yamatoへ… ユキバージョン 6
「おいしかった。」
ユキは満足そうにベッドに身を投げた。そしていつもと違う真田の顔を思い出して笑った。
(ラボじゃ絶対見れない顔だったわ。うふふ、怖い顔してるけど本当は優しくて
真田さんみたいなお父さんだったら毎日飛んで家に帰るのに。)
ユキは真田が大好きだった。厳しいが普段はとても優しく仕事に全く関係ない事もよく知っていて会話が弾む。とにかく一緒にいて楽しい事ばかりだった。
(明日は一日お休み…か。何をしよう…。)
月基地に友達がいるわけもない。
(仕方ない…ラボに行って復習しよう。部屋で勉強するより絶対進みそうだし。)
ユキは勝手にそう決めるとエアーシャワーの準備を始めた。
「よぅ。」
真田が基地を訪ねた。
「お前…なんで月に?」
相手は守だった。
「いや…ひとり預かっている訓練生がいてね…その訓練で月に来たって訳。」
守は大きな目をさらに大きくして真田を見た。
「そんな驚くなよ。」(真田)
「ばか、驚くに決まってるだろ?大丈夫か?」
守は真っ先に真田の事を心配した。
「あぁ…思ったより大丈夫だった。多分、これから先も大丈夫だ。」
守は姉が月基地の遊園地の事故で亡くなった事を知っていた。
「お前がその顔で言うなら…本当だろう。」(守)
「顔?」(真田)
「あぁ…まるで別人だ。」
守は不思議そうに顔を向ける。
「そうか?俺は俺だが?」(真田)
「まぁいい。お前がいいんだから。それより一杯どうだ?今日来たなら明日は
休みだろう?お前が休むって事自体ないから…。」
守がウィスキーを取り出す。
「俺からは…これ。」
真田は袋からビールを出した。
翌日ユキは真田のラボを訪ねた。珍しく寝癖のついた頭で出てきてユキは驚いたが友人が月基地にいる、と以前聞いたことがあったのでそこは追求せずラボのソファーに座った。月基地のラボは地球のラボとほぼ変わらず、だった。でもいつもワサワサしていて落ち着かない所があるが今日は仕事もなく静かで反対に落ち着かない。
「森くん?どうした?」
真田が寝癖を直してソファーの向かいに座った。
「すみません、お休み中だと思わず…。」
ユキが遠慮がちに言うと
「いや、少し前に目は覚めていた。奥でゴロゴロしていただけさ。(ユキの
手元に端末があるのを見て)勉強しに来たのか?」
真田が聞くと
「すみません。やる事はないし知ってる人はいないし…ここに来る事しかなくて…
お休みしてる、って思ったんですけど…。」
ユキが申し訳なさそうに言った。
「気にする事はない。勉強したらいい。ここだと集中できるんだろう?」
真田がユキに言う。ユキはまさしくその通りだと思ったので首が取れそうな位強く頷いた。
「ははは…落ち着くと言う人は少ないがな…好きにしなさい。ただ地球と違って
資料がないんだよな。」
それでも隣には資料室があってそれなりだ。
「ありがとうございます!」
ユキが笑顔でそう答えた後ハッと気付いたような顔をして真田を見た。
「真田さん、昨日はありがとうございました。ご馳走様でした……顔見たら
すぐに言おう、って思ったのに忘れちゃってました。すみません。」
ユキが素直にそう言うと真田は笑いながら
「ははは、また行こう。」
と、言った。
結局ユキは一日ラボで真田に付きっ切りで明日から始まる訓練の内容をすべて頭に叩き込んだ。本当は明日の午前中でしようと思ったが半日分を先にやれば最後の半日が空いて別の事が出来るかもしれない、と…もっと別の訓練もできるかもしれない、と真田はそう思った。
(この子に半日でも余裕があればもっと先に進める…)
真田は今の状態で満足しないユキの為にもっと先の事を考えていた。
作品名:yamatoへ… ユキバージョン 6 作家名:kei