺が隣りに座った途端、当て付けがましくお尻をずらして、シズちゃんみたいな朴念仁の方に、わざわざ寄ったりするのかなぁ」
「それは、“悪質な変態ストーカーだから、くれぐれも貴方には用心しろ”と、皆さんが口を揃えて、僕に警戒を促して下さったからです」

 清清しい率直さで悪意なく言い切った帝人は、要注意人物の臨也を避けた分だけ、ぐっと静雄との距離を詰めてきた。
(記憶を失くしていても防御本能が忘れてないのか、帝人が無自覚に覗かせた、俺たちへの態度の違いが非常に痛快だったので、ノミ蟲はしばらく追い払わずに放置しておいてやる事にした。)

「へ〜ぇ?この短時間で、随分とこいつ等を信用したモンだ。皆でグルになって、君のことを騙そうとしてるとは、少しも疑ってみたりはしないんだ?」
「皆さん、とても良い人達ですよ。すごく心配してくれてた事が、目を覚ました時にひしひしと伝わって来ましたし…。第一、僕なんかを騙したって、この人達には何のメリットも無いでしょう?」
「う〜ん、騙してでも手懐ける価値は、色んな意味で、君には有るんだけどねぇ。…まぁイイや」

 悪し様な物言いをする男に、ちょっとムッとした表情を帝人は見せたが、臨也は愉しげに目を細めて意味深な呟きを聞こえよがしに落としてから、本題だと言って無遠慮な質問を放ってきた。

「普段から非日常慣れしているだけあって、君の順応性がずば抜けて高いって事は、そりゃあもう良ぉ〜く知ってるけどさ。男と同棲してるだなんて、俄かには信じ難い話を聞かされて、普通すんなりと受け入れたりする?…忘れてるのをイイ事に、からかわれたんだとは思わなかったワケ?」

 チラリと一瞥くれてきた、臨也の挑発的な視線にはムカついたが、同棲話をあっさり信じた帝人の素直さに、嬉しかった反面、「少しは猜疑心も持ってくれ」と、矛盾した危機感を煽られたのも事実だったので、帝人の真意を確かめるまではと、しぶしぶ怒りを抑えて害虫駆除を思い止まる。

「幾ら僕が世間知らずの子供でも、さすがに何の根拠も無く、狩沢さんの話を鵜呑みにした訳ではないですよ?」

 わざと癇に障る訊き方をする男に、迷いの無い澄んだ声調で柔らかくそう答えてから、帝人は同棲話が悪ふざけの冗談ではないと確信した所以(ゆえん)を、ぽつりぽつりと語り始めた。


 見覚えのない場所で、面識のない人達に囲まれて目覚めた時、自分の置かれた状況が分からない不安から、無意識に毛布を握り締めていた帝人の拳に、さりげなく自分の手を重ねて慰撫してくれた静雄の厚意が、すごく心強くて胸を打たれた事。

 記憶喪失だと判明するまでの間、優しい温もりが帝人の手を包み込んで、ずっと緊張を和らげてくれてたから、落ち着いた気持ちで告げられた現実と向き合えた事。

 皆がやきもきして、神隠しが原因の場合「忘失した記憶は戻るのか?」と新羅に所見を迫る中、静雄だけが、外傷性でも心因性でも無いのなら「帝人が欠落した記憶を思い出そうとしても、頭が割れそうに痛くなったりする事は無いんだな?」と確認してたのが、とても印象深かった事。
作品名:ラブ・ミー・テンダー 2 作家名:KON