二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

写真は誰のために

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 
ある休日の昼下がりに、奉太郎は駅前の小さな公園でえるを待っていた。
買い物に付き合うよう、昨日えるに頼まれたのである。
奉太郎は時計を度々確認する。
時間に正確なえるが珍しく遅れている。
手持ちぶさたになった奉太郎は、ポケットから棒付きキャンディーを取り出し、口に咥えて辺りをブラブラと歩き出す。
そして、出がけに姉の供恵からアイスを買ってくよう頼まれたのを、ぼんやりと思い出していた。

 じきに走ってやって来るえるの姿が見えてきた。
どうにも危なっかしく、今にも転びそうである。
どうやらややヒールの高い靴を履いてきたらしい。
奉太郎の下にたどり着いたえるは、はあはあと荒い呼吸が収まらぬまま奉太郎に謝った。
「お、折木さんごめんなさい! 出かける用意に手間取ってしまい遅れました!」
「千反田、少し落ち着け。俺も今来たところだ」
「折木さん……優しいんですね」
「い、いや別に」

 そのとき奉太郎は、今日初めてえるの顔を正面から見た。
そのとたん奉太郎の体に衝撃が走り、口の中のキャンディーを落としてしまった。
「あ、折木さん飴が」
だが奉太郎からの返事がない。
彼はえるの顔に見とれてしまっていた。
(かわいい。いや美しいと言うのか)
(なんだこの今まで見たことがない、千反田の美しさは)
「あのー、折木さん?」
突然固まってしまった奉太郎を不思議に思い、えるは背伸びをして奉太郎の顔を覗き込んだ。
「あ、ああ。すまない」
顔が近い。
奉太郎はそう思った。
まるでキスしてしまいそうなぐらいに。

「え?」
急にえるが後ろを振り向き、辺りを見回し始めた。
「一体どうしたんだ」
「はい。 今何か物音が聞こえたものですから」
「物音?」
「ええ、人声でよく聞こえませんでしたが、数回同じ音がしたので気になったのです」
「そうか。だが気のせいと言うこともある。とにかく先を急ごう」
「はい!」

 奉太郎が改めてえるの顔を見ると、先ほど受けた衝撃がまた甦ってくる。
「千反田、もしかして化粧をしているのか?」
「ええ、本当に軽くですがお化粧してみました。実はどうしても折木さんに見てもらいたくて。これでも結構練習したんですよ。でもまだ慣れてなくて、そのせいで今日は遅れてしまいました。ごめんなさい」
「いや、それは構わないが……」
「……やっぱり似合いませんか?」
「そうじゃない。き……きれいだ」
「え?」
「姉貴の化粧は見慣れているが、身内の顔には興味がないからな。正直いって千反田が化粧でこれほど変わるとは思わなかった」
「本当ですか!? わたしうれしいです!」
喜んだえるは思わず奉太郎に抱きついた。
「ち、千反田」
「あっ、ご、ごめんなさい!」
えるは慌てて奉太郎から離れた。

 そのとき先ほどの音が聞こえたような気がして、えるはまた振り返って周りを見渡した。
「さっきの音か?」
「ええ。聞こえたような気がしたのですが、気のせいかもしれません。さあ、急ぎましょう」
「あ、ちょっと待て!」
「待てませんー」

 二人が買い物を終えたときは、既に夕方であった。
奉太郎は両手に荷物を抱えている。
「折木さん、今日はありがとうございました。荷物を持っていただき大変助かりました」
「元々荷物持ちで呼んだんだろう」
「それだけじゃありませんよ?」
「え?」
「あ、そうです。折木さんにお礼をしたいのですが、何かご希望がありますか?」
お礼と聞いて奉太郎は反射的にえるの柔らかそうな唇に目がいってしまったが、えるは気がつかなかった。
「もしよろしければ、明日からお弁当を作ってこようと思うのですが、ダメでしょうか」
「いや、ダメじゃない!」
「よかった。それではがんばって作ってきますね」
「ああ」
そして二人は話をしながら帰途についた。

 翌日、奉太郎が学校に着くと妙な雰囲気を感じ取った。
まるで誰かに観察されているような気がする。
奉太郎は周りの様子を確かめながら、廊下を歩いていった。
すると前から知った顔がやってくる。
『女帝』と呼ばれている二年生の入須冬実である。
「やあ折木君、おはよう」
「先輩おはようございます。ここは一年の教室ですよ」
「ああ、ちょっと用事があってな。それより君たちはかなり有名になってるようだ。気を付けた方がいい」
「待ってください。それはどういう意味ですか」
しかし入須はそれには答えず、意味ありげな笑顔で去っていった。
(俺たち? 有名? どういうことだ)
奉太郎が入須の言葉の意味を考えながら教室へ歩いていると、途中里志と摩耶花が待ち構えていた。
「折木! 遅い!」
「ほーたろーと千反田さんが学校中で噂になってるよ!」
「意味がわからん」
「この写真よ!」
摩耶花から渡された数枚の写真には、奉太郎とえるが写っていた。
あるものはまるでキスしているような写真で、またあるものはえるが奉太郎に抱きついている姿が写っている。
「これは一昨日の……誰かが俺たちを尾行して写したのか?」
里志の話では、これらの写真が何枚も校内に出回っているらしい。
「こんなことをして誰が得をするというんだ。そう言えば千反田はどうした?」
「それが……ちーちゃん、女子トイレに閉じこもっちゃって」
「伊原、千反田を今すぐ連れてきてくれ」
「う、うん。わかった」

 ほどなく摩耶花に連れられて、えるがやってきた。
「千反田! 大丈夫か?」
「折木さん、ごめんなさい。わたしこんなことになるとは思わなくて……わたしが折木さんをお誘いしなければ……」
「それはおまえのせいじゃない」
「昨日わたしが聞いた音はカメラのシャッター音だったのですね」
「ああ、そうらしい」
「一体誰がこんなことを」
「それはまだわからん。だが見てろよ。千反田を巻き込んだ奴を絶対探しだしてやる!」


 その日の放課後、生徒指導室に呼ばれた奉太郎とえるは、生徒指導の森下先生に散々しぼられたあと、無事解放された。
二人が帰り支度をして部室に行くと、里志と摩耶花が中で二人を待っていた。
「やあ奉太郎。お説教はどうだった?」
「ああ。いつから付き合っているかだの、当日はどこに行っただの、根掘り葉掘り聞かれたよ」
「おめでとう。これで学校公認の仲だね」
「バカを言うな」
「福部さん困ります! わたし……」
「ふくちゃんたら! ちーちゃん冗談よ」

「それより一体誰があの写真を撮ったかだが、俺または千反田をよく知る人物であることは間違いあるまい。誰でもいいのなら、もうとっくに他のカップルの写真が出回っているはずだ」
他の三人がうなずく。
「それに写真を撮られた翌週、すなわち今日の朝にはもう学校中に写真が出回っていた。このことを考えると、犯人はこの学校の関係者である可能性が高い」
「折木さんに賛成です。でもなぜ折木さんと私の写真を撮ったのでしょう」
「それはまだわからん。この写真をばらまいてどんな得があるのか見当もつかない」
「とすると、やっぱり愉快犯? 噂になったちーちゃんと折木を見てニヤニヤしてるだけの」
「でも摩耶花、そういう場合は裏でこっそり出回るんじゃないかな。特にキスの写真とかこんなに堂々としかも大々的に流したのは、犯人の何らかの意図を感じるよ」
作品名:写真は誰のために 作家名:malta