yamato2 それから 1
「長官…私はそこへ戻ることができますか?」
ユキが不安そうに尋ねると
<何を言う、ユキが戻ってこないと困るよ。ただ、今はここよりヤマトの
方が重要だ、という事だよ。クルーのメンタル面のサポートを頼む。
ユキにしかできない事もあるだろう。>
そう言って藤堂は笑うと“古代によろしく”と言いながら通信を切った。ユキが通信機を見つめていると壁を叩く音が聞こえてきた。ユキは小さく壁を叩くと南部の部屋に向かった。
「おじゃまします。」
ユキが南部の部屋に入るとそこには真田と相原、太田がいた。
「あら、全員集合じゃない…ちょうどよかったわ。今、長官から連絡が
あってね…ヤマトの修繕が済んだら…って話をしていたの。で…」
ユキが端末が届く事、訓練生の繰り上げ卒業があってヤマトの中で訓練しながらの訓練計画を練る事などを伝えた。
ユキはこの病室の雰囲気が第一艦橋と同じになってるのがわかった
(南部くんも大丈夫そうね…古代くんと南部くん…不思議な関係ね…さて、
後は島くんだわ。)
「そう言えば南部くん、ご両親は?」(ユキ)
「あぁ、忙しそうだったからIUC出たら大丈夫だからもう来なくていいよ
って言ったんだ。真田さんから話を聞くと父の会社はフル稼働になるはず
だから…俺って気が利く!って思っちゃいましたよ。」
さっきと随分違う南部にユキは驚いたがクヨクヨしてる時間なんてない…それに気付いたんだろうと思い敢えて触れるのをやめた
「ふふふ、そうね。きっと寝る暇もないぐらい、だと思うわ。…人の生命力
の強さを感じるわね。イスカンダルから戻ってきたときもそうだったわ。
実家にいたけど父の仕事で転々としていた時の母は家にいても寂しそう
だったけどご近所様と助け合って生きてきたからか口から出る言葉は
“大変だった”なんだけどとても明るく話すの。その時思ったの。
人間は強い生き物なんだ、って。絶望する寸前まできっと何かを見つけ
ようと必死になるんだ、って。」
ユキが明るく話す。
「前にね南部くんのお父さんと話した事があるんだけど南部くんの事すごい
自慢の息子だ、って言ってたわ。自分の力で歩いてる、って。なかなか
人前で子供を褒めるってできないじゃない?特に日本人は卑下するでしょ?
南部くんとお父さんの関係…いい関係なんだろうなって思っちゃった。」
「え?ユキさん、親父ほかに変なこと言ってなかったですか?」
ちょっと焦ったように南部が聞くと
「ううん?何も?いつも私がお世話になってるのにお父様が私に“お世話
になって…”って言われちゃうから申し訳ない気持ちでいっぱいよ。
たまには“大変お世話してます”って挨拶してください、って感じ。」
ユキの言い方が面白かったらしく南部が笑う。
「ヤマトに乗ったら俺らが至れり尽くせりなんですから…ヤマトを下りた
時ぐらいはいろいろお世話します、って。」
いつもの南部だった。やはりこのメンバーで揃う事が一番の薬なんだろうか…ユキは早く島もこの中に入れたら、と思わずにいられなかった。
「南部くん、あんなに長くお邪魔しちゃって疲れなかったかしら?」
進の部屋に戻ってきたユキがつぶやいた。
「後でちょっと様子を見てきてやってくれよ。ヤマト専属の看護士さん。」
進はそう言うと“ちょっと眠い…”と言ってベッドに横になった。鎮痛剤が点滴に入っているので睡魔は時折やってくる。
「眠たい時は寝た方がいいわ。無理すると治りが遅くなっちゃうし…」
ユキはそう言うと照明を暗くした。さっき進の病室にメインクルー用の端末が届いたので進が寝たら配ろうと思った。しばらくすると静かな寝息が聞こえてきた
「古代くん、寝ちゃったかな…」
ユキは進がしっかり寝てるか確認すると引き出しに隠していた強い痛み止めを点滴に挿した
「絶対痛いはずなのよ。時々冷や汗出てるもの…ユキちゃんはすぐに
判るのよ~ギブス取れたから却って動きすぎて熱が出ちゃうかもしれない
わね。その時はモリタ先生にお願いして痛い注射打ってもらえばいいかな。
…だけど随分顔色よくなったわ。やっぱり笑うと免疫あがるのね。」
ユキはぼさぼさの髪をそっとなでる
「真田さんたちの部屋にコレ(端末)届けに行ってくるわ。」
ぐっすり寝入ってる進にそう声を掛けるとユキはゆっくりとした足取りで三人が入ってる病室へ向かった。
作品名:yamato2 それから 1 作家名:kei