yamatoへ… ユキバージョン 1
「浜崎先生はどうして森さんの指導をするんですか?」
先程ユキを囲っていたバイトの先生がユキを指導する浜崎を囲って聞いた。
「どうしてって?優秀だからさ。少し話して分かっただろう?…彼女はこの
塾全国区のトップだ。最近は1位から落ちた事がない。多分、先日行わ
れた国の試験もトップだろう。」
落ち着いた様子で“当たり前”の事の様に話す浜崎にバイトの先生は驚く。
「すごいじゃないですか。そんなすごい子がこんなところにいるなんて!」
「いいから…余り人に言うんじゃないぞ。今飛び級で6年生はデリケートに
なっている。これからの進路で周りもピリピリしてるんだ。この事は絶対
誰にも言うな。塾の講師以外知らない事なんだからな。」
浜崎はユキ一人を受け持っているわけではない。相談は何人も抱えている。
「…わかりました。」
バイトの先生たちは勉強を教える事しかしないが塾の講師となると学校の先生以上にコネを持っている人もいる。
「私達は真剣に子供たちの将来を考えているんだ。キミたちはしっかり彼らに
勉強を教えてやってくれ。」
浜崎はそう言うとバイトの先生に“じゃあ”と言って帰って行った。
「ユキ?」
塾から帰ったユキを母が呼び止めた。
「ちょっと聞いたんだけどあなた最近校長室にでいりしてるらしいじゃない?」
ユキはきっとクラスメートが親に話したんだろう、と思った。
「そう、ちょっと呼ばれて。」
ユキは正直に答えた。
「なにかしてしまったの?」
少しユキの母は慌てた。
「別に?最近テストが多かったからその事。成績が良かったから頑張りなさい
って。」(ユキ)
「それだけ?」(母)
「飛び級の話も出そうだったけど…」(ユキ)
「いいのよ、飛び級なんて。普通に中学へ進みなさい。女の子なんだから。」
母はいつもの言葉を繰り返す。ユキは心の中で小さくため息をついた。
(隣のマンションの子のお母さんから聞いたのかしら…)
ユキは自分の部屋に入ってベッドに座ると少しイラっとした。
(人の事より自分の事考えなさいよ。)
しばらくすると母の“ご飯よ”という声が聞こえてきた。
作品名:yamatoへ… ユキバージョン 1 作家名:kei