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オトメラブコメレンアイジジョウ

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「てめぇの趣味で着飾らせたセーシェル見て、俺が喜ぶとでも思ってんのか」
 美的感覚に関しては間違いのないフランスのコーディネイトだが、あきらかにイギリスの趣味ではない。うっかり見誤ったのではなく、意識的に外したのだ。
 「ふふん」と気持ちよさそうな笑い声が聞こえてきて、イギリスの頭に血がのぼる。
「ちょっとしたファッションショーみたいでさ、セーシェルも喜んでたよ」
「んだと?」
「ちっちゃい子どもだと思ってたけど、あーいうところは女の子だよねぇ」
 被服には糸目をつけないフランスのことだ、いろんな種類の水着を買い取って、あれこれと試着させたのだろう。ブティックの一角で。この男の目の前で。普段よりも布地の少ない格好をいくつも披露したのか。セーシェルはその柔肌をさらしたのか。
 めまいがした。
「イーギリス」
 言葉を失ったイギリスに、フランスもまた少しだけ不穏な色をひとしずく、その声に混ぜ込んで。
「俺だってさ、悔しいのよ?手塩にかけて育てた子を取られたんだから」
 でも横から取り返してやろうだなんて、フランスは欠片も思っていない。男と女というよりは、彼女の父か兄のようなものだし、セーシェルも本気でイギリスを好いていると知っているからなおさら、ふたりをひき離そうだなんて画策していない。
 けれど、久しぶりにあったセーシェルから散々のろけ話を聞かされて、国際会議場の廊下の死角でふたりがイチャついているところをうっかり目撃してしまって、フランスが面白いはずがないわけで。
「俺の好みでセーシェルを着飾らせてやるくらい、大目に見てくれたっていいじゃない?」
「ふざっけんなこの野郎ッ!」
 フランスの気持ちは分からなくもないが分かりたくもない。ハイそうですかと黙っていられるイギリスではない。セーシェルに関して、悲しいほど欲深くなってしまう。
 持てる語彙を駆使したイギリスの罵倒を途中で遮って、ふざけたあいさつと共にフランスは一方的に通話を切った。
「んじゃイギリス、いい休日をー!アッデュー!」
「切るんじゃねぇ!待てコラ話はまだ……ちくしょうあいつマジで切りやがった!」
 聞こえてくるのは、ツー、ツー、というむなしい機械音だけ。イギリスは力任せに、携帯電話を砂の地面に叩きつける。
「なにやってんですか」
 ひと泳ぎして戻ってきたセーシェルが、パレオの水気を絞りながら、砂に半ば埋まったイギリスの携帯電話を見下ろしている。
「なんでもねぇよ。早かったな」
「そうかな?いつもこんなもんですよ。あースッキリしたっ」
 両のこぶしを突き上げて、セーシェルは大きく伸びをする。気持ちよさそうな顔からは、すっかり険悪な空気は消え失せていた。南国気質とは、かくも移り変わりが激しいものなのか。
 せっかくのヴァカンスにセーシェルとふたりきりだというのに、イギリスも怒っているのが馬鹿馬鹿しくなってきた。ここに来てまであの男のことなんて考えたくはない。
「ごめんね、イギリスさん」
「なにがだ」
「フランスさんとお買物に行ったこと、怒ってるんでしょ?」
「……さぁな。悪いと思ってねぇなら、謝る必要なんてないんだぜ」
 言うと、セーシェルは神妙な顔をして、首を横に振る。
「やっぱ、私がイギリスさんにおんなじことされたら嬉しくないから、よくなかったかな、って」
 セーシェルは純粋に、自分に似合う水着が欲しかったのだ。それで、気易く相談ができて、なおかつ確かな美的センスを持ち合わせているフランスに声をかけただけ。他意がなくとも、イギリスの気を悪くさせてしまったのなら、元も子もない。
 少しだけしょんぼりとしているセーシェルの頭を、イギリスはぽふぽふと叩いてやった。
「分かってりゃいいんだよ、もう」
「本当にね、フランスさんは家族みたいなもので、それだけで、」
「分かったって」
 怒ったらお腹が空いた。何か食べたいと言えば、そろそろお昼にしましょうと、セーシェルは顔を明るくしてイギリスの手を取った。
「そうだ、明日は違う水着を着ますね」
「だからもういいってのに……」
「かわいーのを見つけたんですよ。ワンピースでリボンがアクセントになってるやつ。これは最終的にフランスさんにオッケーもらいましたけど、私が自分で選んだんです」
「へ?」
「イギリスさん、こういうのの方が好きそうだなーと思って」
「……っ」
「イギリスさん?」
「おまえってやつは、もう!」
「わひゃっ」
 ぐいっと手を引いてセーシェルを抱き寄せる。まったく、油断ならない。イギリスのために選んだって?
 最後にとんだ殺し文句を用意していたものだ。




End.