yamato2 それから 1
「森です、入ります。」
ユキは三人が入ってる部屋にノックして入った。
「長官が言ってた端末が届いたのでお持ちしました。真田さん、長官から
一言あって“余り根を詰めすぎないように”、ですって。判りましたか?
私ちゃんと伝えましたよ?相原くんと太田くんは真田さんが消灯時間
過ぎても端末を叩く音がしたらLAN切って。強制終了させちゃって。
もしそれでも続けたら消灯時間に合わせて私が一時預かりで端末持って
行くようにしますから。真田さん、いいですか?ここは病院ですから
体を治すことが先決ですからね。」
あの真田がユキに言われると何も言い返せないあたりが面白くて相原と太田は笑いを堪えていた
「何か?…二人も同じよ?消灯過ぎて端末いじってたら…私が預かります
からね。」
そう言うとにっこり笑っていつものユキになると
「じゃぁ、また…」
笑顔で帰って行った。
「元気そうに見えるけどきっとだるいんでしょうね。足、上がってない
ですよ。」
相原は引きずるように歩くユキの体が心配だった
ユキは進の部屋に戻ってきてすぐベッドに横になった。
(疲れた…だけど頑張らなきゃ。みんなが立ち上がろうとしてる…)
そう自分を奮い立たせた。誰もがひどいけがを負っているけど私は貧血と骨密度が少し低いだけ…大したことじゃない…ユキは時計を見た。午後の点滴の時間を過ぎていたので慌てて自分用の点滴を始めた
(…少し動きすぎたかしら…疲れたみたい。)
いつの間にかユキも深い眠りに落ちて行った
<ユキさん…ユキさん>
ユキは夢の中にいた
「テレサさん?」(ユキ)
<えぇ…随分疲れてるようね。無理してるわ。>
テレサが心配そうにユキの顔を覗きこんだが
「大丈夫よ、体力には自信があるの…それにすぐに眠れるし…それより島
くんの目が覚めないの…いつ目覚めてもおかしくないはずなのに…島くん、
起きたくないのかしら…。」
ユキの表情が曇る
<ごめんなさい、島さん、私と一緒にいるの…帰らなくてはいけないと
分かってるんだけど…>
「…一緒にいたいのよね。その気持ち、よく判るわ。」
ユキの長いまつげが揺れた
「だけど…私たちには島くんが必要なの…お願い、テレサさん…島くんを
説得してください。島くんは生きていてテレサさんを生かして、って…。
テレサさんも辛いと思うけど…」
<ユキさん、ありがとう。ほんの少しだけ…時間を下さい。必ず島さんを
お返ししますから…>
テレサはそう言うとユキの夢の中から消えて行った。ユキはそのまま目が覚めた
(テレサさん…島くん…寂しいわよね。ずっと一緒にいたいわよね。)
隣を見ると進が静かな寝息を立てて寝ている。もう以前のようにうなされたりすることはない。ユキはそっと進の手を握った
翌日ユキはIUCに足を向けた。島は静かに寝ているように見えた。
(島くんは今幸せなのよね…テレサさんと一緒にいて…だけどお願い。
あなたは生きてる…私たちと一緒にやることがあるの…お願い、戻って
きて私たちを安心させて。テレサさんがあと少しだけ時間がほしいと
言っていたわ。私、待ってるから…。)
ユキが祈るように島を見ていると佐渡がユキのそばにやってきた。
「ユキ、どうじゃ?…余り良くなさそうだな。ちゃんとベッドで寝てた方が
いいぞぃ?島が心配なのはわかるが…」
佐渡もユキの体を心配していた。
「ちょっと島くんの顔が見たくなって…ひょっとしたら気持ちよく寝てる
んだから起こすなよ、なんて思ってるのかなぁ、なんて…みんな心配して
るよ、って伝えたんだけど…伝わったかな…」
昨日の夢の話を思い出していた。
(ただの夢かもしれない…でも私はテレサさんが私に逢いに来て島くんの
事、伝えてくれたんだ、って信じたいの。)
ユキはいつまでも島の前から動かなかった
作品名:yamato2 それから 1 作家名:kei