こらぼでほすと 花見1
痛めていた声帯も、なんとか再生した。検査してもらって、その辺りもクリアーだ、と、ドクターに診断されてニールも、ほっと胸を撫で下ろす。
「でも、しばらくは叫んだり大声を出すのはやめなさい。リジェネくん、監視を頼むよ。」
「了解。任せといて、ドクター。」
ここんところ、リジェネもティエリアからニールの看護方法は学んだらしく容赦なく看護してくれる。クスリをスルーするとか有り得ない、と、寝ていても叩き起こして飲まされるし、クスリの前に栄養も摂取しなくてはいけないんだ、と、無理矢理に食事もさせられる。こればかりは、大丈夫、と、笑っても誤魔化されてくれなくなった。そのお陰で、十日ほどで喉の腫れは引いたのだが、ニールは、あんまり納得できるものではない。
「常備薬は、一応、渡しておくが、これが尽きても体調が戻らない場合は、連絡してくれ。ニールくんの言うことは、一切信用しなくていい。」
もちろん、ドクターも容赦ない。当人が無頓着なんだから、大丈夫とか言っても信じてはいけない、というのが、ニール取り扱いの第一歩となっている。
「・・・どくたー・・・」
「そんな困った顔してもダメだ。きみは、自分の体調を過信しすぎる傾向が酷い。周囲の人間に判断してもらえ。」
インフルエンザなんて熱さえ出せば治るものだ。だから、適当に、それで凌げると思っていたのが、ニールの過信だ。そういうことは体力と免疫力がついてからやれ、と、叱られた。ドクターは血液検査の結果を見て、ふむふむと頷いている。
「栄養が足りてない。」
「・・え?・・・」
「食事の手を抜いてるのが、丸解りだ。栄養剤だけ点滴しておこう。なんなら、安定剤も追加して一日、入院していくかい? 」
「・・・う・・・かえりたいです・・・」
「じゃあ、ベッドに横になって。」
ここんとこ、とりあえずお粥だけは口にしていたが、それだけだ。栄養剤のチューブパックすら喉に引っ掛かる気がして避けていた。トダカ家に滞在中も、喉が痛いから、と、それしか口にしていなかったのだ。検査の結果には如実に現れているらしい。
「チューブパックぐらい飲まないとな。」
「・・・・量が多いんです・・・」
「半分でやめればいいだろ? 」
「・・・もったいない・・・」
庶民派貧乏性も、ここまでくると立派だと、ドクターも呆れる。棄てるぐらいなら飲まないということらしい。もう何も言うまい、と、点滴の準備をする。リジェネは、ちゃんとベッドの傍に椅子を運び、ママの様子を見ている。
午後前には帰れるつもりだったのに、点滴されて午後を過ぎた。リジェネが空腹だろうと、食事を頼もうとしたら、先に扉が開いた。歌姫様が戻っていたらしい。ごきげんよう、と、一応、笑顔で近付いてくるが、背後には、ものすごいオーラだ。
「ママ、食事の用意をしました。一緒に召し上がってくださいな? 」
「・・・ああ・・あの・・・ラクス? 」
ものすごい怒りオーラが歌姫様の背後から沸きあがっている。怒鳴るなら、いっそ一思いに怒鳴ってください、と、ニールは内心で思うのだが、歌姫様は怒鳴らない。
「本日のメニューは、なんちゃってアイリッシュシチューです。羊が手に入らなくて、豚で作りました。」
「・・・うっうん・・・」
「具材を細かくしたポテトサラダも用意しておりますよ? ママ。」
「・・あっありがと・・うん・・・」
「少しでも召し上がって体調を戻してくださいね? 」
言葉は穏やかなのだが、目が笑っていない。リジェネも、その迫力に無言でママの背後に隠れるようにしている。
「・・あっあの・・・ラクスさんや・・・」
「はい? なんですか? ママ。」
「・・・怒鳴っていいよ? ・・・おまえさん、顔が怖い・・・・」
「まあ、失礼な。」
「・・・・心配させて・・・悪かったよ・・・その・・・油断しててさ・・・もうやらないからさ・・・」
目が笑ってない笑顔に、ニールもビクビクと謝る。怒鳴られるのなんて慣れているから、そのほうが気が楽だ。不発弾を点火させそうな勢いのほうが怖い。
「ほほほほほ・・・『もうやらない』のですか? ママは、また、そんな・・・・ほほほほほほ。」
「・・・ぜっ善処はする・・・」
一ヶ月ぶりに、歌姫様とは顔を合わせたのだが、こういう怒り方は初めてだ。まずは、開口一番、怒鳴るが、いつもの歌姫様のパターンだ。それが、曲がりなりにも笑顔で、じわじわと怒りのオーラを噴出させられると、ニールも怖い。なんか他にあったのか? と、心配になる。
歌姫様の顔を心配気に眺めていたら、唐突に、歌姫様がママの両頬に手をやって引っ張った。力任せではなくても痛いものは痛い。
「私が、ムカつく会議でイライラしておりますのに、さらに、ママのダウンで、どんなに神経がささくれたことか・・・・・すぐには帰れない状態で、喉まで痛めたと言われて・・・どれほど心配したか、おわかりですか? ママ。」
ぎゅうっと頬を両側に引っ張られては喋れない。目が怖い。真剣に怒っている。コクコクと頷いたら、さらに、ぎゅうっと引っ張られた。
「インフルエンザは、免疫力が低いのですから罹患することもあるでしょう。それは責めるに値しませんが・・・・・自身で悪化させる行いには、些か腹が立っておりました。・・・・離れている娘が、どれほど心配するか、少しは考えてくださいませんか? ママの声が聞けなくなると心配した。この気持ちだけは静められませんでした。」
両頬を引っ張っていた手は離れた。痛いなあーとニールが、頬を撫でたら、歌姫様も撫でている。
「・・・お疲れさん・・・もう大丈夫だよ? ラクス。ごめんな? ・・・おかえり。」
「はい、ただいま戻りました、ママ。・・・・私、仕事に穴を開けて帰ろうかと思いました。」
「・・・いや・・それは・・・」
「でも、私も、それはいけない、と、踏み留まりました。ですが、ママは、ちっとも悔い改めてくださいません。・・・・いい加減にっっ、私を心配で泣かすのはやめてくださいっっ。」
最後は怒鳴って、歌姫様が胸に飛び込んでくる。わんわん泣いて、ママの胸を拳で叩く。
・・・・なんで、そんなに心配するかなあ・・・たかだか風邪なのに・・・・
と、内心で呆れたものの、リジェネと同じように心配して泣いているので、言葉にはできなかった。
「・・・私・・・ママの死体なんか燃やしたくありませんっっ。インフルエンザでも、体調が悪いと死に瀕するものなんですっっ。どうして、それがわからないんですかっっ。そんなに私に、燃やさせたいんですかっっ? ママっっ。」
「・・・あーごめん・・・そこまでのことだとは思わなくてさ・・・俺、そんなに危なかったのか? 」
当人は、高熱で意識が朦朧としていたから、よく解っていないが、そういうことだったらしい。そういや、三日も医療ポッドに叩きこまれてたなあ、と、思い出した。普通、体調不良ぐらいだと、一日もかからない。それから換算すると、そういうことらしい。そりゃ、みんな、怒るはずだ、と、妙に納得できたりする。
・・・・そー言われてもなあ・・・・てか、会議とやらでストレスフルにもなってんだな・・・・
「でも、しばらくは叫んだり大声を出すのはやめなさい。リジェネくん、監視を頼むよ。」
「了解。任せといて、ドクター。」
ここんところ、リジェネもティエリアからニールの看護方法は学んだらしく容赦なく看護してくれる。クスリをスルーするとか有り得ない、と、寝ていても叩き起こして飲まされるし、クスリの前に栄養も摂取しなくてはいけないんだ、と、無理矢理に食事もさせられる。こればかりは、大丈夫、と、笑っても誤魔化されてくれなくなった。そのお陰で、十日ほどで喉の腫れは引いたのだが、ニールは、あんまり納得できるものではない。
「常備薬は、一応、渡しておくが、これが尽きても体調が戻らない場合は、連絡してくれ。ニールくんの言うことは、一切信用しなくていい。」
もちろん、ドクターも容赦ない。当人が無頓着なんだから、大丈夫とか言っても信じてはいけない、というのが、ニール取り扱いの第一歩となっている。
「・・・どくたー・・・」
「そんな困った顔してもダメだ。きみは、自分の体調を過信しすぎる傾向が酷い。周囲の人間に判断してもらえ。」
インフルエンザなんて熱さえ出せば治るものだ。だから、適当に、それで凌げると思っていたのが、ニールの過信だ。そういうことは体力と免疫力がついてからやれ、と、叱られた。ドクターは血液検査の結果を見て、ふむふむと頷いている。
「栄養が足りてない。」
「・・え?・・・」
「食事の手を抜いてるのが、丸解りだ。栄養剤だけ点滴しておこう。なんなら、安定剤も追加して一日、入院していくかい? 」
「・・・う・・・かえりたいです・・・」
「じゃあ、ベッドに横になって。」
ここんとこ、とりあえずお粥だけは口にしていたが、それだけだ。栄養剤のチューブパックすら喉に引っ掛かる気がして避けていた。トダカ家に滞在中も、喉が痛いから、と、それしか口にしていなかったのだ。検査の結果には如実に現れているらしい。
「チューブパックぐらい飲まないとな。」
「・・・・量が多いんです・・・」
「半分でやめればいいだろ? 」
「・・・もったいない・・・」
庶民派貧乏性も、ここまでくると立派だと、ドクターも呆れる。棄てるぐらいなら飲まないということらしい。もう何も言うまい、と、点滴の準備をする。リジェネは、ちゃんとベッドの傍に椅子を運び、ママの様子を見ている。
午後前には帰れるつもりだったのに、点滴されて午後を過ぎた。リジェネが空腹だろうと、食事を頼もうとしたら、先に扉が開いた。歌姫様が戻っていたらしい。ごきげんよう、と、一応、笑顔で近付いてくるが、背後には、ものすごいオーラだ。
「ママ、食事の用意をしました。一緒に召し上がってくださいな? 」
「・・・ああ・・あの・・・ラクス? 」
ものすごい怒りオーラが歌姫様の背後から沸きあがっている。怒鳴るなら、いっそ一思いに怒鳴ってください、と、ニールは内心で思うのだが、歌姫様は怒鳴らない。
「本日のメニューは、なんちゃってアイリッシュシチューです。羊が手に入らなくて、豚で作りました。」
「・・・うっうん・・・」
「具材を細かくしたポテトサラダも用意しておりますよ? ママ。」
「・・あっありがと・・うん・・・」
「少しでも召し上がって体調を戻してくださいね? 」
言葉は穏やかなのだが、目が笑っていない。リジェネも、その迫力に無言でママの背後に隠れるようにしている。
「・・あっあの・・・ラクスさんや・・・」
「はい? なんですか? ママ。」
「・・・怒鳴っていいよ? ・・・おまえさん、顔が怖い・・・・」
「まあ、失礼な。」
「・・・・心配させて・・・悪かったよ・・・その・・・油断しててさ・・・もうやらないからさ・・・」
目が笑ってない笑顔に、ニールもビクビクと謝る。怒鳴られるのなんて慣れているから、そのほうが気が楽だ。不発弾を点火させそうな勢いのほうが怖い。
「ほほほほほ・・・『もうやらない』のですか? ママは、また、そんな・・・・ほほほほほほ。」
「・・・ぜっ善処はする・・・」
一ヶ月ぶりに、歌姫様とは顔を合わせたのだが、こういう怒り方は初めてだ。まずは、開口一番、怒鳴るが、いつもの歌姫様のパターンだ。それが、曲がりなりにも笑顔で、じわじわと怒りのオーラを噴出させられると、ニールも怖い。なんか他にあったのか? と、心配になる。
歌姫様の顔を心配気に眺めていたら、唐突に、歌姫様がママの両頬に手をやって引っ張った。力任せではなくても痛いものは痛い。
「私が、ムカつく会議でイライラしておりますのに、さらに、ママのダウンで、どんなに神経がささくれたことか・・・・・すぐには帰れない状態で、喉まで痛めたと言われて・・・どれほど心配したか、おわかりですか? ママ。」
ぎゅうっと頬を両側に引っ張られては喋れない。目が怖い。真剣に怒っている。コクコクと頷いたら、さらに、ぎゅうっと引っ張られた。
「インフルエンザは、免疫力が低いのですから罹患することもあるでしょう。それは責めるに値しませんが・・・・・自身で悪化させる行いには、些か腹が立っておりました。・・・・離れている娘が、どれほど心配するか、少しは考えてくださいませんか? ママの声が聞けなくなると心配した。この気持ちだけは静められませんでした。」
両頬を引っ張っていた手は離れた。痛いなあーとニールが、頬を撫でたら、歌姫様も撫でている。
「・・・お疲れさん・・・もう大丈夫だよ? ラクス。ごめんな? ・・・おかえり。」
「はい、ただいま戻りました、ママ。・・・・私、仕事に穴を開けて帰ろうかと思いました。」
「・・・いや・・それは・・・」
「でも、私も、それはいけない、と、踏み留まりました。ですが、ママは、ちっとも悔い改めてくださいません。・・・・いい加減にっっ、私を心配で泣かすのはやめてくださいっっ。」
最後は怒鳴って、歌姫様が胸に飛び込んでくる。わんわん泣いて、ママの胸を拳で叩く。
・・・・なんで、そんなに心配するかなあ・・・たかだか風邪なのに・・・・
と、内心で呆れたものの、リジェネと同じように心配して泣いているので、言葉にはできなかった。
「・・・私・・・ママの死体なんか燃やしたくありませんっっ。インフルエンザでも、体調が悪いと死に瀕するものなんですっっ。どうして、それがわからないんですかっっ。そんなに私に、燃やさせたいんですかっっ? ママっっ。」
「・・・あーごめん・・・そこまでのことだとは思わなくてさ・・・俺、そんなに危なかったのか? 」
当人は、高熱で意識が朦朧としていたから、よく解っていないが、そういうことだったらしい。そういや、三日も医療ポッドに叩きこまれてたなあ、と、思い出した。普通、体調不良ぐらいだと、一日もかからない。それから換算すると、そういうことらしい。そりゃ、みんな、怒るはずだ、と、妙に納得できたりする。
・・・・そー言われてもなあ・・・・てか、会議とやらでストレスフルにもなってんだな・・・・
作品名:こらぼでほすと 花見1 作家名:篠義