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ラブ・ミー・テンダー 2

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「一緒に過ごした日々を覚えてなくても、静雄さんが凄くあたたかい人で、僕をどれだけ大切にして下さってたのかは、起きてから少し拝見させて貰っただけで、充分伝わって来ましたから…」

 親身になって帝人の境遇を案じてくれたのは、他の人達も同じだった。けれど、精神的にも肉体的にも、帝人をまるごと守ろうとしてくれた存在は、彼の人しか居なかった。

「…多分、狩沢さんの話を納得尽くで信じられたのは、“記憶を失くす前、僕はきっと、この人のこういう所に惹かれたんだろうなぁ〜”って、静雄さんが実感させてくれたからなんだと思います」

 意識の戻った帝人に、終始一貫した態度で深い情愛を傾けてくれた人が相手だったからこそ、去年の夏から同棲している間柄なのだと知らされても、「年の離れた同性を好きになってしまった事には、余りショックを受けなかった」のだと、恥じらいながらも帝人は伏し目がちに、そっと胸の内を明かしてくれた。

(嗚呼…どうして俺は、“傍に居てほしい”と望んでくれた帝人の気持ちを、義理立てしてくれただけの社交辞令だと、勝手に決め付けてしまったんだろう。)

 帝人の中から、恋仲だった記憶はおろか、静雄の存在すら消えてしまった現実に打ちのめされて、思考がすっかり卑屈だった頃の、昔の自分に立ち戻っていたのだと思い知る。
 身に染み付いた根深い劣等感に囚われて、帝人の好意を素直に信じてやれなかった至らぬ男を、それでも帝人は無垢な瞳でまっすぐ見詰めて、仄かな想いを再び芽吹かせてくれたのかと思うと、ひがみ根性が抜け切らない己の未熟さが、ひどく情けなくて居た堪れなかった。

「あのさぁ、シズちゃん。一人で鬱陶しく落ち込むのは勝手だけど、誤解させて帝人君を傷付けたくなかったら、この子の前で辛気臭い顔するのは、止めといた方が良いんじゃない?」

 自己嫌悪に陥りかけた絶妙のタイミングで、嫌みったらしく溜め息を吐いた臨也の口から、迂闊さを窘める辛辣な指摘が放たれる。
 はっとして帝人に意識を戻せば、不甲斐ない己に苛立ってきつく握り締めた静雄の拳に、ひっそりと自分の両手を添えて、気遣わしげに宥めてくれてた、愛し子のいじらしい姿が目に入った。
 静雄の自嘲癖を覚えてない“今”の帝人にしてみれば、胸を弾ませて嬉しかった真情を伝えた途端、慕った相手に気色ばまれてしまった様なものだ。…本当は迷惑だったのではないかと、恐縮がらせてしまったのは明らかだった。

「…ごめんなさい。静雄さんが、あんまり愛おしそうな眼差しを向けてくれてたから、思い上がって、身の程知らずな勘違いをしちゃってました」
 重ねていた手をしょんぼりと引っ込め、帝人は尚も言葉を紡ぐ。
「犬も三日飼えば情が移るって言いますものね。懐かれたから無下にできなくて、仮初めの《恋愛ごっこ》に付き合ってくれてただけなのに、片思いだった事にも気付かない子供のお守りを、今までさせてしまって済みませんでした」

 泣きそうな顔で懸命に笑みを作って、「僕なら、もう大丈夫ですから」と言い添えたきり、下を向いて押し黙ってしまった帝人を、人目のある場所にこれ以上留め置くに忍びなくて、リビングから連れ出すべく、立ち上がりざま腕を回して華奢な身体を抱き上げた。

「新羅ぁ。少し、こいつと二人だけで話がしてぇから、さっきの客室、もう一度借りるぞ〜っ」

 上座でデレデレしている家主に軽く断りを入れて、承諾を得る前にさっさと歩き出した静雄の背中を、いつもは適当に生返事するだけの新羅がめずらしく呼び止めて、要らぬお節介を焼いてくる。

「ああ、静雄くん。分かってるとは思うけど、君が今から別室に連れ込もうとしている《プチ記憶喪失》中の帝人君は、初エッチはおろか初キッスの思い出さえ、綺麗さっぱり忘れちゃってるからね」

 記憶が戻らない内に触れたくなっても、「素敵な思い出を作り直してあげたかったら、今度はがっついて一遍に全部食べようとしちゃダメだよ」と、静雄がタバコをやめる切っ掛けとなった去年の失敗談を持ち出して、訳知り顔でにこやかに差し出口を叩いてくれた旧友に、「…よし。後でたっぷり揉んでやるから、覚悟してろ!」と心密かに返礼を誓って、どよめくリビングを後にした。

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作品名:ラブ・ミー・テンダー 2 作家名:KON