yamatoへ… ユキバージョン 6
「シュミレーションルームをお見せしますね。」
佐々木が艦載機のシュミレーションルームに向かった。部屋に入ると幾つもの艦載機が並びガラス越しの隣の部屋に同じ数の艦載機が並んでいる。
「一台全部内装が違うので覚えるのが大変なんですよ。まぁ基本的な部分は
同じですが癖が全部違うので慣れるまで大変でしょう。」
佐々木が機種を見せるようにコクピットをひとつ開けた。
「この機は先週シュミレーションした機ですね。」
ユキが真田に確認を取る。
「そうだ。」(真田)
ユキが真剣にコクピットの中を覗く。
「大丈夫です。」
ユキの言葉に真田も満足そうに頷いた。
「今日、明日はゆっくりしてください。一応、地球と同じ重力で設定されて
いますが慣れるまで時間がかかる人がいます。ふわふわした感じが抜けないと
気分が悪くなる人がいるのでゆっくりしてください。」
防衛軍の規定で月面基地に着いた翌日は休暇を取らないといけない、とあった。佐々木は一度も使った事のない真田のラボに二人を案内していた。
「すぐに動けるのに。」
佐々木の言葉に時間がもったいない、と感じがユキがポロっと言った。
「まぁそんなこと言わず…シュミレーションが始まったらきっと休む暇もない
日程が組まれているのでしょう?」
佐々木が真田の顔を見る。真田はバツ悪そうに天井を見た。
「でもいいんです。忙しい方が…どんどん頭に入って来るし。」
ユキの笑顔はあの時のままだ、と佐々木は思った。この時代に“変わらない”と言う事がどれだけすごい事か…
「さすがですね。では宿舎にご案内しましょう。」
佐々木はふたりをすぐ隣の宿舎に案内した。
「ふぅ…。」
ユキは初めて月に来た。遊園地がある事は知っていたが“月に行きたい”などと思った事はなかった。初めて来た月は訓練の為。遊びじゃない。これからの事を思うと不安と期待が入り混じった不思議な気持ちになった。
「えっと…食堂は…」
ユキはお腹が空いた事に気付きとりあえず食堂へ向かおうとした時携帯が鳴った。相手は真田だった。
<森くん、食事でもどうかね?>
真田が誘って来た。
「えぇ、今食堂に行こうと思っていたんです。」
ユキが笑顔で返す。
<せっかく月に来たんだ、モールで一緒に食べないか?ごちそうするよ。>
珍しく真田が外で食べようと言う。
「え?いいんですか?」
ユキが驚いて聞き返す。
<たまには、な。10分後にゲートの前で。>
「おいしい…。」
ユキがパスタを飲みこんで笑顔で真田に言った言葉だ。
「そうか、よかった。」
真田はビールを一口飲む。そしてピザを一つつまむと
「こっちも食べなさい。温かいうちに。」
テーブルには“二人で食べるのか?”と思うほどたくさんの料理が並んでいる。ユキは寮のご飯以外食べた事がほとんどない。外食するお金がない、と言うのもあるがせっかく寮で食べられるのに外に出るのが面倒だったのもある。
「良く考えたら家でも外食ってあまりなかったかもしれない。」
ユキがぽろっとつぶやいた。
「特別母が料理が得意、ってわけじゃなかったと思うんですど…。」
専業主婦だったユキの母。父の転勤が多かったので働けなかったのかもしれない。
「真田さんはいつも誰とご飯食べるんですか?」(ユキ)
「…あぁ…いや…」
真田が困ったように言葉を濁した。
「わかってます、きっとラボで食べたり、食べなかったりでしょ?」
ユキの言葉がかなり図星だったので真田は息を止めてしまった。
「ふふふ、やっぱり。でもここだと寮に戻る前に食堂があるし…一緒に食べら
れますね。私も食べる時間逃しちゃう方だからふたりでいればどっちかが気
付くかもしれないからちゃんと食べられそうですね。」
真田は自分が誘ったのにそう言えば誰かとご飯を一緒に食べる…飲みに行く、と言う事がとても久しぶりだった事に気付いた。
「そうだな。でも一緒いても忘れちゃう確率も0じゃないぞ?」(真田)
「そうですね、そしたらわざと忘れてこうやっておいしいものごちそうして
もらおう!」
真田はユキの笑顔を見て心から嬉しいと思った。
作品名:yamatoへ… ユキバージョン 6 作家名:kei