こらぼでほすと 花見4
「うちのを、どうにかできるんならやればいいだろう? 」
「それは、許可するわけ? 三蔵さん。」
「俺は、そっちのことはできん。身体に溺れるタイプでもないし、レクレーションの一環だ。」
「それ、相手が女性でも? 」
「あいつに、その気があるならな。」
寺に居着いてから、それらしい衝動に動いている気配がない。だから、坊主も、そういうことだろうと理解している。なんせ、今だにフェルトも歌姫もニールと同衾しているのだから。
「余裕だな? 」
「もう、どこにも行くとこがなくて、うちに居るんだ。ここから離れられるなら、それでもいい。」
「まあ、そういうことだよな。」
坊主の言葉が、今の状況を的確に言い表している。ニールは、組織に戻れない。坊主が女房にしたから、ここに居場所を決めたのだ。だから、何かしらニールが動けるのなら止めるつもりはない。たぶん、動けないだろう。すっかり、ここに居ることが当たり前になっているし、新しい関係を築くだけの気持ちもないからだ。
「俺も、ちょっとナンパしてくる。」
「おう、店に遅刻すんなよ? 」
せっかくの自由時間だ。ちょっとは楽しんでまいりましょう、と、ハイネも気持ちを切り替えて寺を出た。
戻りたい、とは女房は考えているだろう。だが、そうは問屋が卸さない。全力で、マイスター組も年少組も阻止するはずだ。だから、結局のところ、女房は寺に居ることになる。女房あるいは、坊主が優先する約束に関することが起きたら、どちらも同居は解消することになるだろうが、それは、ずっと先のことだ。
坊主の携帯にメールが着信した。アスランからの一斉配信だ。黒猫が夕方にはラボに到着するらしい。往復して三日で用件は済ませたとしたら、かなりの強行軍だ。また、どろどろになっていることだろう。それはそれでいいのだ。ドロドロに汚れた黒猫を洗濯するのは、女房にとって楽しい時間だ。
それは、ウインドウショッピングを楽しんでいたアイシャとニールにも届いていた。はい? と、ニールは首を傾げている。往復二日は、かかる場所だ。滞在が一日で、クルジスの状況まで確認できたのか疑問だ。
「早いワネ、ニール。」
「あいつ、挨拶だけしてきたんじゃないのかな。近隣も確認しろって言ったんだけど。」
立ち止まって、そのメールを確認しているのだが、ニールは解せないという表情だ。たぶん、週末になるだろうと思っていたのだ。アザディスタンは中東の小国ではあるが、国家ではあるから、そこそこの広さがある。そこを確認するなら、何日かはかかるはずだからだ。
「お姫サマに尋ねれば、ハヤイワヨ? 国家代表ナラ把握してるハズだもの。」
「あ、そうか。そういうことか。」
アザディスタンの代表を務めているマリナ・イスマイールなら、ある程度、自国の事は把握しているだろう。吸収したクルジスのことも、それなりに刹那に説明はしてくれると、アイシャが言うと、ニールも納得した。自分の肌で感じるのが、刹那のやり方だが、そこまではしなかったのだとしたら、三日で往復は可能になる。
「ニールと一緒ニ、過ごしたければ、ソウなるわよ。・・・・じゃあ、香辛料をゲットしてカエル? 」
「そうだな。アイシャさんのほうは、それでいいのか? 」
「そうね。食事とデザートには付き合ってホシイかしら。」
アイシャも、これといって用事があったわけではない。とりあえず、連れ出して散歩するつもりだったから、ブラブラして食事するぐらいでいい。ニールのほうは、アイシャに教えてもらった中東の香辛料が欲しかったので、大人しく出て来た。だから、その用件だけだ。
「もちろん、それは付き合うよ。」
「あとはナリユキ? おやつの時間までに帰ればいいわね。」
「うーん、おやつ、何にしようかなあ。簡単なとこだと、ホットサンドかな。」
「手抜きは、ドウ? ホットサンドなら買えるものヨ? ゴクーには大きな肉まん? 」
「それでもいいかな。どうせ、みんな、仕事だから、摘めるもののほうがいい。」
とは言っても、亭主は、パンはおやつという認識なので、晩酌用の肴は別に用意する。冷凍している煮物でも出せばいいか、と、頭で算段できた。悟空のおやつ量は生半可ではないので、大きな肉まんを、いくつか腹の底に沈めておけばいいだろう。先日、アイシャも悟空のおやつを作ってみて、量は実感したからの言葉だ。
「帰り際に、食品売り場に立ち寄ってもいい? アイシャさんも、うちで食うだろ? 」
「ソウね、アンディが迎えに来るマデ遊んでるワ。」
刹那が戻るのは、夜になるだろうから、それまでアイシャが寺に滞在して、ニールの相手をする。一人にしておくと碌なことがないから、そういうことになる。
作品名:こらぼでほすと 花見4 作家名:篠義