君と僕と星の祈り
二日後。俺は部屋の荷物をすべて片して、天香學園を出た。心残りはこれで何もない。誰にも何も言わずに出て行くつもりだったが、どうやら甲太郎は気付いていたらしく校門の前で俺を待っていた。くそ。
「行くんだな」
「仕事ですから」
二日前の悦びがまたしても湧き上がる。にこりと笑って、校門に手をかけた。
「卒業式は出るのか?」
「……、出ない」
もう戻らない。もう此処には戻ってこない。きっと、もう一度足を踏み入れてしまったら俺が戻れなくなる。この幸せから。
そうかと甲太郎は目を伏せて、次に開いた時にはひかりを宿していた。強い、星のように揺るがないひかりだった。
「待ってろ。必ず追いついてみせる」
「………………」
こぼされた言葉に、きょとんとする。だってそんなまさか。何もかもを捨てなければ俺には追いつけない。だって俺は《宝探し屋》だから。それでも、甲太郎は追いついてみせると言った。ああほんとう、この《學園》は幸せなことばかりで困る。幸せすぎて、困る。
一歩。校門の外へ足を踏み出す。久方ぶりの外界。空気が少し違う気さえする。
「しょうがない。頑張る甲ちゃんのために、少しゆっくり歩いてやるよ。俺は」
苦笑する。あまり期待はしないけど、その言葉が真実になっていればいいと未来へ祈ってみる。
「ああもう時間だ。じゃああんま無理しないで頑張ってよね、甲太郎」
「無理しないとお前には追いつけないだろ」
「ははっ。そらそーだ!」
完全に《學園》の外へ出て、小さく笑う。きっとそれは叶わないと知っているからこそ、笑えるのかもしれない。さようなら幸せの場所。ホルスターに仕舞いこんだ銃をひとつ取り出して、銃口を空へ向ける。あまりにも長くい過ぎたその《學園》。どうかこの記憶が早く思い出になってくれるようにと、感謝を込めて引き金を引いた。
君と僕と星の祈り / 08.01.23
title by AnneDoll