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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 13

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第48章 虹の名を持つ者


 シンがこれまで持ち続けていた双刀には言い伝えがあった。
 新月の光在りし時、二つの刃は真の姿を現す。
 この双刀があった場所、それは捨てられた赤子であったリョウカのすぐ近くであった。三つ二組の刀を持ちながらリョウカは死にかけていたのだ。
 この言い伝えを一番最初に聞いたのは、シンの父親であった。夢の中で真っ白な姿をした女の口から伝えられたのだ。
 シンの父親は一体何の事か分からなかった。そもそも見えないはずの新月が光を放つなど、一体どうしたことなのか。
 長らくその双刀はシンの家系に保管され続けた。それから、両親が亡くなり、泣いてばかりいながら過ごしていた少年シンへと、姉のヒナがその双刀を与えた。妹の身を守れるようなしっかりとした男になれ、という言葉とともに。
 それからシンはこれまで学んでいた剣術に加えて、双刀の扱い方も自ら模索して鍛錬に打ち込んだ。もとがそう長さのある武器ではなかったため、攻撃する際にはかなり敵と接近する必要があった。そこでシンは修練の末、我より先にも動けるほどの速さを手に入れた。その時に天啓を得るかのように身に付いたのが今の彼の得意とする忍術だった。
 そして今、シンは漆黒と白銀という真の姿を現した双刀を手に入れ、同時に忍術の全てをも自らのものとした。
 シンは空から奇襲をかけた。
「ぐあ!」
「が!」
 カーストとアガティオの肩を刃が掠めた。シンは地上に降り立ったかと思うとすぐに姿を消した。
「くそ!消えるなんて卑怯な真似を!」
 カーストは吐き捨てるように言った。
「ふん、どの口が言ってんだ。それにオレは消えてなんかいないぜ、ただお前じゃ捉えられないだけだ…」
 シンはカーストの目の前に現れたかと思うと再びその素早い動きでカーストを翻弄した。
「くそ、また消えて…」
 シンは新たに得た忍術、『颯の術・改』によって爆発的な機動力を手に入れた。以前は宙に少しだけ浮くことで滑走する程度だったのが、今は地上、上空問わず一瞬にしてその身を移動させることができる。まさに縦横無尽の動きが可能になったのである。
 空を飛ぶこともできるが、ジャスミンの『プロミネンス』と違い、翼の類で飛んでいるわけではない。そのため彼女ほど高く上昇する事はできないが、それ以上に瞬間的な動きをすることができる。速さこそが全ての技なのだ。
「さあ、戦いはまだまだこれからだぜ!」
 シンは空を駆けながらエナジーを発動した。
『雷神の術!』
 カースト達の周囲を囲むように、シンはいくつもの落雷を起こした。
 落雷に翻弄されているカースト達に追い討ちをかけるように、シンは地上へ降り立ち、再びエナジーを撃った。
『烈風の術!』
 巨大な竜巻がカースト達に襲いかかり、二人の身を切り裂いていく。
「ぐ…うう…」
 身を切り刻まれてズタズタになったカーストは地に膝を付いた。一方アガティオは傷だらけながらもまだ立ち上がったままでいる。
「おいおい…」
 シンは動きを止めた。
「たった二つの術でもうその様か?つまんねえな」
 シンはせせら笑う。
「なめるんじゃないよ…」
 カーストはエナジーを発動した。
『クリアオーラ』
 煌めく火花の輝きがカースト達を包み、傷を塞いでいった。
「ふん、回復できたのか…」
 その威力は十分で、カースト達の傷は完全に回復した。それを見てもシンは動じない。
「そうでもなきゃあっという間で面白くねえな。精々そうやってあがきな、オレが必ず砕く!」
 シンは姿を消す。
「くそ、また消え…」
 あまりの驚きにカーストは閉口してしまった。
 一瞬姿を消したシンは再び姿を見せたとき、二人になっていたのである。姿形どこにも違いが見受けられない、完全なる分身を作り出したのだった。
 シンは分身と共に二方向からカーストを斬った。
「ぐあ!」
 攻撃を受け、カーストが膝を付く間、シンは分身もろとも姿を消し、また別の場所に現れた。
「なんだ今のは、二人のあんたに確かに斬られ…」
 カーストは困惑しきっていた。
「忍の奥義、分身だ」
 シンに身に付いた力は更なる速さを得るものだけではなかった。自らと全く同じ姿をした分身を作り出す力も得たのである。この力のおかげで多人数との戦いにおいて更に有利に立つ事ができるようになった。
「己と同じ者を作り出す力か、厄介な事だ…」
「分かってるようだな、アガティオ。だが、分身はオレのようにエナジーを使うことはできないし、意思を持っているわけでもない。それでも、オレと同じ位の力は持っている。その意味はわかるか?」
 シンは言いながら残像を残しつつアガティオの周辺を回り、二つの分身を作りだし、彼を三角に囲み込んだ。
「ぐおおおお…!」
 三方が塞がれたままアガティオはかわすことができず、三体に切り刻まれた。三体のシンは再び姿を消した。
「…分身の数だけ倍になった攻撃力を得る、か」
 アガティオは屈みつつ言った。
「その通りだ」
 シンはアガティオの前に現れた。そして分身を作り出す。
「何度も食らわん!分身ごと焼き尽くす!」
 アガティオは地に手を付き、大地から炎を噴き上げた。
『スパイラル・フレイム!』
 アガティオを中心に全方位に螺旋状に炎が巻き上がった。シンの分身はみるみるうちに燃やし尽くされていく。
 その中に本物のシンもいたであろう、アガティオは思い、確実に仕留めたつもりでいた。
 しかし、炎の収まった後、消し炭さえも一切残ってはいなかった。
「何!?」
「残念だったな、そいつは全部偽者だ!」
 シンはアガティオから遠く距離を置いた場所に立っていた。そして大技を使い、隙だらけのアガティオに刃をくらわせた。
「ぐわ!何故だ、何故そこにいる!?」
 アガティオは傷口を抑え、膝を付いた。
「少し分身の使い方を工夫したのさ」
 シンが学んできた剣術には気の錯乱という技法があった。自らの気配をぶらして相手を惑わせるという錯覚にも近い技法である。
 シンは自分の気配を全て分身にまとわせ、彼が分身に紛れて攻撃すると思わせたのだ。そしてアガティオが分身に惑わされている内に、その素早い動きを駆使して身を隠し、隙を突いて攻撃したのだった。
「さあて…」
 シンは分身を複数作り、カーストを囲んだ。
「次は貴様だ、雌狐」
 シンの分身に囲まれ、カーストは進退窮まった。この中にシンの本体がいるのか、はたまた先ほどアガティオにやっていたように気配を隠し、攻撃するつもりなのか。
「ぐう…!」
「どうした、今までの威勢はどこに行ったんだ?」
 写し鏡のようにシンの分身は全て同じように笑みを浮かべ、言った。
「くそぉ!『デンジャフュジョン!』」
 カーストはやけになって爆発を起こした。分身は爆風によって消し去られていく。
「もうそれしかできないのか?」
 声はカーストの頭上より降り注いだ。シンは分身に紛れ、カーストの起こした爆風に乗って飛び上がっていたのだ。
 空中を浮遊したままシンはエナジーを発動した。
『雷神の術!』
 飛んだまま雷を至る所に落とした。
 カーストが雷に怯んでいる隙に、シンは瞬間的に地に降り立ち立て続けにエナジーを放った。
『竹封じの術!』