yamato… 古代とユキ 4
翌日進は午前9時に司令部へ向かった。
「…行ってらっしゃい…」
ユキはにっこり笑ったが大きな瞳が寂しいと訴えていた
「…今日、ここに戻ってくるから…待ってて。多分戻ってくるときは
うるさいの数名従えてくるから…」
静かにユキはうなずくとそっと扉を閉めた。誰がどこで見ているか判らない。
「クソッ…」
一人で乗ったエレベーターの中で進はひとりごちた
(ただふたりで静かに一緒にいたいだけなのに…どうしてそれを誰も
許してくれないんだ…)
ユキの寂しそうな瞳が脳裏から離れない…
(昨日休んでしまった分今日は忙しいだろうから戻りは遅くなるかも
しれない…すまない…)
あと10日もしたら進は再び宇宙へ旅立つ。1年という長い任務…もちろん
その間地球に戻ることはあるが一カ月行って2,3日したらまた旅立つ日々、
となる。その2、3日も休暇ではなくただの立ち寄りなので会えるか、の前に
会話ができるかもわからないのだ
(これじゃまたユキのお母さんにドヤされそうだ)
苦笑いを浮かべて進はエレベーターを降りるとフロントに寄りひとり部屋に
残して出掛けることを伝えてタクシーに乗って司令部に向かった
「行っちゃった…古代くんが私のために休むなんてことがあるわけない
ってわかってるけど…ちょっと寂しいな…」
何気なくテレビを付けてソファーに座った。相変わらずニュースは自分たちの
事をさがしている様子で司令部の前からの中継をしていた
「古代くん、もうじき餌食になっちゃう…」
ユキは画面越しでもいいから進を見たくてじっと見入っていた
(ママ、怒ってないかしら?いちいちうるさい人だから…)
小さなため息をひとつついてふと昨日の夜の事を思い出した
(昨日はうなされてなかったわ。毎日じゃないのね…なにか引き金になる
ものがあるのかしら?)
自分の端末を取りにベッドルームに向かおうと立ち上がった時にわかにテレビ
がにぎやかになった
“あ、タクシーが一台近づいてきます、ひょっとして二人が乗っているの
でしょうか?”
カメラがタクシーを映し出す。後部座席に座っているのは二人…
(二人?)
運転席の後ろに座っている人の顔は見えないが助手席側は前にだれも座っ
ていないのでよく見える…
(南部くん?)
タクシーは司令部の正面玄関をノーチェックですり抜けるとそのまま奥まで
スピードを落とさず走り抜けていった
通常タクシーは正面玄関で止まりそこで人を下ろすようにしているが…
(さすがね、南部くん。申請してスルーできるようにしてくれてたのね)
ユキは南部の手回しの良さに思わず笑ってしまった
“古代氏と森女史かと思いましたが残念ながら別人だったようです”
本人が乗っていることに気付かずそのまま取材は続いた
ユキはベッドサイドにある端末を立ち上げると中央病院につなぎパスワード
を入力すると中央病院の端末と繋げた
(あの13歳の少年の情報を知りたい…)
しばらく検索するとその13歳の少年のカルテにたどり着いた
(古代くん、ごめんなさい…でも、知りたいの。あなたの事・・)
ユキは覚悟を決めて最初からカルテを見た
作品名:yamato… 古代とユキ 4 作家名:kei