yamatoへ… ユキバージョン 8
「ユキ!」
行進していると久々の声だけど忘れた事のない声が聞こえた。ユキは声のする方を見た。
そこには両親がいた。ユキは久々に会う両親に抱きつきながら行って来ますと伝えるとすぐに行進の中に加わった。もう、覚悟は出来ている。地球に残っても一年、ヤマトに乗り無事イスカンダルへ行けたとしても自分の命の保証はない。
戦いがあるから。
今まで勝つことのなかった地球防衛軍のしかもたった一隻での出航…
不安が全くないわけではないけどユキは前を向いて第三艦橋からしっかりした足取りでヤマトの中へ入った。一度居住区へ行き前以って運んでいた荷物を確認し第一艦橋へ向かう…。
重厚な扉は開いていた。そして真田に“ここがユキの席だ”と教えてもらった席のヘッドレストをなでる。
すぐ横には真田がいた。視線が合い静かに頷く。ユキは高ぶる気持ちを小さな深呼吸で抑えた。
もう一度ヘッドレストをなでる。
私の場所をやっと見つけた。
ユキはそう思った。座ると真田のラボのソファーよりうんと固いのになぜかしっくりきた。
(私はヤマトに乗るのが運命だったのかも)
前に謎の艦隊の空母を撃破した時に一緒に乗り込んだ二人は艦長が連れて行ってしまい緊張した空気が少し和らいでいた。初めて逢った時、私の顔をとても驚いた顔で覗きこむように見てた二人…なぜ?と聞きた気持ちもあったが今はそれどころではない。
その間にユキは南部、太田、相原とあいさつを済ませた。特に相原は生活班でユキの部下となる。
「相原さんね…森ユキです。看護士として場を離れる事があると思いますが
その時は生活班をお願いします。太田さんも…医務室へ行って不在の時は
お願いします。」
最初3人は美しいユキにぼけ~っとしてしまったがユキのハキハキした話し方に己を正し握手をした。真田はその様子を笑顔で見つめていた。
(大丈夫そうだな。)
真田は岡本の事でユキが男性に囲まれて仕事をする事に支障をきたしたら…と少し不安があった。でもユキはそんな事を考える余裕もない様子だったので心の中でほっと息をついた。
最後の点検がすみ地球全土からエネルギーが送られ準備が整ったらこの鉄の塊は命を吹き込まれこの岩盤を振り払い宇宙へ飛び立つ。先程緊急通信で巨大なミサイルがヤマトを狙っていると報告があった。
この艦は真田さんの全てを注ぎ込んだ艦。
絶対にそんなミサイルにやられるわけはない。
なぜかユキはそう思っていた。
進と島が第一艦橋に戻ってくると相原と南部、太田がふたりに挨拶した。最初は敬礼をしながらきっちりした感じだったが5人は笑顔で軽く拳を合わせながら
「俺たち…腐れ縁だな。」
「全くだ。」
ただ相原だけは接点がないようで島が南部と太田に紹介していた。そして5人で真田の席へ向かい挨拶をした。
ユキはなぜか真田が進だけを見ているような気がした。自己紹介していると機関長が汗を拭きながら入って来た。
「機関室の準備は整った。」
その言葉に第一艦橋の空気が張り詰めるのが分かった。艦長室から沖田も降りてきた。
絶対に、イスカンダルへ行く。そして私達は無事に帰ってくる。
静かにエンジンが始動する音が聞こえ始めた。それは徐々に大きくなりまるで“大和”が“ヤマト”生き返った、と主張しているようだった。前に謎の艦隊を撃破した時とは違い本当に蘇った…という底力のようなものをユキは感じていた。
ユキはものすごい衝撃の後、赤と黒が混じる噴煙を第一艦橋から見つめながら視界に入る真田をみた。余程緊張していたのか汗をぬぐう仕草を見た。
(さすがの真田さんも…)
ユキも息をついて背もたれに身を預け小さく深呼吸をした。
(あきらめちゃいけない。そう教わったわ。)
ユキは今までの自分を振り返る。女医になれなかったけど看護士になりパイロットの資格も取った。非戦闘員だけど訓練はかかさなかったから自分の身を守る事ぐらいはできる。そして目の前のレーダーを見つめた。
“地球を救う”
個々の力じゃ無理かもしれないけど真田さんの英知とこの艦の誰もが力を合わせれば可能性は“0”じゃないと思った。
苦しい戦いは幕を開けたばかりだ。
でもユキは信じている。苦しい戦いも永遠に続くわけではない、という事を…。
いつかきっと大地を踏みしめ青い空を見上げながら深呼吸できる日を信じてユキはヤマトとその仲間と飛び立った………
作品名:yamatoへ… ユキバージョン 8 作家名:kei