yamatoⅢ 太陽制御の後で 5
「先程議長が言っていた通りの噂があるの。ただのクルーならここまで
話しが大きくなることはないんだけど相手が艦長だからね…セクハラだけ
じゃなくパワハラもあったんじゃないか、って事になってね。女性として
一番触れられたくない部分だと思うの…まして、あなたはまだ若いわ。
こんな噂たてられて…辛いと思うの。」
香山の言葉に美樹は頭の中で否定しつつも嬉しい気持ちがあってニヤニヤする顔を必死に真顔にしようと努めていた。
「あなたはイオから古代艦長の艦に乗った…」(香山)
「はい…偶然、古代艦長が射撃訓練してるところに出くわして…私のデキが
悪いから…一緒に訓練してくれていました。そこは間違っていません。
だけど余りに私が努力しなかったので途中、一人で訓練していました。
最後の日に射撃訓練室で出くわして…」
美樹の言葉がここで止まった。
「出くわして?」(香山)
美樹は本当の事を言うべきか悩んだ。本当のことを言ったら同僚から軽蔑されてしまう…
「あなたの言葉一つで古代艦長のこの先、が決まるの。」
香山の一言を聞いて美樹が顔を上げた。
「最悪…懲戒免職になるかもしれない。圧力をかけて自分より若い女性を
襲ったとなればそれはそれなりの罰則を、となるわ。懲戒免職を免れた
としても太陽系外周の…もっと遠くへ…ずっと地球へ戻って来れない様な
所へ飛ばされてしまうかもしれないわ。」(香山)
美樹はまさかそんな大きなことになるとは思っていなかったので香山を見たまま止まってしまった。
「言いたくないのかしら?言えないのかしら?」
香山はコーヒーを一口飲んだ。
「あなたは誰を守っているの?」
香山は質問を変えた。美樹は意味が分からず“え?”と聞き返した。
「多分、古代艦長はユキさんを守るために今必死だと思うわ。こんな噂が
流れたら真っ先に自分の心配じゃなくて周りの人の事を思う人よ。
自分はどう思われてもいい、だけどユキさんだけは、って思う人。
あなたは…誰を守っているの?」
美樹は何も答えられなかった。ただ下を向いてるだけ…
「いろいろ…急で答えられないわよね。いろいろ畳み掛けるように聞いて
ごめんなさい。私も仕事だからしょうがないの。今日はもう、いいわ。
明日、10時にこの部屋に来て。心の整理をして来てほしいわ。そして
何があったのか…私に話してほしいの。」
香山はそう言うと立ち上がった。美樹も一緒に立ち上がる。
「ありがとうございました。」
美樹は香山と目を合わせないように顔を伏せたまま敬礼すると部屋を出て走って帰って行った。
香山はずっと考えていた。どう考えてもあの艦長がはっきりしない女性に手を出すと思えなかった。確かに婚約者とはまるっきり別のタイプで正反対の異性に惹かれる事はないとは言えないが…釈然としない事が多かった。
(男性に襲われた女性があんなに堂々と男性がずらりと並んだ会議室に
入って来れるのか…私と話してる時も落ち着かなくて…掴み所がなさ
すぎるわ。先に話を聞いた古代艦長の話の方が信憑性がある…ただ…
もし林田さんの受けた事が本当だとすると…)
香山が参謀の控室に入ろうとしたがその先にある長官室の扉をノックした。
「お疲れ様。」
ユキは香山を笑顔で迎え入れた。
「今長官はお留守なの。」
いつものユキと違いすっかり疲れ切っていた。香山はまさかユキ自身別の事件が起きた事を知らない。
「森さん、ちょっと聞いていいですか?」
香山は自分が進と美樹の件に関わっていることは伏せて聞いた。
「古代艦長の噂を聞いたのですが…」
香山はユキの控室のソファーに座ってもらいそこへコーヒーを運んだ。
「えぇ…古代くんから直接聞いたわ。多分、私にもいろいろあるだろうから
本当の事を知っててほしいって。だから私は大丈夫…大変なのは古代くん
だから…私はしっかりしてなきゃいけないの。ごめんなさいね、ヤマトの
中の私っぽくなくて…それとあの時…優しくできなくてごめんなさい、
だったわ。みんなの命を預かっているから…厳しくしちゃって…」
ユキは香山に頭を下げた。
「森さん、何をおっしゃいますか!ほんの少しだけどあの航海があって私、
変わる事が出来ました。軍にいる意味と戦うと言う事…戦闘が始まると
どうなるのか…とか。本当に感謝しています。だからこそ…私は古代艦長を
救いたいと思ています。」
香山ははっきりした口調でユキに伝えた。
作品名:yamatoⅢ 太陽制御の後で 5 作家名:kei