yamatoⅢ 太陽制御の後で 4
「ユキ…」
大統領と藤堂が戻って行って部屋は再び静かになった。進が冷たくなったユキの手を握った。
「裁判とかになるの?」(ユキ)
「…どうかな。」(進)
進はユキがその証言台に立つことを嫌がっているのが分かった。
「今回は…あの医師のように穏便に、と言うわけには行かないだろう。」
進が厳しい口調で言った。
「次はない…俺はちゃんと言った。これは受けなくてはいけない罰だ。
大丈夫…傍にいるから。」
進がそっと抱きしめる。ユキは進自身もこの先どうなるのか不安だろうと思うと胸が締め付けられる思いだった。
(自分がしっかりしなくては…)
ユキはそう思うと進の背に手を回しながら一言だけつぶやいた。
「私は大丈夫…」
翌日、仕事の為に登庁すると明らかに二人を見る目が違った。進はユキを長官室へ送って行った。いつもより早く藤堂は長官室にいて二人が秘書室に入ると奥の長官室から出てきた。
「…おはようございます。私、時間、間違えましたか?」
ユキが慌てて時間を確かめようとしたが
「いや…、古代と話がしたかった。このままちょっといいか?」
藤堂に促されて二人とも長官室へ入る。
「大統領の息子だが…ユキの名前は伏せて事件の事を出すように指示して
いるがどこから漏れるかわからない…性犯罪は相手が分からないように
するのが大前提だ。だが…ユキが有名人だから万一という事も考えている。」
藤堂は以前のようにユキが追い込まれた時の事を思い出していた。
「…私は大丈夫です。もし…名前が出てしまったとしても…あの事で…うんと
強くなりましたから…」
ユキははっきり言った。しかし藤堂の顔が曇ったままだ。
「それと…古代。」
藤堂の難しい顔がそのまま進に向けられた。
「晶子から連絡をもらってな…キミの事なのだが…」
藤堂が含みを持たせるような言い方をしたので進はすぐに気付いた。
「林田 美樹の件でしょうか。」
ユキの時と違い戦闘オーラ全開になった。藤堂は何かあった、と思った。
「ヨコスカにいる晶子の先輩から入った話なんだが…言いにくいがはっきり
言わせてもらう…。“古代が艦内で自分の立場を利用して誘ってきた”と
噂があるようだ。」
藤堂は二人の反応に驚いた。全くぶれる事無く藤堂を見つめている。
「晶子から聞いて…私はすぐに否定したよ。まさか古代に限ってそんな事が
あるわけない、と…。晶子の先輩がその林田 美樹と同期で直接聞いた、
とね。」
藤堂は二人を見た後、続けた。
「本当の事を話してくれないか?」
藤堂の眼は“進を信じている”の眼だった。ユキの事を本当の孫娘のように思っているので自然と進の事も同じ目線になっていた。
「おそらく…晶子さんは“コスモガンの訓練中に襲われた”と言っている
のではないでしょうか?」
進が口を開いた。藤堂が頷く。
「すみません、普通の乗組員と同じように接したつもりだったのですが…
林田が勘違いしてしまったようで…誤解を生み、指導してる最中に…お恥
ずかしい話ですが反対に私が…」
進は厳しい顔できっぱり言い切った。
「林田は月基地に赴任する予定でした。しかしこのままいけば艦載機の
パイロットを辞めさせられるのは目に見えていたので…林田は私の訓練
学校の後輩です。絶対にあきらめさせたくなくて…いつもより訓練に力が
入ってしまいました。」(進)
「それを林田が勘違い…か。なんとなく分からなくないが…すまんがもう
一度聞く。古代から、という事はないんだな。」(藤堂)
「はい…相手が“パワハラ、セクハラ”で訴えてくるかうわさを流して
来るか…どちらかだろうと思っていました。だけど私は悪い事をしていない
ので林田にそのような行動に出ないよう、頼む事をしませんでした。」
進の言っている事は当たり前の事だが…藤堂が苦笑いをした。
「そうか…わかった。事によっては不本意だろうが自宅待機になるかもしれ
ない…」
藤堂の眼は進を信じている、と言っていた。
「わかりました…その時は指示に従います。」(進)
進はソファーの背もたれに身を預けた。
作品名:yamatoⅢ 太陽制御の後で 4 作家名:kei