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写真は誰のために

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「わたしたちキスはしていません!」
えるは思わず反応してしまい、里志につっこまれる。
「キス"は"?」
「いえ、その……ごめんなさい」

「不明な点はまだある。なぜ犯人は俺と千反田が待ち合わせているのを知っていたかだ」
「しかも事前にカメラまで用意してね」
「あの日、俺と千反田が買い物に行くことを知っていたのはこの四人だけだが、誰か他の者に話したか?」
「僕は話していないよ」
「わたしも。ちーちゃんは?」
「い、いえ……わたしもです」
「でもこれじゃ、犯人の目星がつかないねえ」
「犯人はネタを求めてふらっと古典部の前へ来て、わたしたちの話を聞いてしまう。そしてカメラを持って、待ち合わせの場所へ向かう——ていうのはどう?」
「ネタとカメラとくれば、壁新聞部だね」
「やめとけ。大体壁新聞部なら、特ダネをタダでばらまくはずはないだろう」
「それもそうね。じゃあ折木は誰だと思うの?」
「今ある情報だけじゃわからない。千反田、何か意見はないか?」
「いえ、特にありません」
「そうか……」
「ほうたろー、意見も出尽くしたようだし、今日はもう帰らないかい?」
「ああ、そうするか」

 用事があるらしい里志と摩耶花たちと別れ、奉太郎とえるは道を歩いていた。
「千反田、どうした? いつもより口数が少なかったが、そんなにあの写真がショックだったのか?」
「い、いえ。そうではありません」
えるはしばらくの逡巡のあと、口を開いた。
「折木さん、少しお話しがあります」
「何だ?」
「実はわたし、家同士で決められた許嫁がいるのです」
「何……だと……?」
「最近のことのようで、詳しいことはわたしもまだ聞いていませんし、その方とは一度もお会いしたことはありません」
えるは話を続ける。
「もちろんすべて千反田家のためということは理解しています。そしてわたしもそのために生きていくつもりです。でも、せめて自分の相手は自分で見つけたいのです」
「千反田。おまえの気持ちはわかった。その許嫁がどこの誰だか教えてくれないか」
「わかりました。調べて折木さんにお伝えします」

 数日後、えるが奉太郎の教室にやって来ると、みんなにからかわれてしまった。
「千反田、放課後の部室でもよかったんじゃないか?」
「ごめんなさい。一刻も早くお知らせしたくて。折木さん、許嫁の方の身元がわかりました。入須家に縁のある二十四歳の青年実業家で、一之宮隆弘さんという方だそうです」
「入須家が関係してるのか」
「あと、折木さんに謝らなければならないことがあります」
「謝る?」
「はい。以前部室で、他の人には話していないと言いましたが、あの日の午後出かけることは入須さんに話してありました。ごめんなさい」
「それは俺と出かけることもか?」
「いいえ。土曜日の午後にチャットはできるかと電話で聞かれましたので、出かけることだけ伝えました」
「それなら問題ないだろう。入須とはよくチャットをするのか?」
「はい、最近は許嫁の件で相談にのってもらっています」
「そうか」

 放課後の帰り道で、奉太郎はえるを誘ってみた。
「千反田、この間の公園に行ってみないか?」
「え……? は、はい!」
えるは奉太郎の言葉に一瞬驚いたが、すぐにうれしそうな笑顔になった。
二人が公園に着くと、えるは自転車を停め、噴水の方へ向かっていく。
そして噴水の縁に上りそこを歩き出した。
「おい、危ないぞ!」
「大丈夫ですよー」
苦笑した奉太郎は、えるの手を取って支えてやった。
「折木さん……」
立ち止まったえるの顔をしげしげと見つめながら、奉太郎は質問を投げかけた。
「今日は化粧をしていないのか?」
「はい。普段はしていません。あの日は特別でしたので、慣れないお化粧をしてみました」
「特別?」
「許嫁の話とかいろいろありましたので、すこし落ち込んでいました。そこで折木さんをお誘いしてお買い物に行けば楽しいだろうと思ったのです」
(そうか。いきなり呼び出されたのはそういうわけだったのか)
(しかし、あまり弱味を見せない千反田がこんなことを言うとは、かなり参っているようだな)
「あ、もうこんな時間です。折木さん、帰りましょうか」
「ああ、そうするか」

 家に戻った奉太郎は、ベッドの上で考え事をしていた。
(しかし千反田に社会人の許嫁がいたとはな)
(いや、今考えるのはその事じゃない)
(入須もあの日、千反田が出かけることを知っていた)
(どうも引っかかるな。つついてみるか)
そこまで考えて奉太郎は気がついた。
(省エネ主義の俺が、なんでこんなに必死になっているんだ)
(すべては千反田のため……か)

 小腹が空いた奉太郎は供恵を探したがどこにもいない。
そのうち机の上にメモが置いてあるのことに気がついた。
『奉太郎、しばらく友達のところにお邪魔するからよろしくね 供恵』
「姉貴はまたどっかに行ったのか。俺には真似のできん生き方だ」

 翌日、奉太郎は入須の教室を訪ねた。
「入須先輩。ちょっといいですか」
「折木君か。教室までやって来て何の用だ?」
「先輩は先日の土曜日の午後、どこにいましたか?」
「いきなりな質問だな。何のためにそんなことを聞くのだ」
「今出回っている写真に関することです」
「犯人探しか。それでわたしが怪しいと?」
「はい」
「正直なやつだな。では先ほどの質問に答えよう。わたしは土曜日の朝から日曜日の夜まで出かけていた。一緒にいた者が証言してくれると思うが連絡してみるか?」
「……そうですか。先輩を信用します。失礼しました」

(入須にはアリバイがあった)
(だがまだ釈然としないのはなぜだ)
奉太郎が部室に行く途中廊下を歩いていると、天文部が機材を運び込んでいる。
そこに入須のクラスメイトの沢木口美崎がいたので話しかけてみた。
「沢木口先輩、どうしたんですか」
「おお、有名人の折木君じゃない。ちょっと臨時収入があったから、古い機材をいろいろ新調しちゃったのよね」
「でもこの時期には珍しいですね」
「そーなの。女帝がいろんなクラブから余り予算をかき集めてくれたみたい」
「女帝? 入須先輩ですか?」
沢木口は、ハッとして口を押さえる。
「ごめーん。今の忘れて!」
「残念ながら忘れることは不可能です。沢木口先輩が話してくれなければ入須先輩に聞いてみますが」
「わかったわよぅ」
「じゃあどうして天文部が余り予算を手に入れられたんですか?」
「それは……実はあんたたちの写真を撮ったのはあたしなのよ」
「なっ……!」
「あの日の午後二時に駅前の公園に行って、あんたたちがいちゃラブしてる写真を撮ってこいって、入須に言われたのね。その代わりに天文部の予算を何とかするって」
「それは……一体何のために……」
「理由は聞いてないわ。あたしは言われたとおり写真を撮って、校内にバラまいただけ」
「……わかりました」
「お願い! くれぐれも入須には内緒にしてね!」

(やはり入須が黒幕だった。だがなぜこんなことを)
奉太郎が部室に入ると、そこにはえるがいた。
「千反田、黒幕がわか……」
「折木さん、許嫁の話が白紙になりました! しかも両家納得ずくのことだそうです!」
「そうか。よかったな」
作品名:写真は誰のために 作家名:malta