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yamatoⅢ 太陽制御の後で 4

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<始>
  <どうしたの?古代くん、ちょっとイライラしてるみたい。>

進は久しぶりにユキと話していた。ユキは独身寮にいた。

  「…あれ?独身寮にいるの?」(進)
  <そうよ?どうして?>(ユキ)
  「だって、あっちの方が広いじゃないか。」(進)
  <広すぎるの。一人の時はこっちで充分よ。>

ユキの一瞬の寂しそうな顔を進は見逃さなかった。

  「もうすぐ地球に戻るから…久しぶりにいいところで食事でもしよう。」

進の一言にユキの顔がパッと明るくなる。

  <本当?>(ユキ)
  「少し有給とってどこかゆっくりしに行こうか。」(進)
  <嬉しい!プラン、考えていい?>(ユキ)
  「頼むよ、その辺りはユキの方が得意だろう?静かな所がいいな」(進)
  <そうね…じゃぁ食事の時にゆっくり…あら?ご機嫌直ってる?>

ユキは進の眉間のしわが無くなっている事に気付いた。

  「ユキが笑ってくれればいいんだ。俺が帰ったら向こうに来るよね?」(進)
  <当然でしょ?牛乳買って冷蔵庫に入れておくわ。あのミルクティ飲みたいの。
   作ってくれるでしょう?>(ユキ)



進はよく考えたら勝手に教えて勝手に切れて…美樹の気持ちなど何も考えていなかった事に気付いた。

  (やっぱりユキと話してると落ち着くな。)

気分がすっきりした進はおよその到着時間を告げて私信を切った。

  (艦載機乗りがクビになるのを少しでも食い止め様と俺が勝手にしてた事…
   戦闘班にいたいなら気持ちだけでも正しておきたいと思ったんだが…
   それは俺の思い上がりかもしれない。)

進の手元には林田の学生時代からのレコードがあった。

  (普通だな…これだけ普通だと埋もれてしまうのか?)

ただ女性のパイロットは少ないからイベントには引っ張りだこだ。

  (それが原因か?)

進は大きなため息をついた。




  「艦長、よろしいでしょうか。」

艦長室をノックする音がした。

  「中野?どうした?」

進が扉を開けると中野が立っていた。

  「すみません、美樹を許してやってくれませんか?」

中野が深々と頭を下げる

  「中野が謝る事じゃないだろう?」

進がコーヒーを入れながらソファーに座るよう指で合図をした。

  「インスタントだぞ。」
  「すみません、いただきます。」

中野はそう言うとソファーに座って素直にコーヒーに口を付けた。

  「あんなヤツじゃなかったんです。」

中野はコーヒーを見ながら話し始めた。

  「もっと生き生きしてて…一生懸命だったんです。いつ頃からか…あんな
   感じのつかみどころのないヤツになっていました。」

進はじっと聞いていた。

  「だけど…さっき射撃訓練室で泣いてました。訓練する前は頑張らなきゃと
   食事制限もしてました。動けなくなったのは少し太ったからだ、と…。
   私が言う事ではないとわかっていますが林田をしごいてください。」

中野が立ち上がって90度に頭を下げた。進はその姿を見てこう言った。

  「戦闘機乗りは自分をどれだけ追い込めるか、で決まる。」

中野が進の顔を見た。

  「林田も私も同じ訓練学校の出身で…中野も同じだよな。(中野が頷く)…
   頑張ってほしいと心から思う。」(進)
  「じゃぁ…」(中野)

進は中野に目で“座れ”と合図をした。

  「これだけの危機を何度も乗り越えて来てるのを間近で見てきたはずだ。
   それなのにあの緊張感のなさはなんだ?」

進は感情的にならないようにと自分に言い聞かせて深呼吸をした。

  「女性だけのチームが昔あって…ヤマトがイスカンダルに行く少し前の話だ。
   戦わずして…全滅した。空母がやられて…私が初めて配属になった時の
   チーフのチームだった。」

進の声が震えていた。

  「イスカンダルに行った仲間も全滅してしまった…。その中に訓練生から
   ずっと一緒だった二人も…一人は私に敬礼しながら…一人は私と真田さんを
   ヤマトに連れ戻ったのに…すぐに逝ってしまった。同じ思いをさせたく
   なくて…誰もが生きて帰って来れるようにしたい、その思いだけなんだ。
   私がひとり余計な事をしてしまったんだ。林田には私が勝手に指導して
   勝手に怒った、と、申し訳ないと伝えてくれないか。」

中野は今まで偉大な“古代進”しか見ていなかった。晴れやかな顔の裏にそんな深い思いがある事を初めて知った。

作品名:yamatoⅢ 太陽制御の後で 4 作家名:kei