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Twisted tongue

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(眠り姫だなあ)
 …と皆が墓から順番に出るのをみまもりながらぼんやり考えつき、我に返って俺は一人でうんざりした。
 当てはまる辺りがあるとはいえ、あまりに酷い例えだ。何だこの甘ったるさ。メルヘンに過ぎる。
 こんなことを考えていたのが本人に知れれば、屋上からフェンス外をめがけて目一杯蹴り飛ばされるのは、まず間違いがない。何といってもすぐに足の出るバイオレンス男なのだ。特に、俺には。本当そーなんだって。こうやって愚痴りたくなるくらいに、あいつ、俺のことを気軽にがつがつ蹴り飛ばしてくるんだよ。ひょっとしてあの威力でつついてるだけだとかしか、思ってないのかもしれない。しかし、最近俺の身体には探索のためではない痣が発見できるくらいだ。それも常時。
勿論、こちらだって、黙って受けてやるほどのお人好しではないけれど、それがあまりにも当たり前の動作なので、全部に気づくことが出来ない。殴り返してイーブンにしようにもその頃には安全領域まで逃げられているという様を繰り返すばかりだった。畜生。肉体とプライドの双方が痛い。心底むかつくあの男。くっそー、こちとら、普通の人間なんですよ。象が踏んでも、熱湯かけられても、痛すぎるお前の蹴りでも、壊れるに決まってんだろーがあの万年寝太郎。ラベンダー馬鹿。
 …話をもどす。
 ぼんやりと考えていたのは自分と「親友」という扱いになっている男のことだ。
 皆守甲太郎。
 嗜好も気も嫌になるほど合う、この學園でたぶん一番長く時間を共にしている相手。たかが一ヶ月ちょっとのつきあいだけど、取りあえず、親友といっても双方差し支えがないだろう。まあ、取りあえず「今のところ」。
平均よりはやや長身。この學園では珍しく改造してない制服から覗く手足は、嫌味に長くて、その上細身だ。細いからと云って華奢というわけではないらしいのが、まーた腹の立つところで、普段けだるげにしている割に時として見せる動作はぞっとするほどに機敏だった。日常の行動や性格とは不釣合に、鍛え上げられている体をしているだろうことは明かだ。髪はくしゃくしゃの縮毛で、男子高校生として普通の短さ。ふわふわ長くて黒塚みたいに優雅なわけじゃない。天パの癖に何もしないで見映えがいいなんて、ちょっとお前それずるくない?とかおもうけど。でもまあ普通だ。一般的男子の範疇だ。その手のひらだって、おおきく、細い指はしっかり節くれだっていて、いかにも男らしい。
 何時だって眠そうな、やる気の無い顔つきの癖に、基本的には男らしく整った造作なのは俺でも否定できない。人を近く寄せない雰囲気さえだしていなければ、下級生にきゃあきゃあ云われるのだってありえそうな顔だ。
 どこから見ても立派な、立派過ぎるくらいに男子高校生様である。姫、という形容は失礼を飛び越えて失笑にしかならないだろう。似合いはしない。
(似合わない。けどあいつには、確かに、当てはまる)
 ああ、腹が立つ。こうやって最近、俺はあいつのことばかり考えている。
 皆守。
 この學園の眠り姫は、王子様なんて待たない。


「九龍君?どしたの?大丈夫?風邪?」
「あ、ああ悪い。今俺ちょっと飛んでたかな」
 こうみえて八千穂は案外鋭い子だ。特に人のちょっとした不調を見つけるのが上手だった。探索帰りの途中の暗い道のりでも、俺が考え込んでたことに気がついてしまうくらいには。
「ううん、それはいいんだけどさ。どっか身体の調子わるかったりする?何か、怪我とか」
「いいや、平気。そんなへましてねえって」
 そういって握った手で額を触らせて、熱が無いことを確認させる。
「ほらな、だいじょーぶだろ」
「ホントだね?なんか、苦しそうな顔してたから…。大丈夫ならいいんだ。しつこく聞いちゃってごめんね」
「ありがとう。本当、八千穂はやさしいな。ホント、誰かさんとは大違いだぜ。なあ皆守」
「やかましい。立って寝ぼけてるような奴を心配する義理が何処にある」
「これだもんな。なあ八千穂。爪の垢とかあいつにやってくんない?」
「要るかそんなもの!」
「皆守ってこれだもんなあ。つまんないよねー」
 まあ、こういうわかり易い挑発でも乗ってきてくれるところは、かわいらしくはあるけどね。
「ていうかさあ、俺より八千穂が大丈夫か?」
「……う〜、実はちょっとだめかも」
 今日の探索はちょっと失敗した。罠を解除できなかったとか、宝を取れなかったとか、敵にやられかけたとかそういうことではない。
敵を近くでやりすぎてしまったのだ。
 バディたちは何時もなら後ろで待機してもらっているけれど、今回は通路が狭かった。おまけに奴の距離も近く、速攻でケリをつけるべきだった。どうしても彼女に見えるところで殺すしかなく、そして俺の獲物は基本的に銃なのだが、最悪なことに二発打ったところで弾が切れた。あわてて八千穂の人類史上で例をみない最強のスマッシュをお願いしたのだ、が、
 想像して欲しい。
 見事にクリティカル決めて四方八方に散らばった妖怪系何が何だかわからない生物の惨殺死体を。
 今までも、似たようにして仕留めてもらったことは多かったが、今回はほぼ目の前だ。平和に育った女の子の気分が悪くなってしまって、当然だ。その残酷な行為を頼んだのはこっちなのに、八千穂は今何も裏などなく俺の体調を気遣ってくれているのだから、出来た子だなあと心底思う。
 不可抗力ではあるかもしれないが、(特に)女の子たちをバディに連れて行くに当たってはこの先絶対に再発させない様にしようと、俺は硬く誓った。とりあえず、部屋帰ったらライフル買っとこ。
「あーどうしようあんなの夢にでちゃったら寝られないよう」
「ごめんなー八千穂。ほんとにごめん。
 でも、大丈夫だって、今夜はもうへとへとに疲れちまってるから夢も見ないさ。それに明日になればまた賑やかなことがあって。そっちで頭が一杯になるだろ?」
「…あはは、なんか、九龍君がそうやっていうと説得力あるなあ!」
「そんで、この夜もきっとすぐ、何時かの夜になる。すぐには思い出せない何時かになる。だから大丈夫だって。時間てのは偉大だから。」
「あーすごい葉佩君。そんなこと云われたらたいしたことじゃないかもって思ってきちゃった」
「だろう?」
「…うーん、でもやっぱり今日の内はきっと思い出しちゃうよ!」
「そうだよなー。じゃあ今晩はさ、寝れるまで俺と話そうか。楽しい話だけしようぜ」
「え、助かるけど。でもいいの?葉佩君ねむくない?」
「大丈夫大丈夫。俺3時間くらい寝れば充分だから。プライベートの携帯であとから掛けるから番号教えといてくれるか?」
「あ、うんじゃちょっとまってね」
 一般人を連れ歩いている以上、俺には保護責任と言うものがある。今まで身体に傷を作らせたことなど一度だって無いが、目に見えるばかりが傷ではない。嫌な思い出と言うものにも手当ては必要だ。それに八千穂という大事な友達の顔が曇っているのは本当に耐えがたい。俺は内心割りと必死で頑張った。
勿論、その間にどんどんと眉間に皺寄せてた奴がいることに、気がつかない程じゃないけど、な。
作品名:Twisted tongue 作家名:ろ き