こらぼでほすと 花見4
虎は、ニールの意図するところも理解している。考え方の違う人間と接触することで、思考の展開を広げたいということだ。確かに、ひとつの考えを纏めるのに、選択方法は多岐に渡っているほうがいい。
「でも、バカだよな。せっかく、刹ニャンが降りて来たのに、わざわざ行かせるなんてさ。」
「それが親ってもんなんだろう。ニールとしては、黒ちびの先のことが優先だ。どうせ、速攻で行き来するから四日とかからん。」
一応、虎は刹那の予定は確認した。真夜中に王宮に侵入して、マリナ・イスマイールに挨拶して戻って来ると言っていたから、滞在時間は短いはずだ。
「キラ、適当に寺に顔を出せ。」
「了解。アスラン、この後、少し早めに戻って、おやつにありつかない? 」
「そうだな。俺たちが騒げば、少しはマシだろうな。」
アスランはキラの提案に、ふたつ返事で頷いた。命じて刹那を外へ出したが、明らかにニールは、しょんぼりしているのだ。昼間は、坊主が相手をしているし、バイトにも出て来ているが、表情に、いつもの生彩がないのはアスランも気になっていた。
「シンとレイは忙しいらしいかなあ。アイシャも派遣しておくか? 」
「そうだな。時間があるなら、そうしてもらえるかい? 虎さん。里のお父さんも気にしてたからさ。」
理性と感情は違うものだ。刹那のために必要なことを、ニールは命じているが寂しいものは寂しいらしい。それなら、言わなきゃいいのに、と、ハイネは苦笑する。それが、実にニールらしいとは思うからだ。
「夜は、間男の俺が、お相手させてもらう。」
「おまえ、なんなら趣旨変えしたら、どうだ? ハイネ。疲れて寝かせるなら、いい方法だぞ? 」
「・・・・虎さん、マジすぎて怖い。」
「半分、真面目な話だ。」
「いや、無理。ほんと、無理だから。それなら、三蔵さんに言ってくれよ。あっちが本筋だろ? 」
ハイネの言い分は、もっともなことだが、虎は半眼になって、そのハイネに視線を投げた。
「おまえ、もう5年も夫夫として同居して、何もないやつらが、今更、どうにかなると思うのか? ママニャンのことだから誘うぐらいはやってるだろ? 」
「はあ? 」
「鷹さんが言ってた。『亭主は俺なんかでは勃たないんですよ。』って苦笑してたらしいから、そういうことだろ。」
流されて、あそこに流れ着いたニールは、もう今更、男女がどうとかで拒否するつもりはないだろう。自分から、積極的にどうにかなろうというつもりもないのだろうが、亭主が、その気なら付き合うつもりはあるらしい。だが、それでも、どうにもなっていないのだから、そういうことだ。
「ママニャンが誘う? 」
「そうらしい。てか、いつも、そういう会話してるだろ? 」
まあ、しょっちゅう、その手の会話はしている。それでも、亭主は乗らないし、女房も、それ以上には誘わないから、そのまんまらしい。
「あーそうか。確かに、会話はしてるよな。」
その場面を一番、目撃しているのもハイネだ。どっちも冗談の掛け合いみたいになっているから、気にしていないが、確かに誘ってはいるし、全力で拒否もしている。5年続けても進展がないのだから、そういうことだ。
「だから、って俺に振るかね? 虎さん。」
「ハイネ、半分、本気でママが好きじゃない? だから、でしょ? 虎さん。」
「まあ、半分だから、今の関係は維持されてるんだろうけどね。全部本気だったら、三蔵さんに叩き出されてるはずだ。あの二人、あれでいいんだろうと俺も思うよ? ハイネ。」
キラとアスランも、クスクス笑って頷いている。身体の関係だけが繋がりではない。ただ、寄り添って暮らすのも、夫夫の形ではあるだろう。寺の夫夫を見ていると、熱愛新婚夫夫なアスランとキラでも納得できるらしい。
「ということだ。だから、趣旨変えを勧めてるんだ。まあ、その様子じゃ無理そうだな。今のまま、間男で居れば問題はない。とりあえず、明日はニールの相手をしていろ。ラボは、ダコスタに任せる。」
「はいはい、俺も、その意見には同意する。あいつら、ほんと仲は良いんだよ。俺が見てても入れないぐらいにさ。」
明後日の夜か、その翌日の朝には黒猫が戻って来る。それまで、ハイネがニールの相手をしておくことになった。
『吉祥富貴』の仕事が終わって、一同で戻って来ると、適当に夜食を摂って就寝だ。最後の仕舞湯を出てニールが戻る頃に、ハイネも脇部屋の布団に転がっていた。ペーパーバックを片手にビールを飲んでいる。
「クスリ。」
「わかってるよ。」
就寝前のクスリを指摘すると、相手も文句を垂れつつ口にする。もう、それほど必要ではなくなっているが、安定剤の軽いものと免疫力を高めるものだ。おやすみ、と、布団に横になったニールに、ハイネがにじり寄った。
「なあ、俺とやらない? 」
「え? ・・・・やりたいなら付き合うけど? 俺、冷凍マグロだからな。それでいいなら。」
冗談のつもりで誘ったら、この返事だ。身体なんて、どうでもいいという態度なので、ハイネは笑い出した。ほんと、壊れているのだと、こういう時に思い出す。自分のことに無頓着なのも、ここまでくると壊れているとしか言えない。
「冷凍マグロか・・・・いいな? その例え。」
「・・・ハイネ・・俺、もう眠いんで・・・やるなら勝手に・・」
「バカッッ、冗談だよ。おやすみ、ママニャン。」
「・・はいはい・・おやすみ・・・おまえ・・・たまってんなら、どっかで抜いて来いよ。・・・・俺なんか・・・・」
即効性の安定剤なので、すぐに眠りに誘われていく。最後まで台詞は吐かなかったが、想像はつくので、ハイネも自分の布団に入る。俺なんかの後は、楽しくないだろ? だ。
・・・・そうなんだ・・・おまえじゃ、俺も勃たないんだよな・・・
ハイネもノンケだから、ニールの身体には欲情しない。そちらの気があるなら、据え膳状態なのだろうが、生憎と、そういう気分で盛り上がらない。いい相手なのだが、先に身を寄せる場所を作ってしまったから、そこからは引き摺りだせないのだ。ニールには、何よりのことだとハイネも思っている。だから、虎の意見には従えない。身を寄せた場所は、ハイネよりも器の大きな坊主が住む場所だ。ニールが何かやらかしても、対処するだけの技量がある。ハイネには、そこまでの器がない。だから、引き摺り出すと、ニールは弱るだろう。
・・・ちょっとディープに友情なんだよなあ・・・・・
残念で安堵する。この関係が、自分にも何よりだ。そのうち、ハイネも処変えをする。それまでは、こんなふうに付き合えれば楽しい。
「そろそろ、散歩でもするか? ママニャン。」
明日は、オフなので、どこかへ連れ出してやろうとハイネも明かりを消して目を閉じる。日中なら気候も良くなってきた。そろそろ、歩くぐらいは大丈夫だろう。
と、ハイネが心の予定にメモしていたのに、アイシャが朝からやってきて、ニールを連れ出して行った。「アンディが、『ハイネにも自由時間を。』って言ってたわよ? 」と、伝言を残した。寺に残ったのが、亭主と間男という陣容だ。ハイネが起きた時には、すでに、アイシャもニールもいなかった。
「見透かされてるみたいだ。」
作品名:こらぼでほすと 花見4 作家名:篠義