さらば…イスカンダル 1
「守…。」
真田が艦長室を訪ねていた。サーシァはすやすやと眠っている。
「よく寝てるな。」(真田)
「あぁ…よく笑うし…森さんには本当に感謝してるよ。」(守)
「あぁ、よく働くだろう?彼女普段は藤堂長官の秘書してるんだ。」(真田)
「え?すごいじゃないか。なぜ?ヤマトに?」(守)
「もともと戦艦に乗り込む看護士を希望していたんだ。あ、最初は医者に
なる予定だったんだ。だけど看護士が足りなくてね…すぐに現場に出た
いと進路変更したんだ。彼女はお前の弟と同じく訓練予備生として訓練学校
に通う予定だったんだが医者になりたいと強い希望で大学へ進学したんだ。
だけど進路変更した事で看護士になるには知識が充分だった事と奨学金が
余るとの事で訓練学校に通ったんだ。普通に訓練学校に通うだけでも大変
なのに彼女は二足のわらじを見事履きこなした。」(真田)
「へぇ…才女なんだな。」(守)
「あぁ、俺も長い事いろんな人を見てきたがユキみたいな子は初めてだった。
教えた事は砂漠が水を吸うように覚えていく。もともとヤマトは“ノアの
箱舟計画”だった。もちろんお前の弟…このヤマトの乗組員は全員乗る予定
だった。俺は乗らない予定だったが箱舟計画からイスカンダルへ行く艦に
なって…それなら、行こうと思って乗り込んだ…。」(真田)
「そうだったのか…それは…」(守)
「沖田さんの計画じゃない。あの人はそう諦める人じゃないからな。あの海戦
から戻って来るときイスカンダルの使者…サーシァさんの通信カプセルを
拾って…沖田さんが自分が行くと言って…。お前たちが戦う前にこの
カプセルが届いていたら…あの海戦も別の戦い方があったかもしれない
と今なら思う。俺の技術がなかったばかりに…主砲も跳ね返されると聞いて
いたがガミラスの戦艦が何でできていて何に弱いのか、という情報も何も
なく…やみくもに命を…」
真田は握り拳をギュっと握った
「お前は…最善を尽くしたんだ。あの時はあれが精いっぱいだった。だれも
お前を責めたりしない…ただ、俺はお前が地球から離れられた事に驚いた
月での事故以来地球を離れた事のないお前が…多分、森さんのおかげなんだ
ろうな。お前がお姉さんの影から離れられたのは…」
真田はおどろた顔で守のみた。
「何も思わなかったのか?本当森さんはすごい人だな。しかしお前みたいな
カタブツ、森さんもよく付いて行ったよ。」
守はそう言って笑った。
「ったく!」
相原が第一艦橋で怒りを隠しきれず握り拳で自席をなぐった。第一艦橋には島と太田がいた。
「どうした?」
太田は珍しく荒れてる相原に驚いた
「新人ですよ、根も葉もないうわさを…」(相原)
「うわさ?」(島)
「実は…生活班の打ち合わせ室で“これ、本当ですか?”って僕に聞いて来た
ヤツがいて…新人の間ではかなり広まった噂らしいのですが…守さんと
ユキさんが、って…。僕は“そんな事あるわけないだろう”と言ったん
だけど…どうやらユキさんがサーシァの面倒を見てる事で古代くんから
守さんにシフトしたんじゃないかと…ユキさんにしてみたら古代くんの
姪だから自分にとっても姪、だ、という気持ちで世話してるんだと思うけど
僕らとの航海を何も知らない新人は…まぁ訓練の時間も減って気も緩んで
いるんだろうけど時間があるから…」
相原はため息交じりでつぶやいた。
「…なんだそれ?状況を考えて言ってるのか?」
島が相原に詰め寄る
「何を考えてるのか…あれだけ必死に戦って…命がけで護ってくれたスターシア
さんにも申し訳なくて…」
相原が涙を拭いた。
「相原…」
島は相原の肩に手を置いてどうしようか考えた。ちょうどそこへ南部が戻って来た。
「どうした?相原…」
普通じゃない空気に相原が泣いてるのに気付いて南部が聞いた。太田が説明すると南部は怒り心頭の顔をしたが言葉を飲み込むと
「あいつの耳に入れたら大変だ。その前に何とかしないとな。ユキさんだって
自分の行動が誤解を招いているとわかったら…」
責任感の強いユキの事だ、自分を追い込んでしまうかもしれない…
「作戦会議だ。」
南部はそう言うと島に自動操縦か確かめて自席に3人を集めた。
作品名:さらば…イスカンダル 1 作家名:kei