祭りの前
5.
午後五時前のポッポタイム。
「ああ、眠い、眠いぞ……」
ジャックは、ただ今ガレージであくびを連発中。マッド・デーモンの衣装を着込む動作もどこかおぼつかない。
「もっとしゃんとしろよ! そんな姿、子どもたちが見たら泣くぜ!」
そんなジャックを叱り飛ばすのは、BF-黒槍のブラストに扮したクロウだ。てきぱきとハロウィン用のお菓子の箱を運び出す様は、流石は本職といったところである。
「無理を言うな! 一晩中ライディングデュエルをぶっ通しで行ったのだぞ! 朝方帰って寝て俺が起きたのはつい一時間前だ!」
「あー、だったらこれやるよ」
クロウはガムを一枚取り出してジャックに渡した。ジャックが受け取って一噛み二噛みした後、途端にぎょっとした顔をする。
「なっ、何だこれは! 辛いのを通り越して、目から火花が出たぞ!」
「牛尾からのもらいもんだ。文句ならあいつに言いな」
クロウが牛尾にもらったガムは、「ライトニング・ボルテックス・ガム」。通称ライボルガムと呼ばれるそれは、眠気覚まし用の激辛ガムだ。
「ちくしょー、牛尾の奴、あんなもんよこしやがって」
つい数時間前のクロウも、現在のジャックと同じ目に遭ったのだった。
「これでようやっと目が覚めたろ。遊星を見習えよ。あいつ朝っぱらから広場に電飾付けに行ってたぞ」
「……遊星の奴、俺たちと同じ時刻に帰って来たな」
「……その前に、ライディングデュエルしつつデュエルレーンにハッキング仕掛けてたよな」
「……あいつ、シグナー以前に本当に人間なんだろうか」
「……その内どこかの研究施設からお誘いがくるんじゃねえか? 標本的意味で」
ガレージの扉がばたんと開いて、D・モバホンとフェアリー・アーチャーが入って来た。龍亞と龍可だ。
「ジャック、クロウ!」
「マーサたちが来たよ、今!」
クロウたちが広場に出ると、広場に集まった人ごみの隙間から、ブラック・ローズ・ウィッチのアキとジャンク・シンクロンの遊星が、マーサや子どもたちを出迎えているのが分かった。
遊星は疲れた様子をおくびにも見せず、心底楽しげな笑みを浮かべていた。
(END)
2013/10/31