yamatoへ… ユキバージョン 4
「結構買い込んだな。」
コーヒーを飲みに喫茶店に入った頃はすでにランチの時間を過ぎていた。だけどどこの店も3時までランチタイム。岡本はどっかり席に座るとメニューを見た。
「たまにはそとでランチもいいよな。」
岡本がユキにメニューを見せる。ユキは
「寮に戻ったら食べます。」
といって紅茶を頼もうとしたが岡本が接客ロボットを読んで勝手にランチを二つ、注文してしまった。
「岡本さん!」
ユキが少し怒ったように言ったが岡本は全く気にする様子もなく…
「まぁまぁ…昨日、父親が特別に、ってお金を送金してくれたんだ。いつもは
母親が仕送り送ってくれるんだけど…だからそれを有効活用してるだけ。」
ランチにはコーヒーか紅茶が付いていた。岡本は自分にコーヒー、ユキに紅茶を注文すると静かに運ばれてきたお水を飲んだ。
岡本の家は医者ではないが裕福な家庭で育ったような感じがあった。何事にも動じず人に振り回される事もなく…そして勉強が出来て自分に自信があって…。
ユキは自分を振り返る。
年だってうんと下だし格好も小学生の延長。とてもじゃないが大学生になんて絶対見えない。別に岡本と張り合おう、とはこれっぽっちも思っていない。だけど同じ勉強をしてるのにこれだけの差があると思うとくやしかった。
岡本はユキの真っ直ぐな視線をずっと感じていた。決して恋愛感情が混じる様な視線ではなかったが決して嫌うような視線ではない事、だけは分かった。岡本はその視線をどう、自分を慕ってくれる視線に変えられるか…その事ばかり考えていた。
「ありがとうございました。」
ふたりは寮に戻って来た。時間は5時。ユキは今日一日全く勉強していな事に気付いた。岡本が持っていてくれた荷物をしっかり両手に下げ岡本に対し90度の礼をすると急いで女子寮の方へ向かって左右に揺れながら行ってしまった。
「そんなに慌てて帰らなくても…なぁ。」
岡本はユキの姿が見えなくなるまで見送った。
「ふぅ…。」
ユキは部屋に戻ると荷物を床に置いた。そしてタグを取りたたむ。引き出しを開けると下の方に随分着ていない服が入っている。捨てようかと思ったがまだキレイ。
ふとユキは思い出した。遊星爆弾で親を亡くした子供たちが施設に入っている事を。
(そうだ、明日施設に行って寄付してこよう。)
ユキは新しい服が入っていた袋に今まで来ていた服を詰めた。
「あれ?」
徳山がユキを見て“おはよう”と言う前に首をかしげた。
「なんだか雰囲気が違う。」
森屋も不思議がる。それを少し離れた所で岡本が笑って聞いていた。
「いつもと違うね。でもいい感じ。」
徳山はそう言って“おはよう”と言うとユキもおはよう、と返事をした。ユキと岡本は顔を見合せてクスッと笑った。ユキ自身、今まで自分の服装など全く気に掛けていなかった事を後悔した。背は伸びたがずっと今までの服が入っていたので気にしなかったが今改めて自分の姿を見るととてもみすぼらしい感じがした。
「そう言えばユキちゃん、背、伸びたよね。」
森屋が横に並ぶユキにそう言った。小学校を卒業してから10㎝、身長が伸びている。
「そう、まだ成長期みたい。」
ユキは笑顔でそう答えた。
「ユキちゃん、やっぱりそれ、似合うよ。」
ランチの時、岡本が森屋と徳山がいない時に声を掛けた。
「そう?これね昨日買った中で一番気に入ってるモノなの。だから一番に着ようと
思って枕元に置いて寝ちゃった。」
スリムなユキの体型をさらに強調するようなデニムのパンツ。デニムはいずれ購入しにくくなるだろうと思いユキはデニム系を多く購入していた。
「あと5㎝身長が伸びたらもう、止まっていいかな。それぐらいならこのパンツ、
まだ履けそうだから。」
少し短めで履いてもかっこ悪くならないデザインだ。
「へぇそんなことまで考えてたの?」
岡本が感心する。
「昨日、いっぱいお買いものしちゃったから次いつ買えるかわからないでしょ?
だから少しでも長く切れるように、ってパンツはこれ一枚にしたの。スカート
だったら裾関係ないから体系が変わらない限り履けるでしょ?だから流行の物は
絶対買わないの。すたれちゃったらもう履けなくてもったいないじゃない?」
そこへ森屋と徳山がランチをトレイに乗せて席にやってきた。
「仲、よさそうだね。」
徳山がそう言うと岡本が
「まあね。」
といって笑った。
作品名:yamatoへ… ユキバージョン 4 作家名:kei