ネコミミライフ。
最後に開発元に二週間分のデータを送って、がくぽのネコミミ生活は終わった。
結局がくぽの身に起きた出来事について、先方は何も言って来なかったし、マスターも全く気付いてなかった。
マスターはバイト代で新しい音楽機材を買って新曲作りに没頭している。今度は自分とがくぽの二人で歌う曲なのだそうで、カイトも楽しみにしている
あれからしばらくたったけど、例のネコミミはもう世に出回ってるんだろうか。
ふと思って、それとなくマスターに聞いてみると、ああ、あれねと答えてくれた。
「何でも生産体制に入る直前にソフトの方に大きなバグが見つかって、発売延期だって」
「そのバグって…」
「特定の条件下でネコミミが動かなくなるんだってさ。がくぽは何ともなかったのになー」
?
じゃああれは、がくぽにだけ起きた再現性のないバグなのか。
それとも元々の仕様?……さすがに無いか。
どちらにしろ確かめる術はない。
がくぽはといえば相変わらず。
あれだけ際どい事態になっても、がくぽの中では全てカイトの悪ふざけとして処理されてしまった訳で、お互いの関係は以前と何も変わらない。
もしも。もしもあの時も少しだけ先に進んでいたら、今の関係は変わってた?
詮無い事を考えてみるも、欲望に身をまかせてがくぽに嫌われてたら意味はないと思い直して、垣間見た切ない表情も甘い声も頭から追い出す。
変なネコミミがなくてもがくぽは可愛いのだ。
ハプニングなんかに頼らなくっても、いつかちゃんと気持ちを伝えられるように。
とりあえず、鈍い鈍い想い人には地道なアピールから始めようと、心密かに、しかし強く決意して。
カイトはマスターから渡された新曲の楽譜を持って、がくぽの部屋に向かった。