第13Q 先輩の意地だよ
1-黄瀬涼太
「5分もしないで緑間っち温存っスか。余裕みたいっスね」
「ま、当然だろ。相手も普通の中堅校だし、波乱はまずねぇだろ。……あるとすりゃ、誠凛のほう、か」
笠松先輩が呟き、俺も秀徳のベンチから視線をずらす。
試合は進み、第1Qは終わった。
2-岩本努
19-19、か。
津川はダラダラと汗をかいて、震えて喚いた。
「どーてん……?びっみょーーー!!!つかありえねぇ!全然目標達成できなくね?!」
それを止めるように「津川!」と静かにだが重く、声を出したて続けた。
「調子に乗るな。黙れ」
ひと睨みをきかせ、津川は「ごめんなさい!というかスイマセン!!」と座った。
それを見届け、監督は言う。
「もしも津川と同じように少しでも思ってる奴がいたら、改めて肝に銘じろ。あいつら誠凛は強い……間違っても格下などと思うな」
俺なんかより貫禄のある言葉が続く。
「油断は禁物。慢心など10年早い。まして、お互い同じ高校生。勝負は終わるまで、何が起こるかわからない。勝負は、始まったままだ」
監督は締めくくり、俺たちは立ち上がる。
3-紺野舞
「勝負はまだ、始まったばかりよ!!」
相田先輩は強く言い、続けた。
「陣形は攻守このまま!ただ、ゾーン、スコシタイに。あと、火神!ファール多い!」
「うっ……!」
「相手に合わせようなんて腰引けちゃ流れ持ってかれるわ。責める気持ちが大事よ!」
「おう!!」
そんな感じで、インターバルは、終わった。
相田先輩は日向先輩にボソリと言った。
「日向くん、いいわね?」
「ああ」
第2Qは始まった。
正邦はというと、先ほどよりさらに密着したマンツーマンDFを行使した。
「すげえ!一段と厳しい!!」
「こりゃ、東京最強のDF全開か?!」
「なんつう圧力だよ!!」
なんて口々に叫ばれるくらいには、固そうだ。津川くんも、
「もうさっきみたいに抜かされないからね!」
と語勢を強めている。
――確かに、バカ神くんでは抜けられそうにない。
攻め淀むバカ神くんの斜め前、津川くんの背後に、彼は来る。
――けど、
バカ神くんがボールを、左に投げ、右へ抜ける。
――二人だったら別だ!!
そのボールは、津川くんの背後にいた黒子くんの手でバカ神くんのもとへ戻された。
津川くんは、何が起こったかさえわからないようで、動けないでいる。
代わりに、「させん!」と岩本主将が素早く駆け寄る。
そのヘルプには、バカ神くんと黒子くんは二人のバウンドパスで高らかに上げることで対処し、
ズガンッ!!!
バカ神くんが叩き込んだ。
――黄瀬とやったときより、連携が強力になったようだ。あのDFを破れるとは……すごい。
けど、一つ心配材料が……。
バカ神くん、第2Qでかく汗じゃない。相当の疲労が窺えた。
正邦の春日さんが津川くんの肩を掴む。
「なーに抜かれて笑ってんだよ」
「あ、すんません」
「いーけどさー。んま、火神のオーバーペースが嬉しいんだろ。いい感じでお前のマーク、効いてんじゃないの?」
「何言ってんすか!まだまだ!もっと苦しんでくれないとぉ!」
「なんと頼もしいドSっぷり……尊敬越して引くわ……」
あははっとそれを笑い飛ばし、言う。
「たしかに黒子と火神の攻撃力はすげぇけど、結局、点を取れるのは一人だけでしょ?」
不敵に笑う津川くんだ。なんか、やばい雰囲気がビシビシと……。
続いてうちの攻撃。また火神くんがゴール下でボールを取り、背後に並ぶ津川くんに構える。が、急に彼のプレッシャーが感じなくなった。
だけど、油断はしちゃダ――
「何考えてるか知らねぇけど、上からぶち込んでやる!!」
メだから!!なに漫然とターンしてるのかな、バカ神くん!!!!
日向先輩も「ダメだ!!行くな、火神!!」と叫ぶが、
ガッ
遅かったかぁぁぁあああ。
笛が鳴り、津川くんが尻をつく。
審判は言った。
「OFファウル!白10番!!」って。
こら、バカ神くん!「なっ!」じゃない!!
そしてとうとう……
「4つ……誠凛のスコアラーがファウルトラブル!!まだ第2Qだぞ!!」
バカ神くんはようやく彼の意図に気付いたようで、津川くんを見据えながら歯ぎしりをした。
横の相田先輩も「バッカたれ……」と頭をかいてから交代を頼んだ。
それを見て、バカ神くんは、
「げっ!!だ、大丈夫すよ、こんぐらい!!もうファウルしなきゃいいんだろ!!行けます!!」
と叫ぶが、正直、大いに説得力に欠ける話だ。
バカ神くんをなだめ、いや叱るためにか、日向先輩も一緒にベンチに近寄る。先輩は軽く息を吐いて、黒子くんも見てから言った。
「ま、ちょーどいいわ。お前と黒子、あと紺野はどうせひっこめるつもりだったからな」
「いや、私は出てないですよ」
「出てたらの話だ、ダアホ」
「っていうか、ちょっと待ってください……僕も、ですか?」
「ああ。――最初から決めてたんだ。お前ら三人は出すとしても前半までってな」
私たちの表情の曇ると同時に「まぁ、心配すんな」と手を腰にやる。
「正邦は俺達が倒す」
その言葉は凛と心に響いた。……のはいいけど、
「なんでっすか!俺たちが前半までなのは?!」
うん、それ自体は別に気になる。
「理由はまぁ、二つ……かな。一つは、緑間を倒せるのは、お前ら3人にかかってるから、だ」
隣のコートをチラリと見る。
65-18。予想通りの超圧倒。
「もし、この試合を勝ったとして、秀徳に勝つには緑間攻略は不可欠な条件だ。けど、秀徳は予想通り緑間を温存している。消耗したお前らじゃ勝てない。つまり、だ」
眼鏡をぎらつかせ、静かに先輩は続ける。
「この試合、3人中2人でも、いや1人でもフル出場すれば、正邦に勝てる可能性は上がる。が、次の秀徳に勝てる可能性は、1人でも欠けてて間に合うとは思えない。3人を温存できれば、正邦に勝てる可能性は、正直大幅に下がる。が、秀徳に勝って決勝リーグに行ける可能性は数パーセント残る」
そこまで言い終え、土田先輩、小金井先輩に声がかかる。
それでもバカ神くんは、「いや、疲れててもなんとか倒ぶっ!!」
ムカついたので、言葉の途中でハリセン(伊月先輩への突込み用by相田先輩)ではり倒してやった。
黒子くんも静かに追随する。
「火神くん、言う通りにしましょう。僕は、先輩たちを信じます。それに大切なのは、……きっと、もう一つの理由です」
ちょうどブザーが響いて、メンバーチェンジ。
バカ神くんと黒子くんがそれぞれ小金井先輩と土田先輩と交代する。
「やばくなったら出ます」
「4ファウルがなに言ってんだ!任せとけぃ!」
「いってらっしゃい」
「行ってくる」
二人を見送り、二人はベンチに戻る。そこで正邦のひとたちは予想通り、疑問符を掲げていた。
「ふた、り?」
「1年を両方ひっこめてきたか」
ついでに津川くんも、
「あらら?いなくなっちゃった~~~。まぁ、ちょっと物足りないけど、いっか!」
と無謀にも日向先輩に言った。そして予想通り、
「最近の一年はどいつもこいつも……がたがたうるせぇぞ、茶坊主が。今から、先輩への口の利き方教えてやる。ハゲ」
「ちゃぼっ?!!!」
というやり取りが行われた。
「5分もしないで緑間っち温存っスか。余裕みたいっスね」
「ま、当然だろ。相手も普通の中堅校だし、波乱はまずねぇだろ。……あるとすりゃ、誠凛のほう、か」
笠松先輩が呟き、俺も秀徳のベンチから視線をずらす。
試合は進み、第1Qは終わった。
2-岩本努
19-19、か。
津川はダラダラと汗をかいて、震えて喚いた。
「どーてん……?びっみょーーー!!!つかありえねぇ!全然目標達成できなくね?!」
それを止めるように「津川!」と静かにだが重く、声を出したて続けた。
「調子に乗るな。黙れ」
ひと睨みをきかせ、津川は「ごめんなさい!というかスイマセン!!」と座った。
それを見届け、監督は言う。
「もしも津川と同じように少しでも思ってる奴がいたら、改めて肝に銘じろ。あいつら誠凛は強い……間違っても格下などと思うな」
俺なんかより貫禄のある言葉が続く。
「油断は禁物。慢心など10年早い。まして、お互い同じ高校生。勝負は終わるまで、何が起こるかわからない。勝負は、始まったままだ」
監督は締めくくり、俺たちは立ち上がる。
3-紺野舞
「勝負はまだ、始まったばかりよ!!」
相田先輩は強く言い、続けた。
「陣形は攻守このまま!ただ、ゾーン、スコシタイに。あと、火神!ファール多い!」
「うっ……!」
「相手に合わせようなんて腰引けちゃ流れ持ってかれるわ。責める気持ちが大事よ!」
「おう!!」
そんな感じで、インターバルは、終わった。
相田先輩は日向先輩にボソリと言った。
「日向くん、いいわね?」
「ああ」
第2Qは始まった。
正邦はというと、先ほどよりさらに密着したマンツーマンDFを行使した。
「すげえ!一段と厳しい!!」
「こりゃ、東京最強のDF全開か?!」
「なんつう圧力だよ!!」
なんて口々に叫ばれるくらいには、固そうだ。津川くんも、
「もうさっきみたいに抜かされないからね!」
と語勢を強めている。
――確かに、バカ神くんでは抜けられそうにない。
攻め淀むバカ神くんの斜め前、津川くんの背後に、彼は来る。
――けど、
バカ神くんがボールを、左に投げ、右へ抜ける。
――二人だったら別だ!!
そのボールは、津川くんの背後にいた黒子くんの手でバカ神くんのもとへ戻された。
津川くんは、何が起こったかさえわからないようで、動けないでいる。
代わりに、「させん!」と岩本主将が素早く駆け寄る。
そのヘルプには、バカ神くんと黒子くんは二人のバウンドパスで高らかに上げることで対処し、
ズガンッ!!!
バカ神くんが叩き込んだ。
――黄瀬とやったときより、連携が強力になったようだ。あのDFを破れるとは……すごい。
けど、一つ心配材料が……。
バカ神くん、第2Qでかく汗じゃない。相当の疲労が窺えた。
正邦の春日さんが津川くんの肩を掴む。
「なーに抜かれて笑ってんだよ」
「あ、すんません」
「いーけどさー。んま、火神のオーバーペースが嬉しいんだろ。いい感じでお前のマーク、効いてんじゃないの?」
「何言ってんすか!まだまだ!もっと苦しんでくれないとぉ!」
「なんと頼もしいドSっぷり……尊敬越して引くわ……」
あははっとそれを笑い飛ばし、言う。
「たしかに黒子と火神の攻撃力はすげぇけど、結局、点を取れるのは一人だけでしょ?」
不敵に笑う津川くんだ。なんか、やばい雰囲気がビシビシと……。
続いてうちの攻撃。また火神くんがゴール下でボールを取り、背後に並ぶ津川くんに構える。が、急に彼のプレッシャーが感じなくなった。
だけど、油断はしちゃダ――
「何考えてるか知らねぇけど、上からぶち込んでやる!!」
メだから!!なに漫然とターンしてるのかな、バカ神くん!!!!
日向先輩も「ダメだ!!行くな、火神!!」と叫ぶが、
ガッ
遅かったかぁぁぁあああ。
笛が鳴り、津川くんが尻をつく。
審判は言った。
「OFファウル!白10番!!」って。
こら、バカ神くん!「なっ!」じゃない!!
そしてとうとう……
「4つ……誠凛のスコアラーがファウルトラブル!!まだ第2Qだぞ!!」
バカ神くんはようやく彼の意図に気付いたようで、津川くんを見据えながら歯ぎしりをした。
横の相田先輩も「バッカたれ……」と頭をかいてから交代を頼んだ。
それを見て、バカ神くんは、
「げっ!!だ、大丈夫すよ、こんぐらい!!もうファウルしなきゃいいんだろ!!行けます!!」
と叫ぶが、正直、大いに説得力に欠ける話だ。
バカ神くんをなだめ、いや叱るためにか、日向先輩も一緒にベンチに近寄る。先輩は軽く息を吐いて、黒子くんも見てから言った。
「ま、ちょーどいいわ。お前と黒子、あと紺野はどうせひっこめるつもりだったからな」
「いや、私は出てないですよ」
「出てたらの話だ、ダアホ」
「っていうか、ちょっと待ってください……僕も、ですか?」
「ああ。――最初から決めてたんだ。お前ら三人は出すとしても前半までってな」
私たちの表情の曇ると同時に「まぁ、心配すんな」と手を腰にやる。
「正邦は俺達が倒す」
その言葉は凛と心に響いた。……のはいいけど、
「なんでっすか!俺たちが前半までなのは?!」
うん、それ自体は別に気になる。
「理由はまぁ、二つ……かな。一つは、緑間を倒せるのは、お前ら3人にかかってるから、だ」
隣のコートをチラリと見る。
65-18。予想通りの超圧倒。
「もし、この試合を勝ったとして、秀徳に勝つには緑間攻略は不可欠な条件だ。けど、秀徳は予想通り緑間を温存している。消耗したお前らじゃ勝てない。つまり、だ」
眼鏡をぎらつかせ、静かに先輩は続ける。
「この試合、3人中2人でも、いや1人でもフル出場すれば、正邦に勝てる可能性は上がる。が、次の秀徳に勝てる可能性は、1人でも欠けてて間に合うとは思えない。3人を温存できれば、正邦に勝てる可能性は、正直大幅に下がる。が、秀徳に勝って決勝リーグに行ける可能性は数パーセント残る」
そこまで言い終え、土田先輩、小金井先輩に声がかかる。
それでもバカ神くんは、「いや、疲れててもなんとか倒ぶっ!!」
ムカついたので、言葉の途中でハリセン(伊月先輩への突込み用by相田先輩)ではり倒してやった。
黒子くんも静かに追随する。
「火神くん、言う通りにしましょう。僕は、先輩たちを信じます。それに大切なのは、……きっと、もう一つの理由です」
ちょうどブザーが響いて、メンバーチェンジ。
バカ神くんと黒子くんがそれぞれ小金井先輩と土田先輩と交代する。
「やばくなったら出ます」
「4ファウルがなに言ってんだ!任せとけぃ!」
「いってらっしゃい」
「行ってくる」
二人を見送り、二人はベンチに戻る。そこで正邦のひとたちは予想通り、疑問符を掲げていた。
「ふた、り?」
「1年を両方ひっこめてきたか」
ついでに津川くんも、
「あらら?いなくなっちゃった~~~。まぁ、ちょっと物足りないけど、いっか!」
と無謀にも日向先輩に言った。そして予想通り、
「最近の一年はどいつもこいつも……がたがたうるせぇぞ、茶坊主が。今から、先輩への口の利き方教えてやる。ハゲ」
「ちゃぼっ?!!!」
というやり取りが行われた。
作品名:第13Q 先輩の意地だよ 作家名:氷雲しょういち