yamatoⅢ 太陽制御の後で 4
「私は両親を失い、義姉を失い、兄を失い…最後残された姪も失った。
姪は救えたかもしれなかった…だけどこの世界にIfは存在しない。
だから私は訓練でできる事は全てやるようにしている。ただそれだけだ。」
中野は何も言えなかった。自分も美樹と同じだと思った。そして進はそれもお見通し、という事も…
「まだ今ならやり直せる…」
進はそう言うと立ち上がり宇宙空間を見つめた。中野は静かに席を立ち“失礼いたしました”と言って艦長室を出て行った。
進は毎夜の射撃訓練は欠かさなかった。なぜ最後に行うかと言うと全ての履歴に目を通すためだった。艦長の特権でどこの誰が訓練をどれだけやったかの履歴を見る事が出来る。ただそれは訓練室の端末に直接アクセスしないとわからないのですべての艦長が行っているとは限らなかった。
(…毎日来ているな。95%越えか…まだまだだが…少しは進歩してるようだ)
進は自然と美樹の名前を真っ先にチェックしていた。
(さて…じゃぁ俺も一日の仕上げと行くか。)
進は最上級のレベルに真田さんが開発したプログラムを読み込ませたものを入力した。
美樹は毎日射撃訓練に通っていたが進が来るであろう時間を見計らってその訓練中の姿を見ていた。ものすごい集中力で飛んでくるレーザーをかわしその先にあるポイントを打ち抜く…見ているだけで息が止まりそうな訓練だった。
(いつか私もあんな訓練ができるようになるのかしら…)
進はいつもこのセットをいろいろ組み違えながら3セット行う。美樹は進とかち合わないように終わる前にそっと射撃訓練室を出て行くのだった。
(今日が最後だわ。)
荷物をまとめていたらいつもより時間を押してしまい慌てて訓練室にやってきた。
(誰もいない…よかった。)
美樹はコスモガンを手に取ると“今日こそ100!”と念じて訓練室に入った。
(うわ…今日はすっごく調子がいい!)
気持ち良く的に当たる。こんなことは初めてだった。そしてそろそろタイムアップ、と思ったらまだ訓練は終わらない…
(どうして?故障?)
美樹は慌てたが取り敢えず終わらせないと出られない、と思い必死にコスモガンを抱えひたすら的に向かって撃ち続けた。
(…終わった?)
美樹はやっと静かになった部屋の中で崩れ落ちた。膝が自分の身体を支えられなかった…床の上にそのまま倒れこみあがっている息を鎮めようと深呼吸を繰り返した。少し、時間が経って呼吸が落ち着いたので壁に体を預けながら出口に向かって歩き出した。…とその時扉が開いた。
「随分、がんばってたな。」
今、美樹が一番聞きたい声が聞こえてきた。
「スコアーも100だ。あの状態からよく集中力を維持できたな。今までの
訓練の結果だ…。」
美樹はホッとしたのか足もとがふらついた…それを進が支える。
「終わりそうだった所が終わらなかったのは…」(美樹)
「そう、私が操作した。あのまま100で終わったらそれだけで満足して
終わるだろう?本番はそうじゃない。いつ終わるかわからないのが戦闘…
それと同じように進めるのが訓練だ。」
進の言葉に美樹は納得した。あのまま終わっていたら自己満足で月面基地に行った後続けないかもしれない、と思った。
「艦長…」
美樹は進に抱きついて泣いた。進は突然の事でどうしたらいいかわからず両手が宙ぶらりんだった
「艦長、私、これからもがんばります。パイロットとしてもっともっと
頑張ります。飛ばさせてくれないのを人のせいにしません…。」
進は美樹に気持ちが通じたと思った。
「イオに移動になって…管制官の仕事をさせられました。納得できず抗議
しましたが受け入れられませんでした。私はパイロットと言う肩書に
満足してしまい…訓練で失敗しても自分のせいじゃないと思い込んで
いました。実力がなければ飛ばさせてくれないのは当然で…誰もが
ライセンス取った後もちゃんと訓練していました…私は何もせず今まで
いったい何をしてきたんだろう…。」
進が美樹の両肩を支えて
「誰もが艦載機にパイロットになれるわけじゃない。林田にその才能が
あったかパイロットになれたんだ。もっと自信を持って行け。」(進)
「はい。いろいろありがとうございました。」
美樹は立ち上がり敬礼した…がまだヒザが言う事を聞かずふらついた所を進が支えようとしたとき…
美樹は進の唇に自分の唇を重ねた
作品名:yamatoⅢ 太陽制御の後で 4 作家名:kei