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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 13

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第47章 漆黒と白銀


 地上から大きな炎の翼を広げ、宙を滑走する能力を受けたことにより、さらに飛翔能力の上がったジャスミンの背に乗りシンは一挙に灯台の上部へとたどり着いた。
 そこでは仲間達皆が倒れていた。
 灯台の復活を阻止せんとするロビン達がやられているのにはまだ理解が及ぶ。しかし、なぜか、どういうわけか志を同じくするはずのガルシア達までもが倒されている理由が分からなかった。
 どうしてこのような事態に陥ったのか、大方の想像はつく。ロビンはガルシアの旧友であり、その考えは例え敵対していたとしても変わる道理がない。倒れたロビンの姿を見て、ガルシアは怒りに燃えてカーストへと戦いを挑んだのであろう。
 そして敗れ、今や地に伏している。
「兄さん!」
 ジャスミンはガルシアを抱き起こして何度も呼びかける。
「兄さん、兄さん!お願いよ。目を開けてよ…!」
 ガルシアを呼ぶ声は涙にかき消された。
 ガルシアの胸元に泣き崩れるジャスミンを後目に、シンは沸々と怒りを露わにしていた。カースト達を睨み、怒髪を立てていた。エナジーによる影響か、心なしか髪の毛が赤みを帯びて見える。
「貴様ら、死ぬ覚悟はできているな…?」
 普段のシンとは違って、今回ばかりは怒りを込めて静かに言い放った。
 しかし、獣の如き睨みを向けられてもカーストは一切たじろがなかった。
「アハハ…、また馬鹿が一人死にに来たようだねぇ。たった一人であたし達に勝つつもりでいるよ!」
「愚かな…」
 カースト達は嘲笑った。
「貴様らなんて一瞬で地獄に送ってやる…、喜びな、もうすぐ大好きな姉貴に会えるぜ」
 シンは一切挑発に乗らず、静かに怒りに震え、殺意を一心にカースト達へと向けていた。
「…その減らず口、いつまで続くかな?」
「行くよ、アガティオ!」
「来やがれ、雑魚どもが!」
 シンはここで初めて大声を上げ、二人へ攻めかかった。久々に二本揃った短刀を振るい、彼の持つ本当の力を発揮した。
 カーストの大鎌を左の剣で弾き、右の刀で一撃を加える。その一撃がカーストへ届く前に横からアガティオの拳が飛びかかった。シンは刃を引き、退いた。
 多少の距離が開いたところで短刀を納め、シンは両手を合わせエナジーを込めた。
『封魔手裏剣!』
 風によって作られた刃がカースト達に襲いかかった。するとアガティオがカーストを庇うように立ちはだかり、風の刃を全て叩き落とした。
「ふん、はっ!」
「何だと、素手で受け止めただと!?」
 反撃とばかりに今度はアガティオがエナジーを放った。
『ローリング・フレイム!』
 渦巻く炎が撃ち出された。かわせぬ速さではない、シンなら容易く避けることができた。
 しかし、後ろには仲間達がいた。かわせば彼らが炎に包まれてしまう。
『旋風の術!』
 やむなくシンは竜巻を起こし、炎を迎撃した。しかし、威力は僅かにアガティオの炎の方が上であった。
 竜巻が打ち破られ、僅かな炎がシンを包み込んだ。
「ちっ!」
 シンは炎に身を焦がした。腕に軽い火傷を負った。ひりひりと痛む腕を抑えながらシンは後ろに視線を向けた。
――ここじゃまともに戦えねえ…――
『ライジング・ドラゴン!』
 一瞬の隙を突き、ドラゴンの顔を模した炎がシンを打ち上げた。アガティオによるエナジーである。
「ぐああああ!」
 今度はまともに炎に包まれてしまった。シンに噛みついた炎のドラゴンは上空で爆発した。
 爆発を受け、シンは地面に叩きつけられた。
「ぐ…う…!」
 全身に多大なダメージを受け、シンはまともに動くこともできなくなった。
 そんな彼へ鎌を携えた血の色の髪をした死神が歩み寄り、火傷のひどい腕を力一杯踏みつけた。
 シンの苦痛の呻きが洩れた。痛みは全身にまで走る。
「口ほどにもないねぇ、空を飛んでまで来たんだからちょっとは手強いかと思ったんだけど…」
 カーストは冷酷な笑みを浮かべながらシンの火傷を踏みにじった。シンから悲鳴が上がる。
「まあいいわ、あんたはしばらくそこでそうしてな」
 カーストは最後に思い切り踏みつけた。シンの腕は痛みのあまり感覚もなくなってしまった。
「面白い現れ方をしてくれたんだ、こっちも冥土の土産に面白いものを見せてあげるよ。仲間の首がどんどんはねられる様をね!」
 カーストは突然足を掴まれた。驚き視線を下へ向ける。
「ふざけるんじゃねえ…、そんな事はオレが絶対許さねえ…!」
 カーストは舌打ちと同時に足を掴む手を振り解き、再びシンの腕を踏みつけた。
「いつまでもうるさい奴だねぇ!だったらまずはあんたのその真っ赤に腫れた腕から切り落としてやるよ。安心しな、あんたは最後に殺してやるから!」
 カーストは鎌の刃をシンの焼け爛れた腕にかけた。
『アクア・スプラッシュ!』
 刃がシンの腕を落とそうかという所で、カーストへと複数の水柱が上がった。
 カーストは一瞬驚きながらも飛び退いた。
「誰だい、まさかまだ仲間がいたのかい!?」
――仲間などではありませんよ――
 どこからともなく青年の声が響いた。この声音にはシンにも、カーストにも覚えがあった。
 声に続いて空間に水泡が集まり、それが人の形をなしていく。揺らめく水の如き深緑の髪が露わになり、整った目鼻立ちの顔も明らかになった。
「少々、お戯れが過ぎますよ。カースト」
「アレクス!」
 アレクスは一段下の僅かな足場にいるメアリィとジェラルドに視線を向けると、何やらエナジーを発動した。するとジェラルドは輝きに包まれ、宙を浮いてアレクスの足元まで運ばれた。
 再びアレクスは念じる。キラキラとした光を身にまとい今度は自身を宙へ舞わせた。ふわふわとゆっくり降下し、メアリィの所まで移動した。
「アレクス」
 メアリィは少し身構えた。
「大丈夫です。さあ、手をお出しなさい…」
 言うとアレクスは手を差し出した。メアリィはためらいがちにその手に触れる。瞬間、メアリィは横抱きにされた。
 あまりの驚きに声も出ない状態となったメアリィを抱いたまま、アレクスはゆっくりと元の場所へ浮上した。
「さすがにあなたをエナジーで運ぶのは失礼な気がしましてね。お怪我はありませんね、メアリィ?」
 メアリィを下ろし、アレクスは訊ねる。
「私は大丈夫。でもみんなが…」
 ロビン、ガルシア、そしてシンまでもが重傷を負い、倒れている。ジェラルドも片腕を痛めている。他の皆も気を失い、無傷なのはメアリィとジャスミンだけであった。
「おやおや、これはまた随分と手酷くやられたものですね…」
 アレクスはため息を付いた。
「シン」
 アレクスは足元に横たわるシンに呼びかけた。
「アレクス…」
 問いかけに応じた。まだ意識は残っていた。
「気絶してはいなかったようですね。よかった、あなたならすぐに動けそうだ…」
 アレクスは強く念じ始めた。エナジーの光がアレクスを包み込み、眩いばかりに輝きを放った。大きな力がアレクスから流れ出す。
『アーネスト・プライ』
 シンは巨大な光り輝くベールに身を包まれた。それは流れる水のように優しく、心地よい光であった。
 たちまちシンの体の傷が無くなっていく。ぼろぼろで血みどろになった体が輝きを放つほどに再生した。