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最近、妻が冷たいの3

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何故、こうなってしまったのか。
原因は如実に自分のせいだと分かっている。
幸せすぎて怖い…などという、自らの浅はかな基準で決めた妄想に、大好きな彼を巻き込んで自己嫌悪しているからだ。早く仲直りして(というか自分が謝って)「大好きなのだよ」と、一言告げればそれで万事解決する。
― だが、分かっているからといって改善出来るかどうかは限らない。






【最近、妻が冷たいの3】







あれほど学生時代に「人事を尽くせ」といっていた自分が、まさかこんなところで躓くなんて、あの頃の自分にみせたらなんて言われるか。…確実にバカめ、と言われているのだろう。

緑間真太郎は焦っていた。決しておは朝を見逃しただとか、買い物しようと町まで出かけたら財布を忘れただとか、そんなことではない。おは朝を見逃すことはまず第一にあり得ないし、財布は家を出る前と買い物カゴを持つ前、さらにお会計する直前と、最低3回は確認する。
やることには全てに等しく人事を尽くし、抜かりなく行動する緑間。そんな彼を焦らせるものなんて、愛する夫―そう、高尾和成のほかはないのだ。

長い間想いあい続けた彼と結婚出来てから早3ヶ月。幸せは絶頂で、まさに「今なら死んでも構わない」とはこのこと。毎日働きに出掛ける高尾に代わり専業主夫となった緑間は、掃除や洗濯といった家事全般をこなしたり、友人と買い物やお出掛けする日々を幸せに過ごしてた。
結婚は人を変えるとは言ったもので、あれほど苦手で同棲している間高尾に任せ切りだった家事も今では普通に出来るようになり、人付き合いがかなり苦手だったはずが、近所のおばさま方と話すようになって好きになったりだとか。

新しい発見を見出すたび、「高尾に出会って結婚できて、本当に良かった」と思う毎日。
仕事から帰ってきて「ただいまぁ」という間延びした声を聞く瞬間がとても好きで。ご飯を一緒に食べるときに言う「いただきまっす!」という声が好きで。寝るときに耳元で囁かれる「おやすみ真ちゃん」という優しげな声が大好きで。

一緒に暮らしていくごとに見つかる新しい発見。知れば知るほどに学生時代に感じていた以上の好きが止まらなくなる、というこの感覚は、未だ恋愛初心者の緑間にとって幸せ以外のものを生み出した。

―それが、今緑間を焦らせる原因を作った『不安』である。

夜、寝る間際の声を聞いた後、ふと考えるようになった「この幸せは一体いつまで続くのだろうか」という気持ち。大好きな彼が好きだったのは“ツンデレな緑間真太郎“ではなかっただろうか?

『では今の自分は?』…そう考えたとき、最近の自分に全然ツンがなかったことに気付いてしまったのは、果たして幸か不幸か。

気付いてしまえば、今までの分のツンを発揮させるほかはなかった。
普通に考えてみればおかしいと気付くのだろう。だが、緑間は天性と言っていいほどのピュアさと鈍感さがある。こんなところでその両方を発揮してしまった彼は、ある意味知り合いの青峰以上におばかなのかもしれない。

思い立ったが吉日、その日から緑間はツンデレの氷河期に意図して入ったのだ。
心の中で「昔のように、昔のように…」を呟き続け、最初の3日程過ごしたのだが。そう呟いている内に、元々ツンデレとはなんなのかが分からなくなってしまった。緑間自身、周りの人間にツンデレと称されることはあっても、元々好んでこの性格になったわけではない。…要するに、昔の自分がやっていた行動がわからなくなってしまったのだ。

高尾の好むツンデレとは何か?ツンだけとはどうやるのか?もし彼の好むツンデレになれなかったら嫌われてしまうのではないか?―そうなったら、この幸せが崩れ去って跡形もなく消えてしまうのではないか?

負の考えは緑間を追い詰めていき、自然と高尾に対する扱いも冷たくなる。
高尾はやさしいからまだ自分を捨てないでいてくれるが、きっと普通ならもうとっくに愛想を尽かされているだろう。

考えすぎた頭は夜もなかなか寝かせてくれず、ついに高尾と寝室も別にしなくてはいけなくなった。それさえも高尾に愛想尽かされてしまうのではないかと焦ったが、まさかの風呂の誘いを貰いうけ、結果的に恥ずかしくてクッションを投げつけてしまった。

―このままでは非常にまずい。

気持ちも落ち込み、限界まできたところで、突然火神から電話がきたのはおよそ一週間程前のこと。学生時代はいがみ合っていたのだが、心のどこかでお互いを認め合っていたということもあり今ではかなり仲が良い友人だ。そんな彼からの電話は、緑間の心の救いとなった。

電話の内容は、最近できたカフェに行かないか?という誘いだったのだが、緑間はそれを即効でOKし「ぜひ聞いて貰いたい話があるのだよ」と切り出した。
どうしたんだと驚く火神に少しばかり話をすると、なにか察したのか、火神はじゃあ明日の12時に、とすぐに予定を立ててくれた。続きは明日ちゃんと聞いてやるとのこと。
持つべきものは友なのだよと言ったら電話越しに噴き出されたので電話はすぐさま切ってやったが。








次の日、別にやましいことをする訳ではないので「出掛けてくる」とだけ高尾に伝えて、どこか不安げな高尾の目から逃げるように家をでた。

外は過ごしやすい温度だ。薄雲が空を半分ほど埋めているが、綺麗な青空が垣間見えていてまるで今の緑間の心境を表しているかのようだった。
待ち合わせの場所に10分前には着き、しばし火神をまちながらこれから話すことを考える。何から話すべきか…まずは自分がこんなことをしなくてはいけなくなった理由からだろうか。もっとも、高尾に非なんてないのだが。

そうこうしている間に、「おーい」という聞きなれた声が聞こえて顔を上げた。
相変わらずな、ラフな服装と特徴のある眉毛に何故かほっと小さく息を吐いて、時間通りに来た友人に遅いのだよと言ってやればお前が早すぎんだよ、と笑われた。




「…んで、今どうしたらいいのかわかんねぇってことか」
「そうなのだよ。あと食べながら話すんじゃないのだよ」

カフェに入り、好みのケーキとコーヒーを買って席に着く。窓際がいいと言って選んだ席は、少々自分たちには小さかったようだ。
早速ケーキを食べ始めた火神に、これまで頭にまとめていたことを全て話し終えて、コーヒーに手を伸ばす。高尾と同棲してから飲むようになったが、やはりミルクと砂糖は必須だ。
火神は一つ目のケーキをぺろりと平らげ、カフェモカを飲みながら「うーん」と唸った。味に対してではなく、緑間に対しての唸りだ。

「緑間は、考えすぎじゃね?」
「そんなことは無いと思うのだが…」
「だってよ、高尾はお前自身が好きだって言ってんだろ?ちょっとデレ続けたぐらいで嫌いになるとかねぇだろ。むしろあいつにとっては天国だったんじゃ」
「だがしかし…奴は前に一度『俺真ちゃんのツンデレ大好きだわwwwまじツンだけでいいよもう!!!』とだな…」

あーなるほどな、と火神は呆れたように笑う。こちとら結婚生活がかかっているのだ、笑ってる暇などない。
緑間は何がおかしいのだよっといいながら、自分が選んだ抹茶のケーキにフォークをさした。ふわりと抹茶の香りが鼻をくすぐる。